top of page

膜電位とグリンファティックシステムから考えるリハビリテーション

更新日:2023年8月8日




(図:カンデルより)


神経細胞は細胞内にカリウムイオン(K+)を多く含んでいてナトリウムイオン(Na+)は少なく、細胞外の間質液にはナトリウムイオン(Na+) が多くてK+は少ない状態です。細胞内にはカルシウムイオン(Cl-)などのマイナスイオンも存在しています。K+とNa+はともにプラスイオンですので反発しています。K+は細胞外の間質液に少ないので濃度を一定にするには細胞外に出たがっている状態です。それをNa+が反発しているので一定の均衡状態をとっていることになります。この状態で静止膜電位が生じています。

細胞が刺激されてナトリウムイオンチャンネルがわずかな間開く(膜興奮)と、細胞内のNa+は細胞外のNa+の濃度より低いので、細胞の膜の中にNa+が流入してきます

すると細胞内は+の電位に変わります。この後にカリウムイオンチャンネルが開くとK+は外に出て電位は元に戻ることになります。そして、ポンプの働きで細胞内と細胞外の液が最初の濃度の状態に戻る仕組みになっているようです。

さて、脳損傷が起きた際神経細胞は壊れるわけですが、壊れると細胞内の液が細胞外の間質液に放出されることになります。すると、細胞内のK+が間質液に流れ込むわけですから生き残った細胞の細胞内の液と細胞外の間質液のバランスは細胞外のK+が濃くなることになります。

正常な状態では、間質液のK+の濃度が低くカリウムイオンチャンネルが開いた際にK+が外に出ることで膜興奮の後に電位を下げる作用があるので、この作用が上手く働か無くなって細胞は興奮しっぱなしの状態になるのではないかと推測します。

また、その後はポンプがなんとか細胞内外を元の濃度の比率に戻そうと働き続けるのですが、間質液自体すでにK+が多くなっているので元の状態には戻りません。だから一生懸命ポンプは働き続けて、そのうちエネルギーがなくなります。そして生き残っていた細胞も破裂したりして死滅していくことになります。


ですので、生き残った細胞の生存確率を上げるためには、間質液の交換がスムーズに起きれば良いという話になります。間質液の流れにはグリンファティックシステムが関わっていることになります。アストロサイトが血管を包み込んでいて、アストロサイトにあるアクアポリン4という水チャンネルが動脈側から水成分を脳の中に取り込むことで間質液の交換を促進しています。一方、ノルアドレナリンが放出されるとアクアポリン4が減少し、間質液の交換能力が低下することになります。




脳損傷が起き、内部ストレス状態がおきたことによる脳内アラートシステムによってノルアドレナリンが大量に放出されます。するとグリンファティックシステムは間質液の交換能力が低下するので、間質液内のK+の濃度がなかなか元に戻らなくなります。

その状態で早期離床だと言ってさらにバランスの悪い状況に適応させようとすると交感神経系は賦活されるでしょうから、ノルアドレナリンの放出を強めるような事になるのではないかと思います。

特に急性期の脳損傷においてリハビリテーションアプローチのあり方を再考しなければならないとされる時期は必ず訪れます。

様々な姿勢に適応していただく必要はありますが、十分リラックスした状態で姿勢に適応できるような工夫が損傷を免れた神経細胞を保存させる方法となり得るのではないかと思います。


ちなみに、グリンファティックシステムは覚醒時に働きが弱く睡眠等の休息時に働きを強めると言われています。


姿勢としては立位や座位より臥位のほうが働くとも聞いたことがあります。これは姿勢(支持面)と自律神経の関わりを考えると、抗重力的になれば交感神経系が賦活し従重力的な姿勢が副交感神経系を賦活しているからなのではないかと推測します。

脳損傷の初期は臥位でリラックスができないかたも数多く診てきました。

急性期においてリラックスできるよう体性感覚が入る様に、つまり身体のパーツそれぞれが接触面から体性感覚情報を脳に送って身体が定位(ボディースキーマが成立)するような介入は多分、優先事項です。

1日のうちでリラックスできる時間は十分リラックスして休めるようにすることや、一週間のうちにリラックスできる日をつくるなどの工夫が損傷を免れた脳神経細胞を救っていくのかもしれません。

次に、急性期を超えた時期を考えます。

学習にはある程度の時間ノルアドレナリンがアストロサイトに働きかけて環状アデノシン一リン酸(cAMP)というセカンドメッセンジャーを出す必要があるようです。

しかしながら頑張っていないとできないことを継続することは常に交感神経系の興奮を必要とするためグリンファティックシステムの持続的な不活性を招いて脳内環境の悪化による学習効率の低下の可能性もありそうに思います。

ですから、動作が出来るとか出来ないという評価基軸だけではなくどのように行えているのか、すこしでも楽に行えるようになるためにどういった感覚-運動経験が必要なのかと言った推論を立てることと、刺激の強さ/刺激時間/休息の組み合わせをどのように取り扱うかという課題が出てきます。

まだグリンファティックシステムやグリアの働きや、それらがニューロンにどのような変化を与えるのかなどの情報は不十分である状態です。だからこそ臨床的に刺激強度や時間、休息などの関連性について学習効率がどうなのかと言うことを意識しながら十分観察して考えていく必要性は高いといえます。


以下のサイトを参考にさせていただきました。



閲覧数:157回0件のコメント

最新記事

すべて表示
bottom of page