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リハビリって効果ある?ない?

リハビリを受けておられるヒトや、これからリハビリを受けてみたいと思われるヒトは素朴にその効果があるのか無いのか疑問に思ったり、どんなリハビリがいいのかと情報を集めておられるかたもいらっしゃるのでは無いかと思います。

​個人的には、ボバースコンセプトによるアプローチは効果があると感じています。

ここではそんな情報を書いていきたいと思っています。

何かこういった情報が欲しいとか、聞きたいことがある人がおられましたら、お問い合わせから質問をいただければお答えして行きたいと思います。

さて、

果たしてリハビリに意味が、効果があるのか?それとも無いのか?

あなたはどう思います?

保険外リハビリ事業を始めて3年目に入り思うこと

​保険医療体制を飛び出して、まる2年が経過して様々な経験をさせていただきました。そんな中で医療保険下で働いていたときと少し違いを感じ始めております。そのことについて少し書いておこうと思います。

やはり病院などの施設は様々なしばりがあって、運動機能の回復よりも能力の回復を優先させているのだと感じます。

いろんなところで何度も書いていますので説明するまでのないのかも知れませんが、運動機能の回復と能力の回復は同じではありません。運動機能の回復は何かしら能力改善につながりますが、能力の改善は運動機能の回復を伴っていなくても起きてきます。それはそれで大切なことではあります。

最近、ご利用いただいている片麻痺の人がおられるのですけれど、典型的な片麻痺の歩き方をされておられます。麻痺側下肢のバックニー(反張膝)をおこしながら棒のように床につけて立脚相をつくられます。そのとき麻痺側の手は強く屈曲して肩甲帯は後ろに引かれています。一見すると手には何も回復する機能をお持ちでないようにも見えるぐらいです。

しかし、いったん手の緊張を整えて筋の粘弾性が戻ってくると最初に見た印象と違って、結構自由に動かされるのです。本人やご家族が見てびっくりするぐらい。だけど、歩くと一気に手は屈曲(連合反応と言います)してしまって動きを失ってしまいます。多分、発症直後から数年ぐらいは実際に運動出力は少なかったのかも知れません。しかし、手を使わないことが習慣化(不使用の学習)され、見た印象も動きそうにないので誰も手が随意的に動くことに気付かなかったのでしょうね。もちろん、これはこの方のことであって、すべての人がそうだというわけではないのかも知れませんけれど。

少なくとも、この方はそうでした。

だけど、意識的に使って身体を動かしたりすることが出来ても、その能力を無意識的に使うことは難しいのです。それは、運動のプログラムは存在しているのに、脳の無意識下の運動選択肢に入っていない(基底核の働きによるものだと思われます。)のだろうと。先ほど書いた不使用の学習ですね。

なぜこうなったかを推測してみると、歩行中に手が連合反応で屈曲してしまうのは大きく予後に影響したのだろうと推測することが出来ます。歩くたびに身体にひっつくように屈曲して動きを失ってしまいますから、脳の働きとしてその手を使用するプログラムを選択することは出来にくいと考えられるからです。

って考えて行くと、急性期から回復期にかけてもっと時間をかけて歩き方を学ぶことが出来たら、もしかしたら今と違った状態になっていたのではないかなぁ・・・等と考えてしまうのです。

そうすると、私の仕事の方針としては、いったん獲得した動作のパターンを出さないようにする事から初めて、それから新しい運動や行為を学習していただくようにするという仕事になります。

急性期病院に勤めていたときは、失われた機能や能力を引き出すことだけを考えれば良かったのですが、保険外リハビリ事業を始めてからは、急性期や回復期でつくられて固定的になっている運動パターンを壊していくことを初めに考えなければならないといった作業が結構増えてくるのです。

もっと効率よく全体のリハビリテーションの流れが出来ないのかなぁと思うのですけれど。

その為には、長期的に一連の流れを見ていくという経験が必用ですが、現在の医療制度は病期と期限という制約でPTやOTの仕事が時間で分断されてしまっていますので、なかなかそう言った経験は難しいでしょうね。

何か機会を作って、情報を発信していく必要があるのかも知れないと思ってはいます。

NBM(Narrative-Based Medicine)について

2021/12/12

​NBM(Narrative-Based Medicine)とは、患者の物語と対話に基づいた医療と表現されます。EBMは科学的根拠に基づいた医療と言われる物ですから、少し違うみたいですね。NBMも科学に基づいた判断はするわけですけれど、その患者との対話による病状の経過や患者の抱える本質的な問題など様々な要因によって行うべき医療を決定しようという考え方です。

最近、EBMの勉強会に参加させていただきました。EBMは患者に害を与えないという根本的なところを科学性をもちいて検証し、決定するプロセスを持つようです。

しかしながら、患者に害を与えないというお話を伺った際にふと頭をよぎったのは「大野病院事件」と「脳卒中患者の24時間以内の超早期離床スタディ(AVERT)」の二つのことです。

