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ミトコンドリアと脳損傷リハビリテーション

ミトコンドリア。(^^)

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図はWikipediaよりお借りしています。⑨がおなじみミトコンドリアですね。

細胞の中に存在していて、栄養素を酸化してATPという形のエネルギーを作り出す細胞小器官です。

筋繊維(筋細胞)等は、エネルギーを利用しているのはイメージつきやすいかもしれませんが、脳の神経細胞も伝達物質の産生、放出、軸索の伸張によるシナプス形成や物質輸送などにエネルギーが必要ですので、神経細胞内に多くのミトコンドリアを含んでいます。


ミトコンドリアはどの様にATPを作り出しているのかというとご存じTCA(クエン酸)回路ですね。

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ブドウ糖は、細胞内で解糖系により分解され、1分子のブドウ糖から2分子のピルビン酸と少量(2分子)のATPが生成されます。

このピルビン酸は酸素がある場合はミトコンドリアに取り込まれて大量にATPを産生するようなメカニズム〜TCA回路と電子伝達系(酸化的リン酸化)が働くことになります。

酸素が無い場合は、ピルビン酸はミトコンドリアに取り込まれず、細胞質で乳酸に変えられることになります。この場合、ミトコンドリア内でATPは産生されないという事になりますね。

ミトコンドリア自体は軽微な損傷がある場合、融合(損傷を受けたミトコンドリアが健康なミトコンドリアとくっついて内容物を共有する)・分裂(損傷部位を切り離す/数を増やす)・ミトファジー(傷ついたミトコンドリアの選択的除去)といった自己修復能力/増殖能力があるのですが、これらの働きもATP依存なのでATPが枯渇すればミトコンドリア自体が自己修復能力を失い、分裂/再生も行えずに減少することになります。細胞からミトコンドリアが失われれば、その細胞はアポトーシス(細胞死)を起こすことになりますね。


酸素は大切ですね。(^^)

みんな大切なんですけどね。(^_^;


さて、神経細胞は、このATPを利用して伝達物質の産生、放出、軸索の伸張によるシナプス形成や物質輸送などをしているわけです。


脳損傷が起きると、血流が減少或いは途絶し、酸素やブドウ糖供給が出来なくなるので、神経細胞も細胞死を起こす訳ですが、ペナンブラ領域における神経細胞も潤沢に血流が在るわけでは無いので、細胞死を免れていても、このミトコンドリアは減少し、ATP不足となっていることは推測できますね。


実は、脳全体としてみたときに、こうしたときのセキュリティシステムも持っているようです。

という研究報告があります。


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この研究は、アストロサイトからニューロンへの能動的ミトコンドリア譲渡を実験的に初めて明確化したものです。


アストロサイトが神経細胞のエネルギー枯渇を防いで、脳卒中後の神経細胞の生存と回復を支える可能性が示唆されていますね。


素晴らしい!(^^)


しかしですね。アストロサイトもミトコンドリアが作り出すATPによって様々な働きを行っているわけです。そして、アストロサイト内のミトコンドリアも無限に在るわけではありません。そして、アストロサイトもミトコンドリアを失えば細胞死に至るわけです。


そして、アストロサイトは神経可塑性の為の土壌を作るような仕事をしているので、アストロサイトの細胞死は脳の可塑性を遅らせてしまうことになるわけです。


このことを考慮すると、脳卒中急性期にペナンブラ領域にある神経細胞やグリア細胞は循環障害により慢性的なエネルギー不足/酸素不足といった状況にあるわけですから、この時期に過度にこうした部位を活動させることは、結果的に神経細胞内のミトコンドリアのミトファジー(選択的除去)を促進してしまい、アストロサイトは一生懸命に自分のミトコンドリアを神経に受け渡し、そしてアストロサイト自体も細胞死を起こしてしまうのは容易に想像が出来ますよね。


昔、日赤に勤めていた時期に、超急性期リハビリテーションがもてはやされていて発症後24時間以内に介入した経験があるのですが、実際介入すると一瞬分離運動が回復するように見えたケースが多かったです。しかし、ほぼ例外なくその直後にそうした運動機能は再び見られなくなり、翌日は麻痺が進行していると行った事を経験していました。

その際は中枢性疲労かと考えていたのですが、経過を考えると、そうした超早期の介入によってむしろ神経細胞やアストロサイトのエネルギーを枯渇させ細胞死を促し、脳の持つ可塑性の可能性を潰していたという可能性が見えてきますね。

AVERTの研究でも超早期にリハビリテーションを行うと運動機能の回復の予後が悪かったというデータが出ていたはずです。

恐らく上記のような機序でそうしたことが起きていたものと思うのです。


すると、脳卒中直後のリハビリテーション効果というのは血流依存性があるのではないかと思うのです。

京都大学が興味深い研究をされておられます。



この研究のプレスリリースを簡単に紹介しますね。


  • 脳梗塞マウスモデル(tMCAO)で、脳内の未成熟なオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)が、低酸素の度合いによって“血管新生型”と“髄鞘形成型”に性質を変えることがわかった。 

