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脳卒中ガイドラインと流行

23 時間前
読了時間: 5分

最近、2026年のアメリカの脳卒中リハビリテーションのガイドラインで、ボバースが歩行や上肢機能の改善を目的とした介入として「推奨しない」とされた、という話を目にしました。

それを受けて、

「ボバースではなく、task-specific trainingを行うべきだ」

というような話も、今後さらに増えてくるのかもしれませんね。

違和感がありますね。(^_^;)


現在のリハビリ研究は、どこまで一般化できるのか

リハビリテーションの研究というのは、非常に難しいものです。

同じ脳卒中でも、

  • 病変部位

  • 重症度

  • 発症からの時期

  • 感覚障害

  • 認知機能

  • 疲労

  • 痛み

  • 本人の意欲

  • 生活環境

  • 治療者の技術

などによって、患者さんの状態は大きく異なります。

さらに、同じ「ボバース」と書かれていても、実際に何をしたのかは治療者によってかなり違います。

同じことはtask-specific trainingにも言えます。

「課題特異的練習」と言っても、何をどの程度、どのようなフィードバックを与えながら、どんな環境で行ったのかによって、その中身はまったく異なります。

つまり、現在の研究から言えることの多くは、

「ある条件において、ある集団では、このような傾向がみられた」

というところまでなのだと思います。


「科学的に支持されている」と「真実」は同じではない

科学では、ある仮説が何度も研究され、一定の結果が得られると、その考え方が次第に広がっていきます。

そして研究が増えれば、メタ解析が行われ、ガイドラインにも掲載されます。

そうすると、

「現在もっとも科学的な方法」

というような扱いを受けるようになります。

しかし、それがそのまま「真実」であるとは限りません。

たとえば最近では、

  • task-specific training

  • repetitive training

  • high intensity

  • goal-directed training

といった言葉を頻繁に目にします。

もちろん、これらを支持する研究は存在します。

ただし、これらが本当にリハビリテーションの本質なのか、それとも現在の研究方法で扱いやすいから研究が増えているのかは、少し分けて考える必要があります。

測定しやすいものは研究されやすい。

研究されやすいものは論文が増える。

論文が増えれば、エビデンスが蓄積したように見える。

そしてガイドラインに掲載される。

こうした循環によって、ある考え方が大きな「トレンド」になることがあります。


task-specific trainingが独り歩きしていないか

私は特に、task-specific trainingという言葉が少し独り歩きしているように感じることがあります。

あたかも、

「ボバースは課題を扱わない」

かのような理解です。

しかし、実際の臨床でボバースを学んできた人であれば、これは少し違和感があるのではないでしょうか。

立ち上がりも扱います。

歩行も扱います。

リーチも扱います。

日常生活動作も扱います。

違いがあるとすれば、「課題を扱うか扱わないか」ではなく、

その課題をどのように分析し、どのような身体条件や環境条件を変化させるのか、

という臨床推論の部分でしょう。

したがって、

「Bobath vs task-specific training」

という二項対立そのものが、少し乱暴なのかもしれません。

本来問うべきなのは、課題を扱うかどうかではなく、その課題をどのように捉え、何を変数として介入しているのか、ということなのだと思います。


科学と「スタイル」は分けて考えた方がいい

私は、臨床家にはそれぞれのスタイルがあってよいと思っています。

運動学習を重視する人。

感覚入力を重視する人。

身体の状態変化を重視する人。

反復量を重視する人。

自発性を重視する人。

それぞれが、自分の経験や知識、そして科学的知見をもとに、自分なりの臨床スタイルを作っていく。

それは悪いことではありません。

問題なのは、

「科学がこう言っているから、これが正しい」

と、自分のスタイルを科学そのものとして語ってしまうことです。

科学的知見というのは、本来もっと限定的なものです。

「この条件では、この傾向がみられた」

という結果を積み重ねながら、少しずつ仮説を修正していく。

それが科学なのだと思います。


ガイドラインは「正解集」であってはいけない

ガイドラインが必要なのは分かります。

臨床現場では、何かしらの意思決定をしなければなりません。

しかし、特にリハビリテーションのように個別性の大きな領域では、

「推奨する」

「推奨しない」

という表現だけが独り歩きすると、少し危険です。

ガイドラインは、

「この方法が正しい」

という正解集ではなく、

「現在の研究では、ここまでは分かっている。ただし、ここから先は分かっていない」

という地図である方がよいのではないでしょうか。

そして、その地図を使って、どの道を選ぶのかは臨床家と患者さんが考える。

私は、そのくらいの距離感がちょうどよいと思っています。


ガイドラインが流行を作ってはいけない

ある治療法が支持される。

研究が増える。

論文が増える。

ガイドラインで推奨される。

そして教育の中でも強調される。

こうして一つの大きな流れができます。

しかし、それは時として、

「現在支持されている」

から、

「正しい」

へと変化してしまいます。

さらに、

「それ以外は間違っている」

というところまで進んでしまうことがあります。

そこまで来ると、科学というよりも、流行に近くなります。

ガイドラインは、流行を作るためのものではありません。

ましてや、流行を追いかけるためのものでもないはずです。

科学的知見は、臨床家のスタイルを支える材料にはなる。

しかし、臨床家のスタイルそのものを科学と呼んではいけない。

そしてガイドラインは、その時代のトレンドを「科学的な正解」として配布する装置になってはいけない。

私はそう思います。

科学的であるということは、現在支持されている考え方を信じることではありません。

むしろ、

「本当にそうなのだろうか」

と問い続けることなのではないでしょうか。


私は、科学的な思考をする人ほど、現在の「正解」に慎重であると思っています。

そうであってほしい、という私自身の願いもあります。

科学とは、正しい答えを持つことではなく、今持っている答えを疑い続けられることなのだと信じています。



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