「大野病院事件」は憶えておられる人は少ないかも知れませんね。産婦人科医がある女性の出産に際して不幸にもお亡くなりになりました。その際に医師が行った医療行為がEBMに沿った物ではなかったのが争点になったように記憶しています。しかし、まわりの医師に聞いたのですが、そのときの情報を報道で聞く限り、その医療行為は一般的とはいえないが選択肢に入るという話でした。EBMには乗らないけれど緊急時の治療の選択肢に入る行為を行った医師が、EBMに乗っていないという理由で訴えられたという経過の様な印象を受けました。ともかく、その状況を重く見た全国各地の医大は必要な医療行為をしても訴えられるという事実を突きつけられ、産婦人科医を大学に呼び戻し、臨床から遠ざけて医師達を守りにはいります。やむを得ない措置だと思います。結果何が起こったかというと、日本の産科医療はあのとき崩壊しました。地元の産科医がいなくなるわけですから大変ですよね。

これなどはEBMの考え方が暴走した一例だと思います。もう二度とこんなことがあってはならないとは思いますが、今後こんなことが起きないという保証はありません。これなどは、EBMが人々への医療行為に制限(害)を与えた一つの例だと思っています。ただ、これはEBMが悪いと言うより、EBMを利用して医療訴訟にした弁護士が悪いのでしょうね。

「脳卒中患者の24時間以内の超早期離床スタディ(AVERT)」については、最近のことですからご存じの人も多いと思います。脳卒中について早期離床が有効であるというエビデンスがでて、とにかく早期離床という流れが以前はありました。ところが、AVERTではそうでもないよと言う結果が提示されたのです。考えてみれば脳梗塞などの症状も緩徐進行する脳循環の不安定な人から、発症後症状がピークになる人まで様々ですし、くも膜下出血や脳出血などもその大きさや脳の受けるダメージもひとりひとり異なるわけです。臨床経験から感じるのは「早期離床で良くなる」のではなく、「早期離床が可能な人は良くなる」のです。原因と結果を逆転させては医療ではありませんよね。

「早期離床で良くなる」というエビデンスを信じてリハビリを行われた結果脳循環の要因で症状の悪化や回復の可能性が低くなった人たちは必ずいます。

多分あの講習会でお話をされておられた先生方はそういった事があったのをご存じなかったのだろうと思います。

EBMは常に正しい物ではありません。科学という物が常に真実を求めて歩み続けている物ですから、正解のない世界が科学だといえます。ですので科学的根拠も正解はない世界なのだろうと思います。

それを補完するのがNBMの考え方です。個人の状態や経験に寄り添って、判断していく治療。

たぶんそうなのだろうと思うのですが、日本の保険医療体制においてEBM至上主義ともいえる風潮があるのは否めない事実だと思います。EBMを教える側はNBMとともにあると言われますが、現状はそうではありません。「大野病院事件」はその典型でしょう。

リハビリテーションは現在の科学でもよくわかっていない身体構造や脳を対象としている以上EBMに頼るのは危険だろうと思います。それは上に述べたように科学的事実の不安定性に起因する害悪の危険性と現在の風潮としてあるEBM至上主義がもたらすデメリットを感じるからです。

リハビリテーションは時間経過の中の医療です。ですので対象となる人の時間の経過に寄り添う医療を選択する方が適切なのだと言うこともできるでしょう。そういった視点から言えばEBMよりNBMの比重を大きくしておく方が対象となる人のメリットに繋がることと信じています。

リハビリは効果があるのか?それとも無いのか?~結論

2021/08/07

さて、結論です。

いままでの記事を読んでいただけるとわかると思いますが、人の身体は筋骨格系/結合組織系/中枢神経系/末梢神経系すべてに渡って可塑性を持っています。回復をする可能性を秘めていると言うことです。

大きくは損傷の程度に左右はされます。

しかしながら現在置かれている状態より少しでも動きやすくなる構造的基盤は常にあると考えて良いでしょう。

では、なぜリハビリしても良くならないと思ってしまう人がおられるのか?

