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神経修飾物質

脳生理学や解剖学を学ぶ時に割と意識するのがニューロンの接続です。どこの神経細胞がどことどのようにつながっているのかと言ったことは、機能的な側面の理解や、その際に行われている情報処理のあり方などを考えていくのにとてもわかりやすいのです。多分、この神経のつながりと機能を考えていく時に使われる言葉として、TRACT(神経回路)というのがあるのだと思うのです。


こう言った神経同士の接続による情報伝達の他に、広範囲投射系とも言えるような情報伝達の方法があります。

この図は、高草木薫先生の「基底核と睡眠」という発表から引用させていただいております。

この図で示されているのは、コリン、セロトニン、ドーパミンですが、ノルアドレナリンも後半に投射しています。

下の図はインターネットで見つけた高草木先生のものです。


さて、こう言った広範囲への投射は、シナプスの活動を広く修飾しているわけです。この広範囲に及ぶ投射は特定のシナプスを対象にした情報伝達ではなくて、伝達物質が全体的に放出されていて、ターゲットとなる神経群の活動を全体的に調整していると言った感じで私は理解しています。


これらの働きについて簡単に。


コリン系

アセチルコリンは、神経伝達物質として初めて発見された物質です。神経筋接合部では筋の収縮を促すことで有名ですね。脳の神経細胞では抑制に働きます。神経細胞の興奮を抑えることで、新しい情報を受け取れる様にすると言った働きです。大脳皮質では覚醒に関わっていて、セロトニンと違い認知から覚醒を促すような経路を示しているように感じます。足りなくなるので有名なのはアルツハイマーですね。


セロトニン系

セロトニンは報酬系の物質ではあるのですが、脳幹網様体においては促通系。ただ、セロトニンの受容体にも興奮性セロトニン受容体と抑制性セロトニン受容体に別れますので、やはり一概には言えません。まあ単純では困るわけです。興奮の調節系と思ってください。ただ、橋網様体脊髄路においてはセロトニン濃度が増えると促通になり、それが視床下部に上行すると覚醒の脳波を促します。逆に少なくなると調節は利かないし脳の興奮性は著しく下がることになります。うつ状態ですね。増えている場合は過覚醒で躁状態と言えます。


ドーパミン系

ドーパミンは他の伝達物質と違ってターゲットが絞られています。基本的に報酬系の物質で基底核を中心に辺縁系(特に側坐核は報酬系に強く関わり行動や動作の決定を促します)、前脳基底部、視床などで働きます。ドーパミンが過多になると基底核の抑制機能は弱くなり、視床を介した皮質の活動性が必要以上に促通されることになります。それで色々見えたり聞こえたり。情動の起伏も激しくなったり。統合失調症ですね。減ると、情動の起伏が減少したりして鬱にも関わっています。ドーパミンの減少ではパーキンソン病が有名ですね。


ノルアドレナリン系

ノルアドレナリンはアドレナリンの前駆体とも言えますが、働く受容体が異なります。しかしいずれも闘争か逃走かという伝達を行います。セロトニンとともに交感神経系の興奮に関わります。ノルアドレナリンが過多になると常に闘争か逃走かといったモードで交感神経系の興奮が収まりません。逆に低いとそういった反応は乏しくなります。また(情動的な)記憶にも関わっており、トラウマなどの心的外傷やストレス症候群はノルアドレナリンと海馬の関わりが強くなっている状態ですね。

これも鬱に関わる物質です。鬱ではノルアドレナリンが少なくなります。当たり前の話ですが、うつの人はイライラしたり怒ったり逃げたりしません、というかできません。


他にも色々ある様ですけれど、これらの神経伝達の修飾物質が脳の全般的な情報伝達のあり方を決めていく様な感じで働いているわけです。


大切そうでしょ。

記憶。知覚/認知や情動。行動や運動の選択。姿勢制御。

全ての脳の情報処理にこう言った広範囲調節系が働いているわけです。トラクト(神経回路)の働きを、どの様に働く事が最も環境に対して適応的かなどの方向づけはこういった投射系の働きが必要なのです。


そうするとですね。

この広範囲への伝達物質の流れがどうやって補償されているのかという事が気になります。

以前脳外科の先生に伺った時は、明確な答えを得る事ができなかったのです。

ですが、こういった伝達物質が拡散していくような伝達の形式(拡散性伝達)を考えると、おそらくですが、脳の隙間である細胞外スペースが重要な働きを担っているのではないかと思います。

細胞外スペースは通常覚醒時に脳実質の20%ぐらい存在しているとされています。

これが脳損傷急性期によくある脳浮腫の状態では5%程度になるそうです。

大変そうですね。


正常であっても、睡眠や覚醒などの状況でこのスペースは変化する様です。

細胞外スペースの物質を適正にた持っているのはグリア細胞です。特にアストロサイトは重要そうな働きを持っています。他のが重要ではないということではないですけれど。

ノルアドレナリンが多く放出されると細胞外スペースが減少するとの報告もあるので、ストレスなどは脳の環境を悪くして、こう言った拡散性伝達を阻害してしまうことも推測できますよね。


興味が湧きましたら、是非、ご自分でも色々調べてみてくださいね!



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