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半側無視へのアプローチ(私見です)

更新日:2021年12月24日


(図は脳科学辞典というサイトから引用させていただいています)


とある会議室で半側無視へのアプローチはどのようにしているのかということが話題になりました。そのときに少し書いた文章ですが、せっかく長文を書いたので、こちらにも置いておくことにしました。

ただ、私が行っていたアプローチは統計的に効果の確認を行われていた物ではありません。そのときの患者さん達の反応は良好で、特に眼球運動の拡大は周辺の人たちがコミュニケーションが取りやすい印象になるので、ご家族や主治医、看護師には好評でした。しかし反面、FIMやBIなどの点数に直結するような手法ではないため、PTの特定のスタッフから批判を受けていたのも事実です。

そして、このアプローチの考え方や方法は人によって推論やアプローチ手段を調整していく必要があります。こうやったらよくなるというお話ではありません。

ボバースコンセプトでは考えながらアプローチを行うことを推奨していますが、以下の主張は私自身の主張です。

そして私の主張は、特に現在の保険医療体制ではおそらく認められない方向性が内在しています。その為、私に指導していただいた先生方や、脳生理を教えていただいた先生方の迷惑になりますので、私個人の主張であるということを念頭に読んでいただければと思います。


最初に、知覚という言葉は無意識下の感覚情報処理を指していて、認知とは知覚を元にした意識下の感覚情報処理を指しているという意味で、知覚と認知という言葉を使っていきます。


半側空間失認は右脳の非意識下での身体外環境と身体内環境での空間情報処理障害を基盤にしています。ですので、右脳の上縦束などで無視が出現することになります。右脳はどちらかというと非意識的な情報処理が多く行われています。

課題や検査などでは意識化し、答えていくためには左脳の活動が必要になります。右脳の非意識下身体内外空間情報が左脳に運ばれることで言語化を含む意識化されることになります。それによってトップダウンでの注意の制御が可能になって検査に答えたり、何かしらの課題を遂行していくということになります。

このボトムアップでの方向性注意とトップダウンでの方向性注意はお互いに影響し合っている物と思いますが、アプローチにおいては混同してはいけないところです。

多分、ここが理解できていないと口頭指示で患者を混乱させてしまうようなことになってしまうことが多くなってしまうのだろうと思います。


もう一つ大切なのは、皆さん臨床でたくさん経験されておられるので釈迦に説法かも知れませんが、左右という方向を示す言葉は、実際に存在している物ではなくて概念です。複数の人がいたら、その人達の立っている位置とか向いている方向によって、それぞれに右の方向や左の方向は異なりますよね。また、「Aという建物の右隣にBという建物があるよ。」といわれても多くの人は解らないと思います。「Aという建物に向かって右側にBという建物があるよ。」というと、自分がAという建物に向かって立った場合、その右側にBという建物があるということが初めて解ることになります。

つまり、左右とは自分を中心とした方向を示しています。ですので、自分が身体外環境の中でどのような位置でどの方向に向いているのかといった情報が左右の方向を決めるためには必用であるということになります。

身体内空間の左右についてはさらに、左右を検出するための中心軸が必要になります。中心軸から右にあるのが右手で左にあるのが左手といった感じです。外的環境空間の知覚には垂直軸も重要になります。上下逆だと左右は反対になりますよね。垂直軸の傾きは左右の方向に傾きを与えてしまいます。例えば、考えにくいですが身体中心軸はあるけど垂直軸を知覚できない人がいたとして、垂直に対して体幹〜頭部が40度近く右に傾いた姿勢の方にとって、左方向は天井の方向になりますよね。

以上のことから、右脳によって生成される垂直中心軸を伴ったBody Schemaの情報が非常に重要であるということになります。

そして、その上でそれを右脳の情報が左脳に投射されると認知するように左脳が働いてくると論理性を持って左右の環境を意識化できるということになるのでしょう。これを気付き(アウエアネス)と呼んでも良いのかも知れません。


以上のことを踏まえて整理すると、半側無視という障害は半側空間知覚の障害とそれによるBodyScemaの混乱に起因する半側空間認知障害と結論づけることができます。

さて、アプローチです。

上記のことを踏まえると、口頭指示の使用は極力減らすか、よく考えて行う必要があると考えています。それはなぜかというと、無意識下の右脳の身体内外空間に関わる情報処理が不十分であるのに、左脳の論理性に訴えるように口頭指示を与えたら半球間抑制作用によって、無意識下の情報処理はさらに困難になると推測されるので左脳による意識はさらに混乱することが推測できるからです。(しかもやっかいなことに意識自体は混乱していることに気付くことができません。)