思い当たる原因はいくつかあります。

まず、元の状態に戻るという目標を掲げられておられるかたには、残念ながらすべてを元に戻す効果が無いと感じられると思います。

元の状態に戻ることはいかに再生医療が発達しても無理です。

骨折なども、完全に元に戻るわけではありません。折れていなかったという元の状態から折れていたものが癒合した状態になるだけです。筋肉や腱の損傷も同じです。再生医療も、いったん壊れた組織が再生された状態になるだけで、壊れていなかった状態になるわけではありません。

それを踏まえても動きやすくはなることが出来るのですけれど。

さて、もう一点。これを言ってしまうと元も子もありません。誰もがあまり口に出さないですけれど、ほぼすべてのセラピストは知っていることです。

身体に良くなる可能性がいくらあっても、それを活かせるセラピストと活かせないセラピストがいると言うことです。

セラピストの技術や知識は個々に違います。国家試験を通ったとは言え、そこを起点に学んでいくことや経験できることは様々です。

私たちは知識と技術を提供する職種です。

そういった意味では大工や料理人と本質的には同じです。同じ素材からでも上手に良い家を建てる大工からそうでも無い大工までいるように。同じ素材からでも美味しい料理を作る料理人から、あまり美味しくない物をつくる料理人もいるように。

資格があったところでその知識と技術も様々ですし、その結果も様々なのです。

ですので、リハビリの効果が無いと思われる人は、効果の出せないセラピストが担当したか、効果を出すことの出来ない施設でリハビリを行ったのかのいずれかです。

逆に効果があったと考える人は、良いセラピスト、良い施設に巡り会った人なのでしょう。

身も蓋もないですね。

EBMとかいってもそれは変わりません。

そのことはセラピスト自身がよくわかっています。

臨床の中では、あのセラピストは俺より上手いと思ったり、あのセラピストはもっとこうしたら良いのにと思ってしまったりすることは日常です。

​そのことを皆さんが、知っておくことは必要だと思います。

(2021/08/08 追記)

もう一つ、比較的大切なことがありました。

とあるブログを見て思い出したのではありますが、適切に良くなろうとする自身の気持ちは大切かも知れません。

適切にと言うのは、あまり大きな変化を求めすぎていて、現実が追いついてこないような場合は小さな変化に気づくことが出来ずに運動学習はしにくくなる場合があります。運動学習の大切な要素の一つに報酬系と言われる回路の働きが必用です。

また、良くならない物と思って諦めている場合も同様に小さな変化が起きても、どうせすぐ元に戻ると考えてしまい報酬系が働きにくくなると考えられますので、運動学習はしにくい状態といえます。

運動学習に適した脳の環境を維持するために適切な情動のコントロールの中で改善を信じ、期待することは大切な要素ではあります。

なんだか気持ちの問題と言っているように感じられるかもしれませんが、そうではありません。あくまで運動学習には報酬系の働きが必用であるという話で、それが起きやすいような脳の状況を維持することとして情動をコントロールしておくことが必用なのです。

時期(病期)によっても少し異なると思います。特に急性期と急性期以降は別に考えておいた方が良いかもしれません。脳損傷の急性期においては脳の浮腫や循環の問題がとても大きいので、それらの回復がとても重要であり機能回復を早く進めようと一生懸命にされると、返って逆効果になると思われるケースも多く見ます。骨折などによって可動域制限が起きた際も浮腫の存在している状況で無理に可動性を広げようとすると当然軟部組織の余分な損傷をまねきかねません。その際に起こした代償的な運動学習は、その代償性を用いて色々な行為を成立させると、脳はその代償的な活動による動作や行為の変容のさせ方を学習してしまいやすくなります。とはいえ、そういった代償性を用いないと出来ないこともありますので、適当に行動を制御しておく方が良い場合もあります。

ようは「焦りは禁物」というわけです。

(2021/09/22 追記)

運動学習は何を学習するのかといったことも関係しているかもしれないです。

手順やパターン、その組み合わせを学習するのみでは無くて、ヒトの脳はどのようなプロセスで環境に適応したのかという環境適応に対する対処のプロセス自体を学習しているものと考えています。

例えば、片麻痺のヒトで手を伸ばそうとするとかえって肘の屈曲が強まったり、肘が屈筋も伸筋も同程度の収縮を起こして動かなくなったりします。初期に手を動かすということを学習する段階で、脳の運動出力情報処理を過剰に興奮させて動きを起こすと言うことを学習されると、動きにくさに対して動きを必要とされる環境におかれると出力をひたすら上げようとするような対応方法を無意識下(基底核-高次運動野ループ)で選択してしまうのだろうと思います。初期にそういった対応で動きが出現して、報酬系によってそういった選択が強化されているわけですから。

同様に、良い方の手や足で動きにくい方の手足を操作するとか、起き上がりや座位、歩行の際に良い方の手をバランスのために使うとかも良い方の手足を使うことで環境に適応する事を学んでしまうと思われます。結果、動きにくい方の手が動き出しても、その動きを使おうとするより良い方の手や足を優位に使用してしまうと言うことも脳の情報処理上の特徴になっておられる場合もあります。

