脳科学と脳卒中のADL評価
- Nagashima Kazuhiro
- 13 時間前
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更新日:12 時間前
近年、FIM利得などの指標を用いて、病院のリハビリテーションの「質」を評価しようという流れが進んでいます。
しかし本当に、ADL評価だけで脳卒中リハビリテーションの効果や質を正しく測ることができるのでしょうか。
臨床のPTやOTであれば、一度はこの疑問を抱いたことがあるのではないかと思います。
もしかすると、医師や看護師の中にも「なんだか腑に落ちない」と感じている方がいるかもしれません。もし感じているなら、かなり意識が高い方です。(^^)
そもそも、FIMでリハビリテーションの質を測ろうとすること自体が、制度構造として大きな問題を抱えています。
なぜなら、FIM利得を基準に質を評価するのであれば、病院側は「FIMが改善しやすい患者」を優先的に入院させるほど、数字が良く見えるからです。
つまり、FIMが伸びやすい人を集めれば集めるほど、病院の“質”が高く見えるように制度が設計されているわけですね。
そして今後、こうした流れの延長として「FIM利得で質を規定し、得点が高い病院に保険点数を上乗せする」という制度が導入されれば、その傾向はさらに強まるでしょう。
本来、最も支援が必要な患者ほど“改善がゆっくり”であるにもかかわらず、そうした患者が制度上不利になってしまう――。
この矛盾を抱えたまま「質」を語ることは、本当に医療の本質に沿っているのでしょうか。
さて、制度の問題は一旦ここまでにしておいて。(^_^;)
今回はむしろ、「FIMという指標そのものが、日常生活動作をどの程度正確に測っているのか?」という点について考えてみたいと思うのです。
FIM(等の日常生活動作評価)がどの程度の解像度を持って、評価するものであるのかを考えるには、まず「日常生活(動作)とは何か?」という事を考えておく必要があります。
一般的には以下のようにまとめることが出来ます。
「日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)とは、日常生活を送るために必要最低限の動作を指します。具体的には、**食事、排泄、入浴、更衣(着替え)、移乗(ベッドから車椅子など)、移動(歩行)、起居動作(寝返り、起き上がり、立ち上がり)、整容(身だしなみを整える)**といった基本的な身体の動きの総称。」
ここだけ捉えると、FIMなどの評価は妥当なものに思えますね。
もう少しだけ、くわしく考えて行きますね。
「日常生活を送る必要最低限の動作」とは、習慣的動作と言い換えることが出来ますね。
この習慣的動作というのは、脳のどういった機能によって実現されているのでしょう?
脳科学に興味を持つ多くのPTやOTのスタッフは、「基底核」或いは、「基底核ループ」と言った単語が頭にうかんだことと思います。(^^)
じゃぁ、基底核と習慣動作というのはどの様な関わりがあるのかという事を、脳科学的にどの様に捉えることが出来るのかをみてみましょう。
1. Graybiel A.M. (1998) — The basal ganglia and chunking of action repertoires
“Basal ganglia circuits support the chunking of action sequences, allowing their expression without the need for conscious control.”
(基底核回路は動作系列のチャンク化を支え、それらが意識的制御なしに表出されることを可能にする)
2. Redgrave & Gurney (2006) — Basal ganglia: action selection and initiation
“Most actions initiated through the basal ganglia are performed without conscious awareness.”
(基底核から開始される行為の多くは、意識的な気づきなしに遂行される。)
3. Yin & Knowlton (2006) — The role of the basal ganglia in habit formation
“Habitual behaviors are characterized by automaticity and insensitivity to goals, dependent on the dorsolateral striatum.”
(習慣行動は自動性と“目標への意識的アクセスの低さ”が特徴で、線条体背外側部が担う。)
4. Hikosaka et al. (2002, 2006) — Basal ganglia and long-term procedural learning
“The basal ganglia contribute critically to automatized motor skills.”
(基底核は自動化された運動技能に不可欠である。)
5. DeLong & Wichmann (2007) — Circuits and functions of the basal ganglia
“Basal ganglia operate largely outside conscious awareness to facilitate appropriate motor patterns.”
(基底核は意識の外側で運動パターンを選択し促進する。)
そして、マースデンの超有名な一節です。
Marsden (1982) “The Mysterious Basal Ganglia”
【Brain, 105(3):373–402】
“The basal ganglia appear to facilitate the automatic execution of learned motor programs.”
「基底核は、学習された運動プログラムの自動的な実行 を促進するように見える。」
基底核(基底核ループ)の機能というのは日常生活に伴う習慣的な行為や動作に対して、それを非意識化で遂行するという事なのです。
ある意味、非意識化に落とし込むことが出来ない動作というのは習慣動作とは言えないと言えるのかも知れません。
日常生活動作がほぼ非意識化で行われているという事実は、私たちの生活を振り返ってみても十分納得できる事ですよね。(^^)
さて、FIM〜或いはその他のADL評価と云われるもの〜は、各種動作が出来るか否か、或いはどの程度の介助が必要であるのかと言った部分は数値化されます。
しかし、その行為や動作が自動的なものであったのかどうかと言う部分は数値化されていないですよね。
これでは、脳科学的に不十分な評価であると言えるでしょう。
脳科学的にADLを評価する場合、既存の評価に加えて、
ADLの質=非意識下でどれだけ滑らかに遂行できるか?という視点が必要であるという事になります。
つまり評価尺度には
自動化度
意識依存度
動作切り替えの滑らかさ
チャンク化の回復度
前頭葉の代償利用の過剰さ
等の項目が必要であるという事なのだと考えるのです。
これらが入って初めて、ADL評価というものが、脳科学的に利用出来るのでしょう。
さて、FIM利得。
このままこの評価軸でリハビリテーションの質を評価される流れで、本当にいいのでしょうか?
皆さんはどう思われます?

病院とか勤めていたら、絶対にかけない内容の記事ですね。(^_^;



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