手足の動きは、手足を空間の中で移動させるという動きの他に、体幹の動きに対して上下肢を定位させておくような動きもあります。
極端な例を挙げると、跳び箱に手をついて飛んでいる時のような場合ですね。
手は推力に使う為跳び箱に接触し続けていないといけない時間がありますよね。
その時間は、空間の中で体が前方に移動していきますが手は台に接触した状態です。
あ、立脚期の足部もそうですね。
体幹の空間的な移動に対して手足を一定の場所に定位しておく。
この機能が拡張されると、たとえば手では体幹の支持やCHORとして利用できたり、さらに広げて考えると、コップの水をこぼさないように動くような際の基本的な感覚情報の取り込み方となっていくのではないかという気がします。
空間で手足の位置を移動させることはプレーシングとかリーチといった表現になるのかと思いますが、逆に体幹の移動に対して手足を定位しておくような動きを、
Trunk movement against limb
体幹の動きを四肢の動きに変換するようなイメージの言葉ですね。
Limb movement against trunk. Trunk movement against limb.
臨床ではちょっと意識しながらしたほうがいいのだろうと考えています。
追記(2022/09/23)
これだけだとなんだか、ちょっと物足りないかもと思って、神経学的な仮説をつけときますね。
一番上の写真の場面は、麻痺側である左手を水平外転位でテーブルに乗せている状態です。ここで、体幹の抗重力伸展活動をオンにしたりオフにしたりする操作や、右手を台に乗せたり、右の座面の方においたりすると、体幹の動きが生じます。その体幹に対して肩関節以遠は体幹に対する上肢の位置を変化させているわけです。
麻痺があって、左上肢のシェマ(身体図式)が十分できていない場合は、体の動きや右手の動きで、屈曲連合反応が出現したりして、手が曲がってきたり手が下に落ちちゃったりします。
日常的には上に書いたように食事場面で、左手をテーブルに乗せていても右手で食べ物を操作したり、食べるために体を近づけたりすると左手がテーブルから落ちたりすることって多いですよね。
これは手のシェマが不十分、つまり、手の感覚情報処理が行われて身体図式を生成することができていない状態と考えてもいいのではないかと思います。
別の側面から考えてみます。高草木先生は姿勢を維持するための脳の情報処理のためには一定の感覚情報量が必要であることを指摘されておられます。手がテーブルから落ちてしまうようなことになると、手からの感覚情報が利用できないため、姿勢制御上不利な状況であると言えます。CHORとして利用できないですよね。
手の感覚情報⇄身体図式の関係がありますので、どちらが先行するとかというわけではありませんが、一つの能力としてみた場合、Trunk movement against limbで見られるような自動的(無意識的)な手の反応性は重要だと言えると思います。
神経生理学的には、おそらくではありますが、体幹を動かそうという情報処理が前頭葉で起きると、一つは、前頭橋路ー橋網様体脊髄路による体幹深層筋への出力が起きて、コアスタビリティのローカルシステムが活性化(多裂筋・腹横筋・斜腹筋群・骨盤底筋群などの共収縮)し、腹圧の上昇と共に横隔膜を押し上げる力源となります。
そして、基底核同士の投射によって左右が協調して体幹を活動させるのだろうと思うのですが、その際の体幹への出力や右上下肢への出力情報は左の基底核から右の基底核に投射されていて、左の上下肢の出力調整が可能になるのではないかと思うのです。
もちろん、その際に、前頭葉の出力が頭頂側頭連合野に上縦束によって送られていることと、頭頂側頭連合野で生成されていた身体図式情報が上縦束によって前頭葉に送られていて運動出力のプログラムに関わっているということが大切であるのはいうまでもないでしょう。
それらの情報処理の中で、左上肢がテーブル上で定位していて、その手の感覚から姿勢制御が行いやすくなるといった相互的な関連性が成立しているのだと思います。
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