そういった場合には動きその物を楽しんでいただくなどといった報酬系への働きかけがとても重要なのかもしれません。

脳の可塑性 その4

2021/08/03

再生医療に関する話です。

2017年に北海道大学で一例目となる幹細胞移植の治験が始まりました。

このとき神経内科医と話をしていたのですが、二人ともこの治験の臨床的効果は薄いのでは無いかと言う意見で一致していました。

理由は、治験の枠組みの話になります。研究として位置づける以上、幹細胞移植による純粋な効果を見るために他の要素を極力省く形で行われると予想されたこと、つまりリハビリなどを併用はしないのでは無いかと推測して、そうであれば神経細胞が再生したとしてもネットワークが構築されにくいだろうから運動麻痺などの改善にはつながらないと予測したのです。

確か、その結果は神経細胞は増加を認めたが臨床症状の改善は不明であったというような結果では無かったかと記憶しています。

今までの記事で解説したとおり、脳のネットワークは可塑性を持っています。それを構築するのは感覚刺激です。神経細胞が増えるだけでは無く、リハビリテーションが併用されないと機能回復にはつながらないはずなのです。

現在、神経幹細胞の研究は進んできていて、治験も継続しているようです。

脳梗塞患者に対する骨髄間葉系幹細胞移植後の経時的身体機能変化 という論文では、リハビリテーションとの組み合わせの必要性について述べています。

一部を抜粋させていただきます。

「リハビリテーションとの組み合わせによって惹起される脳の可塑性の変化が大きく関わっていることが示唆されており,今後は,症例数を増加するとともに,本治療に適した評価方法の確立やリハビリテーションプログラムの再構築,さらには診療報酬体系を含めたリハビリテーション全体の変革が必要と考えられる。」

今後、再生医療が発達してくると神経生理学的な視点からアプローチが可能であるセラピストが必要となるのかもしれませんね。

少なくとも、この研究をされた先生方はリハビリテーションの効果をとらえておられるのは間違いありません。

​これは2015年の日本理学療法学会で発表された物のようですが、筆頭演者は医師の名前が挙がっています。

​今後、注目しておかなくてはならない情報の一つだと思います。

脳の可塑性 その3

2021/07/28

シナプスの可塑性についてはヘッブの法則と言われる考え方が支持されています。

ヘッブの法則とは、「シナプスはニューロンが発火する度に電気刺激の伝達効率が上がっていき、逆に長い間発火しなければ伝達効率が落ちる」という仮説に基づく、学習や長期記憶についての基礎的な法則です。

ドナルド・ヘッブというヒトが考えた仮説ですが、その2で見ていただいた動画を見ればシナプスはかなりダイナミックに変化していて、接続を強めたり接続を弱めたりしているのが解ったと思います。ここにはアストロサイトが関与していますが、細かな説明は置いておきます。

ヘッブの法則を直感的な表現に変えると「使えば憶える/使わなければ忘れる」と言い換えることも出来るかもしれません。

ドナルド・ヘッブは、ヘッブの法則と共に、セルアセンブリ仮説を提唱していました。

セルアセンブリについては、ブログに少し詳しくまとめましたので、リンクを張っておきます。

 

セルアセンブリ

 

セルアセンブリ仮説とは、情報の識別を​シナプスの組み合わせで表現しているという考え方です。

スクリーンショット 2021-07-26 8.30.17.png

図で表すとこのようになります。

大切なのは特定の細胞が情報を表しているのでは無くて、活動をする細胞の組み合わせが情報を表現していると言うことです。そのことによって、記憶の連想が出来ることなども説明できるかもしれません。

元々は記憶とか知覚についての仮説ですが、このような処理が起きているとすれば運動領域でも同じ事が行われている可能性が高いと思います。

この処理の魅力は組み合わせを変化させる事をシナプスが起こしていると考えられることです。このことは、例えば情報Aも違うシナプスの接続も情報Aとして認識が可能になる可能性があります。組み合わせですから。

事実、年齢をかさねれば脳の神経細胞は死滅し減少していきます。かなりの確率で無症候性の脳梗塞を起こしたりします。だけど、記憶は変化はしたとしても保持されていることがほとんどです。

その事実は、脳がある程度可塑性を持っており、セルアセンブリ仮説のような柔軟な処理システムを持つことを示していると考えて良いのだと思います。

脳卒中など中枢神経系の障害に対するリハビリテーションのあり方を支える考え方だとおもいます。そして、こういった処理システムには個性が存在しています。脳の形も人それぞれであるので、構造も共通項はありますが個性も沢山見つけることが出来ます。たとえば情報Aを表す神経細胞はヒトによって異なると言うことです。

ほら、歩き方を見てみると、だいたい2本の足を交互に出して歩くという共通項はあったとしても、一人一人歩き方は違っていて、歩き方を見るだけで誰かわかったりしますよね。