そして、周辺環境をできるだけ整理すること。これは特に右方向からの視覚/聴覚情報は左脳の情報処理を要求するので半球間抑制を起こす可能性があるからです。


私のアプローチ、後は地味です。

急性期に勤めていたこともあり、基本的には発症直後の感覚的な混乱に対応し、FIM/BIの改善は取りあえずおいておきます。

臥位であれば、臥位での姿勢が混乱して右手がベッドの縁をつかんだり右下肢がベッドから飛び出していたりして左上下肢は不自然な位置に配置されているような場面をよく見ます。頭部は当然右方向に向いていて眼球も右にずっと変位しています。試しに左からお名前を読んでみると、さらに右方向を視覚探索されることも少なくありません。左からの聴覚刺激が定位できていないということになります。ということは、既に外的空間の認知はかなり右に変位していることを示しているのかも知れないと判断します。その原因は外的環境を知覚して、脳の中に外的環境を再構成する事ができていないということになります。そして、それは外的環境を知覚するため、外的環境に対する自身の状況(BodySchema)を把握できていないため、自身を中心とした外的環境の位置関係を把握できていない可能性を最初に考えて行きます。

それは、脳の損傷がプライマリーな問題ですが、感覚情報が再構成されない原因としては非麻痺側の過活動とそれによる過剰な非麻痺側からの感覚入力とそれによる半球間抑制、麻痺側の表在感覚や筋の性状の変化による固有受容器の異常などなどに起因する麻痺側半身の感覚の異常や鈍麻などが要因となっていると推測できるからです。

ですので、地道に感覚を入力していきます。すぐに反応が返ってこなくても時間的/空間的に加重(summation)していくようにしていきます。アライメントは整えていきますが、できたら本人から少しでもそういう反応が出るのを期待しながら操作していきます。その結果、頭頸部が正中(に近いところ)で維持できたり、眼球の活動が左に起きたり、或いは左手に触れることができなくても、左手を探したり等の、右脳が活性化したと推測できるサインを探しまくります。それらのサインが多く発見できればできるほど、右脳の活動性が上がっている可能性が高くなります。それらの行為の中で正中軸を知覚できるように体幹を左右から少しだけ軽く圧迫したり、仰臥位であれば怖くない範囲で小さく右→左とか左→右とか背中に圧を加えて変化させてみるようなこと等をしてみて、反応を見ていきます。

最初より姿勢が安定しリラックスできてきてから麻痺側上下肢の動きを誘導して同じように観察していきます。


端座位では、支持規定面として足底/大腿後面/座骨等に左右から感覚がきちんとはいっていくように臥位の時と同様、感覚入力しながら姿勢を整えていきます。姿勢でいえば、体幹の右の側屈筋の高緊張がとれてきて左に体重が乗ったりする機会が増えることを一つの目安にしていた記憶があります。その上で麻痺側体幹の抗重力伸展活動を伴う正中垂直軸の獲得を目指します。上肢はテーブルがあれば右上肢を患者自身の姿勢制御の安定性を基盤に右上肢をテーブルの上に上げていただける事ができると姿勢制御は結構いい感じだろうと思います。このとき、あたかも手でジャンプをするように、素速く強力に床からテーブルに手を移動させたり、それさえできずにセラピストが操作しようとしても強力にに抵抗される場合は、非麻痺側上肢を動かすことができないぐらいBodyShemaが崩れていると判断します。このとき、臥位でのセラピーが効果を発揮する場面です。臥位での背部からの感覚で落ち着いてくることができている方であれば、背部からBOSを作って安定させて右手をテーブルに上げるようにしたりします。手をテーブルに置いても座位での安定感が出るまでには時間がかかるかも知れません。そのときは、そういった姿勢変化に伴う環境情報の統合に時間がかかっていることを示していると考えられるので、時間をかけて感覚に馴染んでいただく、つまり情報処理の時間を待ちます。その上ですこしでも安定してきたら今度は麻痺側上肢をテーブルに上げます。手掌をテーブルに着いたらCHORとして役立つかも知れません。それらのアプローチで両手をテーブルに挙げて姿勢を安定させ、しかも正中垂直軸に近づいてこられたら、頭部は左に向きやすくなっているかも知れません。そこまで来ればそれは、右脳の左空間情報の処理が起きて左方向への知覚が広がっていると言って良いと思います。少なくとも左方向への頭部や眼球運動が運動が起きるためには、右脳の環境の情報処理は必用ですから。

そしたら、左を向く際に左への重心移動と左体幹の抗重力伸展活動のチャンスになります。


長くなりました。以下延々とそんな推論と介入を繰り返し、セラピーの時間が終わりかけるか、患者さんの疲労が強くなる(注意が散漫になるとか眠たくなるとか)様子が観察されたら、その獲得された能力の中でADLに汎化できる機能を模索します。左に対する気づきが起きる範囲で物品を移動していただくとかでもかまいません。左手を触るとかでもいいです。そう言ったことがいずれ食事や更衣に汎化される脳の機能だと推測できますので。


慌てて動作自体の確立を狙うとやぶ蛇になりかねないと思っているので、そういった手法をとっていました。

主治医や患者さん、患者さんのご家族からは好評でしたが、PTからは不評でしたけど。「永島はADLをみない」と批判されて当時の部長だった整形の医師に良くチクられてました。(^_^;)

まぁ、保険医療体系をみれば仕方の無いことです。

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