  • 特に、強い低酸素環境下で前処理したOPCを静脈注射することで、脳の血流回復と運動機能改善が観察されたというもの。 

  • この研究は、OPCが単なる“髄鞘修復担当”ではなく、“血管再建”にも関わりうるという新しい視点を提示した。

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血管の再生にかかる期間は書かれていませんね。

どの程度血管が出来たら再生とするのかと行った線引きの問題もあって、研究しにくいのかもしれないです。

動物実験では虚血後3~5日で、血管芽の形成が始まり、7~14日で血管密度がピークに近づいて、3~4週間で新生血管が安定化、6~8週以降に血流が安定してくるといった報告がみられます。

実験ですから、他の要因は省いているはずであり比較的良好な結果のみが抽出されていると思われます。

仮にヒトではこのプロセスは2~3倍遅いと仮定すると、現実的には1~3ヶ月ぐらいで初期の血管再建が進み、4~6ヶ月で血流が安定し、その後にグリア代謝やミトコンドリア再生が本格化していく位に考えておく方が良さそうだという事になります。


つまり、脳の可塑性というのが発揮されるのは4~6ヶ月以降であると言えそうですよね。


実は、アストロサイトなどグリア細胞は再生するのですけれど、それも一緒に考えるとさらに時間が必要だと思うのです。


余り知られてはいないようですが、可塑性の窓という言葉があります。脳の情報処理は、一側面から言えば、外刺激が入力されることでそれらを情報処理して出力に換えていくプロセスと表現することが出来ます。

その視点から言えば、外刺激が入力できて、それらの情報処理を学習できる状態は可塑性の窓が開いている状態と言えます。


今までは、脳卒中発症後6ヶ月以内が可塑性の窓が開いた状態であると認識されていたわけですが、上記のような生理学的機序を積み重ねて考えて行くと、寧ろ、6ヶ月以内は可塑性の窓が閉じているか、少ししか開いていないと言う事になりますね。


しかしながら現在のリハビリテーション医学モデルでは、6ヶ月以内が可塑性の窓が開いていると考えられているわけです。

私見ですが、早期にみられる麻痺側運動機能の回復というのは基本的にペナンブラ領域で、さらに幸運にも血流が酷く阻害されていない部分が機能化する側面が強いのでは無いかと思うのですね。

そして、ADLについては、損傷した脳の機能や運動麻痺とは別に、非麻痺側の代償動作を非損傷側脳が学習するプロセスと結果であって、損傷した脳の可塑性が発揮された結果ではないと言えます。


脳の可塑性が発揮できるのはあくまで、4~6ヶ月以降で、もしかするともっと時間がかかってからの可能性もあるわけです。実際、脳卒中発症後数年経過した人の上肢が動き始めることは結構見かけることであったりします。


これらのことを踏まえると、現在のリハビリテーションの在り方というのは再考する必要があるように思うのですね。


超急性期~亜急性期では残存しているミトコンドリアを保護し、残されているアストロサイトなどグリア細胞と神経細胞を保護するため、


・自律神経系の制御:脳内アラート(ノルアドレナリン)を抑制し、グリンパティックシステムの機能を維持/改善させる為、安静とリラックスを優先する。


・体性感覚入力による安定化:過度な興奮を伴わない、質の高い感覚入力によって身体定位(ボディ・スキーマの改善)を図ることで、不安や緊張(交感神経の賦活)を最小限に抑える。


・活動の最小化:廃用症候群を防ぐ目的に限定した、極めて低負荷の介入。高頻度・高負荷な離床は厳に避ける。


回復初期においては、


・代償学習の意図的な抑制:ADLは非麻痺側中心で効率化されるが、後の可塑性をスポイルしないように、麻痺側の使用を意識させるような課題の導入。代償動作を過度に習慣化させないようにPT・OTが介入する。


・可塑性への準備:脳のエネルギー効率を高めるために、ミトコンドリア生合成を促す低負荷の有酸素運動を安全な範囲で導入する。


・休息と睡眠の確保:グリンファティックシステムによる脳内環境の洗浄を促す為に、睡眠時間の質と量の確保を徹底する。


回復期後期以降に、脳の可塑性を生かした麻痺側の運動機能の促通と両側動作の徹底と行った課題を導入していく。


病理学的に考えると、脳卒中リハビリテーションの流れはこうした方が自然では無いかと思うのです。


勿論、年齢や社会における立場を配慮して、急いで復帰が必要な人であるとか、高齢であって一刻も早く家に復帰することを望まれる人は現在のプログラムでも全く問題が無いと思うのですが、麻痺の回復を願われる方達にはこうしたプログラムの方が有効である可能性が高いと思うのです。







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