ですので、その再編成:機能の回復にはその個性に合わせたアプローチを立てていく必要があります。

脳の可塑性を生かすための感覚・運動入力はその人に合わせて行う必要があるのです。

感覚−運動の情報入力が適切であれば脳は適切な学習を起こしそうだと言うことを書いてきました。

感覚−運動情報を入力していくのはセラピストの役割ではあるのですが、ここにも個性が在ります。

ほら、人と話をしていて、上手く話がかみ合う人もいればかみ合わせるのが苦手な人もいますよね。リハビリのスタッフも普通の人間ですから色々な人がいます。

臨床経験から言えば、同じ事を同じヒトに実施したとしても、その効果はセラピストによって様々です。

EBMがどうこう言ってもその事実は変わりません。

効果はセラピストの経験や知識と腕次第という事実は変えようのない事実です。

注射や薬みたいに薬が体内にこのくらい入ればこういった効果が出ると言った単純な構図で考える事は出来ないのです。

リハビリテーションに効果があるのかというテーマの中で書いているのですが、効果があるかないかはセラピストによるという元も子もない結論しか導き出すことは出来ません。

脳には可塑性が存在している以上、それを上手く引き出せるヒトがやれば効果があるし、それを引き出すことが出来なければ効果が無いと言うことになってしまいますので。

ただ、とても大切な事なのですが筋骨格系にしても脳にしても可塑性は存在していて回復~すこしでも良くなる可能性は常に存在していることは間違いありません。

と同時に、悪くなる可能性も存在しているのですけれど・・・

(2021/09/22 加筆)

​シナプス可塑性にはグリア細胞、アストロサイトの関与が重要です。アストロサイトは細胞外スペースの間質液交換に重様な働きを持ちます。ですので脳の神経細胞外環境の制御にも重要な働きを持っていると考えられています。このアストロサイトは広範囲調節系の影響も受けているため、コリン系/モノアミン系の伝達物質の適正な分泌がシナプス可塑性に重要だと言い換えることが出来るのかもしれません。

また、記憶などの高次脳機能も広範囲投射系とアストロサイトが関連しています。

伝達物質の状況など、外から見て解らないのでは無いかと言われるかもしれませんが、脳幹における適正な分泌は覚醒時に姿勢制御を抗重力的に働かせる特徴があります。ですので、姿勢が本来の意味で抗重力性を持つときは、少なくとも脳幹における伝達物質の状態は覚醒や記憶を含め、シナプス可塑性を促しやすい状況であると言うことも出来るかもしれません。今後の研究を見ていく必要があると思います。

理化学研究所 「記憶や学習の能力にグリア細胞が直接関与」2011

https://www.riken.jp/press/2011/20111207/

東京大学 「グリア細胞の操作によって記憶の形成と保持を調節した」2021

https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z0111_00032.html

お茶の水女子大学 「脳のアナログ伝達機構を支える脳内ロジスティクス」2021

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnns/28/2/28_71/_pdf/-char/en

脳の可塑性 その2

2021/07/22

​可塑性はplasticity(プラスティシティ)と言われています。

プラスチックのように柔軟な変化を持つようなイメージの言葉です。

昔、脳に可塑性はないとされていました。壊れた脳は回復をしないとされていたのです。

可塑性とは変化することです。これがないと仮定すると、ずいぶんおかしな事になります。いったん記憶してしまった物は修正できない事になります。いったん学習した立位や歩行は、骨折や腰が曲がったり等で身体条件が変われば同じ歩行の仕方は困難になりますから歩けないと言うことになります。なんたって、可塑性がないので新しい条件でも同じ姿勢/運動プログラム出力をおこなおうとすれば転びます。何らかの原因で片方の下肢を切断してしまえば生涯歩けない・・・そんなことはないですよね。

人は、身体条件の変化に対応して新しい姿勢/運動プログラムを組み直すことが出来ますので腰が曲がろうが片方の下肢を不幸にも切断してしまったとしても義足などを利用して歩きます。昔からそうです。義足は紀元前から存在してます。義足をつけて歩くと言うことを学習することは以前から解っていたんですけどね。

脳は義足という道具をあたかも自分の足のように使うという感覚/運動をを学習することは解っていたのです。

これは、脳の可塑性を基盤に持つ脳の機能的変化です。

動画は神経細胞とシナプスの変化です。シナプスというのは様々な機能を持つ神経細胞群同士をつなぐ樹状突起(神経細胞柄出ている動く電線みたいな物)の接続部分です。脳のCT画像を見ると、神経細胞は少し濃い灰色に。神経繊維(樹状突起)は少し白く写ります。そのため、神経細胞は灰白質、繊維は白質と呼ばれます。

