脳卒中リハビリテーションとフットケア
足の問題は、足だけの問題ではない
最近、陥入爪などの足趾の問題を抱えた脳卒中患者さんが続いています。
ご本人は、歩きにくいのは脳卒中の後遺症のためだと考えておられたのですが、足趾を確認すると、爪周囲に炎症や痛みが生じていました。
当然、足が痛ければ荷重を避けようとしますし、姿勢や歩行パターンも変化します。
そこで皮膚科での治療を始めていただいたところ、その後は歩行を含めた介入が行いやすくなり、運動反応も良くなった印象があります。
考えてみれば当たり前の話なのですが、これには神経学的にも興味深い背景があります。
■ 痛みは意識される前から運動出力に影響する
足趾の侵害受容器から入力された情報は、脊髄後角で処理され、脊髄介在ニューロンなどを介して運動ニューロンの活動を調整します。
侵害刺激による屈曲反射や逃避反応は、その代表例です。
一方、侵害受容情報は上行路を介して脳幹や視床、さらにS1・S2・島皮質・前帯状皮質などを含むネットワークにも伝達されます。
そして、温痛覚情報の一部は、脊髄中脳路から外側結合腕傍核、扁桃体中心核などに伝達され、情動形に作用し、姿勢運動に関わってきます。
重要なのは、こうした情報が必ずしも痛みとして明確に意識されてから運動出力に影響するわけではないということです。
脊髄や脳幹レベルでも運動出力は調整されますし、上位中枢では痛みの予測や身体の保護に関わる運動戦略が形成されます。
Hodgesらは、痛みによる運動制御の変化について、単純な筋活動の促通や抑制ではなく、身体を保護するための筋活動の再分配として説明しています。
つまり、痛みは単なる不快な感覚ではなく、姿勢・運動制御の条件そのものを変えてしまう情報なのだと思います。