まず、動画にあるようにこの繊維部分はかなりダイナミックに変化します。接続の変化によって様々なことを学習することが出来ます。

次に神経細胞の働きですが、これも変化します。例えば一次運動野には身体のパーツによってそれを支配する領域が決まっています。例えば、手の領域を考えます。貴方は今、ピアノなどをしたことがないとしましょう。だけど、今から一生懸命ピアノの練習をします。数年後にショパンなどを聴く人を感動させるほどの腕前になったとします。その際、ピアノをしていなかったときよりショパンが弾けるときの手の領域は広がっているはずです。神経細胞の働きもシナプスの変化に応じて変化を起こすのです。

脳損傷によるダメージで脳の神経細胞が死んでしまうと、細胞自体が自然に回復するというのは限られたごく小さな範囲にはある可能性が示唆されていますが、大きくは難しいことではあります。しかし、シナプスは常に変化を起こしています。そのため、脳の損傷の後も様々な運動を学習することが可能となっているのです

現在の医療体制では数ヶ月という期間でリハビリを打ち切られることになっていますが、現在の知識から言えばそれは古い考え方です。とはいえ、保険医療の維持をするためにはいつまでも保険でみるわけにはならないという理由もあるでしょうし、より緊急性のある命を救う医療や、今であれば感染症に対しての医療に限られた保険財源を使うのはある意味当然でしょうし、仕方のないことなのかもしれません。

​そういった社会的な都合とは別に、脳の可塑性は存在していて1年たっても5年たっても適切な学習さえ出来ればよりよい運動を学習することは可能です。そういった視点から言えば、リハビリは効果があるといえます。

 

脳生理学者の久保田競先生が書かれた論文を紹介しておきます。

脳の可塑性と機能回復

2021/08/24追記

脳の可塑性について、その先駆者であるNudeらの研究も紹介すべきではあろうと思うのですが、原著を探したのですがネット上では見当たりませんでした。218年に日大医誌に「脳血管障害のリハビリテーション:現状と未来」という寄稿の中で「Nudo らのサルを用いた実験では,巧緻な手指運動を 繰り返すことによって手指の運動に関連する皮質領域が 拡大することが示されている」との紹介があり、Nudeが「われわれは長い間,神経科学や神経疾患における 魔法の弾丸を探し求めてきたが,魔法の弾丸とは実はリ ハビリテーションであった」と述べ低おられたことを紹介されています。

その論文は以下のリンクにて紹介しておきます。

脳血管障害のリハビリテーション:現状と未来

EBMとリハビリテーション

2021/07/22

EBMとリハビリテーションって相性が悪いと思っています。

昔勤めていた病院でもスタッフとずいぶんと激しい論議をしたこともあります。

薬と血液の関係ー例えばアロシトールを飲んだら尿酸値が下がったとか、そんな単純な分析では効果判定が出来ないのです。そもそも、リハビリテーションの効果とは運動機能から動作能力、環境適応能力などと多彩で、それぞれに多くの要素から成立しているものです。上に書いたた3つで最も単純な運動機能でさえ、骨/骨格筋/結合組織/感覚受容器/感覚経路/視床での処理/感覚野/高次感覚野/高次運動野/小脳/基底核/運動出力経路/姿勢制御経路/姿勢制御出力経路等など上げればきりがないぐらいの要素が関わっていて、それぞれがさらに細かい要素に支えられているわけです。

​ですので、改善だと思っていたことが実はそうではなかったりすることさえあります。例えば、杖をついて身体を横や前に折り曲げながら膝を過伸展させて体重を支え、努力すれば歩行が出来ました。歩行が自立と評価されても、そういった歩行を長期間続ければ膝や腰、頚部に痛みが出てくることでしょう。非対称的な頚部の姿勢は嚥下に問題を起こしてしまうかもしれません。そんな人を沢山診てきました。

だから、私は今できるようになったことを素直に改善していると判断することはありません。その獲得した能力をいかに長期間使い続けることが出来るかを考えてしまうのです。

​それは、EBMでは表すことが出来ない視点です。

​そういった事に関してのアプローチは、EBMにおいてはリハビリテーションの効果がないと判定されても仕方がないことです。ですが、必要な視点です。

で、以前、病院でもそういった情報を発信していたのですが残念ながら受け入れられることはありませんでした。

先日、エビデンスについて調べていたら、理学療法士協会は、もう10年近く前からそのことを考えてオリジナルのEBPT(エビデンスに基づいた理学療法)を検討し実践しようとしているようですね。

 

EBMからEBPTへ

ボバースも以前からそういった試みをしています。

Model of Bobath Clinical Practice(MBCP:ボバース実践モデル)といわれるガイドラインです。

MBCPはリハ専門学術誌Disability and Rehabilitationに掲載されたそうです。

ボバースジャーナル2021年6月 第44巻に特集が組まれています。リハビリ関連のスタッフは、身近に持っておられる人がおられたら読んでみることをおすすめします。

​2021/08/18
ブログに「リハビリテーションにおける科学的根拠」と呼ばれる物に対して記事を書きました。

脳の可塑性 その1

2021/07/20

脳梗塞、脳出血、頭部外傷などで脳の神経組織に損傷が発生すると、脳の中は修復に大騒ぎです。

神経細胞やそこから出る神経の繊維などにとって血流や脳脊髄液の循環はライフラインです。

ちょうど、今テレビで今年の水害での災害廃棄物の除去の話をしています。災害廃棄物の除去が遅れると復興に影響するという話です。

脳の内部もそれに似た状況であるといったら分かりやすいのかもしれません。

​脳の損傷で壊れた神経細胞や細胞外成分は分解されて廃棄される必要があります。分解のためにはグリア細胞と言われる細胞群の中でミクログリアが関わっています。ミクログリアも活動をすればエネルギーを消費しますので、それらを支えているのは血流だと考えることが出来るでしょう。また、老廃物の廃棄にはグリンファティックシステムと言われる物が関与していると私は思っています。グリンファティックシステムが働くためにはグリア細胞の中のアストロサイトが重要な働きを持ちます。アストロサイトはノルアドレナリンといわれてる伝達物質の影響で働きを変化させます。私の理解では、ノルアドレナリンが多く存在しているとき(交感神経系の興奮しているような状況ですね)は働きが弱く、ノルアドレナリンが少ないときに働きが強くなると考えられているようです。

これらの働きをよくすることで脳の中の環境が回復するのに適した状況になるのですね。

こう考えると、血流を含めた循環の改善というのが急性期(だけではないですけど)においてとても重要なことがわかります。

​ところが、脳の損傷が起きると、組織の損傷ですから脳その物が腫れたりします。腫れると血管などを圧迫することになりますから循環が維持しにくいですよね。脳浮腫と呼ぶのですが、可能である状態であればできるだけ早くとってしまう必要があります。ただ、脳の出血などは浮腫が軽くなると出血が止まりにくくなることもありますので、ここのあたリは医師の診断で進めていく必要がありますね。

超急性期から急性期にかけて運動機能がめまぐるしく変化していくのは、循環動態の変化や脳損傷後の浮腫や循環障害の変化が脳の情報処理をかなり悪くしている状態から、循環動態の安定や浮腫などのネガティブな因子が改善することで残された脳神経細胞の情報処理能力が改善することが最も大きいところです。

その中で残された細胞をいかに効率よく使うことを学んでいただくかどうかがセラピストの腕の見せ所と言ったところでしょうか。

臨床経験的に、この時期に個人個人にあったアプローチが出来るかどうかはその後の運動学習効率(回復)を左右します。

​急性期において能力回復の効率優先を医療的に選択するのは間違っているかどうかはわかりませんが正しくはないのでは無いかと考えています。

まぁ、だからといってこの時期に適したことが出来ていないからといって回復が出来ないわけではないのですけれど。

骨折に対するリハビリテーション

2021/07/15

骨折は,病院での治療の後周辺の可動域制限を引き起こすことが多いです。

​骨折が起こると、その修復自体も元通りと言うことにはなりません。骨折部はほかのところに比べて骨が少し太くなったりしますし、骨折の程度や手術によってはずれてくっついている場合もあります。そして骨から皮膚まで結合組織でつながっているのですが、この結合組織の大部分は膠原原繊維で構成されています。この原繊維は繊維製の立体網目状組織となっています。この立体網目構造には微小空間が出来ますが、その空間に微小リンパ管とか毛細血管とかが存在しています。ですので、骨折やその手術で破壊された立体網目状構造のコラーゲン繊維組織はダメージを受けて動きが乏しくなっていることが推測できます。これは癒着と言われる状態の一つの要素です。

構造的な変化は起きていますので、骨折前と同じ動きというわけにはなりません。大なり小なり影響は必ず残ります。

しかし、アプローチの仕方によっては骨の構造は無理であったとしても結合組織である原繊維の動きは改善していくものと思います。背景には循環の問題も大きく関わってくるものとは思いますけれど、循環を支えているのもその結合組織の動きなのですから。