■ 足趾の痛みは上肢の運動学習にも影響するのではないか?
ここが今回、特に考えたところです。
私たちは上肢の運動を上肢だけの問題として捉えがちですが、実際にはリーチ動作一つをとっても、体幹や骨盤、下肢の姿勢制御が同時に関与しています。
例えば、リーチ動作に先行する予測的姿勢調整(APA:Anticipatory Postural Adjustments)は、上肢運動に伴う身体の動揺に対応するための重要な仕組みです。
足趾に痛みがあり、足底への荷重を無意識に回避している場合、支持基底面内での荷重配分や姿勢調整戦略が変化する可能性があります。
すると、上肢を自由に動かすための姿勢条件も変わってしまうのではないでしょうか。
これは立位でのリーチだけでなく、足底を接地した座位での上肢操作にも関係する可能性があります。
さらに、痛みや痛みの予測による防御的な運動戦略が優先されれば、本来獲得したい運動とは異なる運動パターンが選択されることも考えられます。
もちろん、痛みが運動学習の獲得や保持に及ぼす影響については、研究結果が必ずしも一致しているわけではありません。
しかし、痛みによって運動戦略が変わるという事実を考えれば、どのような身体条件で運動を経験し、何を学習しているのかという問題は無視できないと思います。
■ 脳卒中の運動障害だからこそ、末梢の問題を見落とさない
脳卒中患者さんでは、運動麻痺や感覚障害、姿勢制御障害などが存在します。
そのため、痛みによる防御的な運動反応が、脳損傷による運動障害の一部として解釈されてしまう可能性があります。
感覚障害や失語症、認知機能の問題があれば、患者さん自身が痛みや足の異常を適切に伝えられない場合もあるでしょう。
そう考えると、足趾、爪、皮膚、胼胝、靴や装具との接触状態などを確認することには、大きな意味があると思います。
すでにフットケアを積極的に取り入れている施設もあるでしょうし、決して目新しい話ではありません。
ただ、フットケアを皮膚障害や感染の予防、あるいは歩行のためだけのケアとして捉えるのは、少しもったいない気もします。
■ リハビリテーション専門職が、すべてを処置する必要はない
ここで大切なのは、フットケアが必要だからといって、私たちPT・OTが爪の処置まで自分たちで行う必要はないということです。
もちろん、リハビリテーション専門職として、足部のアライメントや軟部組織の状態、足関節や足趾の可動性、荷重パターンなどを評価し、必要な介入を行うことは重要です。
しかし、陥入爪や爪周囲の炎症、感染などについては、適切な医学的対応が必要になる場合があります。
医療機関に勤務しているのであれば、医師や看護師に問題点を報告し、対応を検討してもらうことができます。
また、私のように自費リハビリテーションを行っている場合でも、足部の問題を見つけて皮膚科などへの受診を勧めることはできます。
今回も、特別な処置を私自身が行ったわけではありません。
問題に気づいて、皮膚科での治療を勧めただけです。
しかし、それによって足部の痛みが軽減され、結果としてリハビリテーションの介入が行いやすくなりました。
私たちがすべての問題を解決する必要はありません。問題を発見し、それが運動機能に与える影響を考え、必要な専門職につなぐことも、リハビリテーション専門職の大切な役割だと思います。
むしろ、運動障害の原因を脳損傷だけに求めず、末梢の問題にも目を向けること自体が重要な臨床推論なのではないでしょうか。
■ 運動学習の前に、運動学習が成立しやすい身体条件を整える
私たちは脳卒中患者さんに対して、どのような運動課題を設定し、どのように反復するかを考えます。
しかし、その運動の背景にある末梢からの感覚入力や、姿勢制御の条件にも目を向ける必要があると思います。
足趾の痛みを取り除くことは、単なる疼痛緩和にとどまらず、防御的な運動戦略を必要とする条件の一つを取り除くことにもつながります。
もちろん、それだけで麻痺が改善するわけではありません。
しかし、脳損傷によって制約を受けた運動制御に、さらに末梢由来の制約を加えたままリハビリテーションを行う必要はないはずです。
脳卒中リハビリテーションの効率を高めるためには、運動を学習させることだけでなく、運動学習を妨げる条件を減らすことも重要なのだと思います。
フットケアは、その身近で重要な一つなのでしょう。
■ 急性期から慢性期まで、すべてのステージでフットチェックとフットケアを
最後に、ここは特に強調したいところです。
フットチェックやフットケアは、歩行練習が始まってから必要になるものではありません。
急性期では、まだ起立や歩行が困難な方も多いでしょう。
しかし、その時点から足趾や爪、皮膚の状態を確認し、痛みや炎症などの問題を早期に発見して対応することが、その後の起立・歩行練習や運動学習に向けた身体条件を整えることにつながります。
回復期では、荷重量や活動量の増加に伴い、新たな足趾や爪、皮膚の問題が生じることもあります。靴や装具との適合状態も含めて、継続的な確認が必要です。
そして、生活期・慢性期になっても、その重要性は変わりません。
感覚障害によって足部の異常に気づきにくい場合もあれば、長年の痛みに対する防御的な運動戦略が、日常的な運動パターンの一部になっている可能性もあります。
つまり、初回評価で一度確認すれば済むというものではないのです。
また、これは歩行が可能な方に限った話でもありません。
歩行困難な方、車椅子を利用されている方、上肢機能の改善を主な目標としている方であっても、足部の状態が姿勢制御や運動課題の遂行に影響する可能性があります。
急性期、回復期、生活期・慢性期。どのステージであっても、フットチェックと適切なフットケアは、脳卒中リハビリテーションの基本的な評価と介入の一部として位置づけておくべきだと思います。
高度な神経科学の知識や専門的な運動療法も大切です。
しかし、目の前の患者さんの運動がなぜ変化しているのかを考えるとき、足趾の爪や皮膚を確認するという、ごく基本的な行為が重要になることもあります。
そして問題が見つかれば、自分たちにできる介入を行い、必要であれば他の専門職につなぐ。
それだけでも、リハビリテーションの進め方が変わる場合があるのです。
足の問題は、足だけの問題ではありません。
脳卒中による運動障害だけを見るのではなく、その運動を成立させている身体全体の条件を考える。
その意味でも、急性期から慢性期まで、すべてのステージでフットチェックとフットケアを当たり前のものにしていく必要があるのではないでしょうか。
(^^;;

関連文献
・Hodges PW, Tucker K. (2011). Moving differently in pain: a new theory to explain the adaptation to pain.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21087823/
・Tomita Y, et al. (2024). Altered Anticipatory Postural Adjustments During Whole-Body Reaching in Subjects With Stroke.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38347695/
・Izadi M, et al. (2022). Motor Learning in Response to Different Experimental Pain Models Among Healthy Individuals: A Systematic Review.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35399361/



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