結合組織の動きが改善できるのであれば動きは拡大していきます。

つまり、元の状態に戻ることにはならないとしても回復は起こりえるのです。

ただ、そのためには単純に関節を動かすとか、筋力を強化するような事をしていては難しいかもしれません。

癒着というのを、例えばゴムの一部に瞬間接着剤をつけた状態を考えてみてください。

伸ばすにしても縮むにしても、接着剤が付いているところよりその周辺が伸びたり縮んだりするはずです。

だから、接着剤が付いたところが動くようにするような配慮が必要です。

大きくは骨折の程度や手術の結果に左右されますが、それでも回復は出来るものと思います。

残されたところは、セラピストの知識と力量次第です。

簡単に言えば、リハビリテーションの効果はセラピストによると言うことです。それを知っておくことは大切かもしれません。

7月29日追記

整形疾患のアプローチ動画をアップしました。興味のある方はどうぞクリックしてみてください

​リハビリテーションとエビデンス

2021/07/14

このページをつくって初めての記事です。

​何がいいか迷いましたが、リハビリテーションの効果の指標としてエビデンスが良く話題に出るのですこし書いておこうと思います。

医療の中でエビデンスと言われるのはEBMのことを指しています。EBMというのは、Evidence-based Medicineの頭文字で、「個々の患者のケアに関わる意思を決定するために、最新かつ最良の根拠(エビデンス)を、一貫性を持って、明示的な態度で、思慮深く用いること」、「入手可能で最良の科学的根拠を把握した上で、個々の患者に特有の臨床状況と価値観に配慮した医療を行うための一連の行動指針」の事だそうです。

なんだか難しいですね。

どうやら科学的な根拠が必要でその根拠の中で最も効果が高いと思われるものを選択してリハビリテーションにあたるという事が大切だという事みたいです。

この科学的根拠を導き出すこの研究がどのように行われているのかと言うことを考えてみると、基礎研究で、対象となる障害がどんなものであるのかと言うことを、脳のことや身体の構造、動きなどから理解しようとする研究が存在します。それを元に現在行われているリハビリテーションに関わる技術や方法論などを理論づけたり、実際に行った結果を統計的にどのくらいの割合で改善していくのかとか、改善していないのかとかを判断します。

この手法には2つの問題点があると思っています。

一つは、脳や身体構造、動きというのは実はまだよくわかっていない、つまり科学的に解明されていないと言うことです。研究ではその一部を取り上げ研究する事になりますが、それが常にただいいとは限らないのです。脳のことでいえば、脳の情報処理は神経細胞とその接続の関連や伝達物質などによって起きていると考えられていますが、現在では神経外の組織の関与がある可能性が見いだされつつあります。整形外科領域でも、筋や骨の解剖/関節などは古くから研究されていますが、現在は関節の形状や筋肉の付くところに様々な個人差があることがわかってきていて、さらに結合組織と言われるファシア(膜~原繊維)の存在が重要であるという認識も広がり、日本整形内科研究会という医師たちによる研究会も出来ています。

要は、基礎的なことがキチンとわかっていないのがヒトなのです。

科学的にわかっていない科学的根拠から考えなくてはならないのですから大変ですよね。きっと誤りも出てきます。

二つ目は、統計処理の怖さです。例えばAという手法が70%のヒトに効果があるとされたとします。少なくとも30%にヒトには効果が無い、もしくは障害を悪化させているかもしれません。B と言う手法では逆に30%のヒトに効果があって、70%に効果が無いとします。ところが、自分がその手法をしていただくのに、手法Aの70%に入ればいいのですが、そうでは無く、むしろ悪化するかもしれません。手法Bで有れば改善が見られるかもしれないと行ったようなこともあり得ます。統計的な処理には個人の個性は反映されないですからこういったことも十分起こりえます。

ですので、この二つの問題点を考えてもEBM以外の考え方は無いのだろうかと不安になられるかたもおられるかもしれないですね。

本来はEBMはNarrative Based Medicine:NBMと言われる考え方と同時に行われるべきなのですが、現在の日本の医療ではEBMが大きく取り上げられすぎている様に感じています。

NBMについてはまたいずれ。

最後ですが、科学というものを否定しているわけではありません。おそらく科学というものの本質は探究です。とくにヒトに関しては現在は探求の途中なのです。ですから、探求途中の結果を鵜呑みにすること無く、導き出されている現在の結果からさらに考えて行くことが求められているのです。

​2021/07/21 追記

もう一つありました。EBMにそって、リハビリテーションで何をすべきか決定して実施したとします。実施するのはセラピストになるわけです。例えばですが、骨折に対してROM(関節可動域訓練)を実施すると改善するというエビデンスがあったとして、ROMを行いました。だけど、行うのは一人のセラピストであるわけです。ところが、骨や関節、筋肉や結合組織に関する知識はセラピストによって違ったりするわけです。実施している際に重要になってくるのはおそらくセラピストの手から入ってくる対象となる関節からの感触であったり、対象者の表出する表情や発話などで色々動きの方向や程度を替えながら行うわけですが、これはさらにセラピストの経験や個性が反映されてしまいます。

誰がやっても同じというわけにはならないのです。

ほら、プラモデルも説明書があるけど上手に作る人からそんなに上手に出来ない人まで多様ですし、空手をしている人が全部同じように強いとは限らないですよね。

リハビリテーションにとってEBMは、効果を出したということを医学的に表現するためには必用かもしれませんが、EBMから手段を選択したとしてもその効果はセラピストによるということを知っておく必要があります。

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