とあるセラピストからの疑問です。
確かに橋網様体は頭の中のことで、見えないですよね。
皮質橋網様体脊髄路(pAPAs)が賦活されるとはどういった状況を指すのでしょうか?
橋網様体脊髄路が賦活されたとセラピストが判断するには、皮質橋路(前頭橋路/頭頂橋路/側頭橋路/後頭橋路)の出力が橋網様体脊髄路に投射されていて橋網様体脊髄路が活動することと、橋網様体において賦活されていない状態と比較してAchより5-HT(セロトニン:モノアミン系)の濃度がましていることが条件になっているものと思います。
ほんと、リハビリの場面では可視化できなさそうですよね。
だけど、脳の活動はおおむね姿勢や運動として表現されます。
では、脳幹網様体において5-HTの濃度が増す状態は一体どのようなことになるのかと言うことを考えると、皮質橋路の投射が運動に繋がりやすくなるという事が解っています。橋網様体脊髄路の投射先は体幹筋で、その活動は抗重力的な活動に繋がるとされていますので、姿勢が抗重力的に変化することは橋網様体脊髄路が賦活されていると考える要素になります。
また、脳幹網様体で5−HTの濃度が増すと言うことは、前脳基底部の投射も増えると考える事が出来ますので、前脳基底部マイネルト基底核からの大脳皮質に対するAch広範囲投射系が賦活されることになります。広範囲Ach投射系は皮質の興奮精細胞の興奮を速やかに抑制することで次々と送られてくる情報に素早く細胞の興奮をさせることが出来るようにして認知や運動能力を高めていることが知られています。
ですので、話しかけても反応が遅かったり話しかけられた方向を見ずに答えていたりされていたとしてそれが素早く応答されたり話しかけたらふと目線を合わせたりしていただけるような反応が出てくるはずです。
そういった事が様々起きてくるような状況が起きることと、姿勢/運動が安定性持った抗重力性を得るような状態があるのであればおそらく、橋網様体の神経伝達物質の状況は賦活されていると判断することが出来ると思います。
それはその人の印象が、介入する前より介入した後の方がしっかりした感じになるのでは無いかと。
そういう言い方をすると科学的では無いと言われそうですが、その人を取り巻く「空気感」が表現できる評価基準は私の知るところではないので。
そこはご容赦ください。
(図は、2006年の高草木薫先生の講義資料を引用させていただきました。)
2022/08/01
もう少しだけ詳しく書いておきます。
網様体脊髄路は、図示したように伝達物質によって促通性網様体脊髄路にも抑制性網様体脊髄路にもなるわけです。
促通性網様体脊髄路の働きは、基本的には共収縮です。
四肢あるいは四肢近位部においては、共収縮は安定性として働くのですが、体幹の深層筋では多裂筋ー腹横筋ー骨盤底筋群の共収縮によって腹圧が上昇して横隔膜を押し上げることで抗重力伸展活動となります。
もしかすると、これらのことが観察のポイントになるのかもしれないですね。
2023/5/5 追記です
まだ、時折この記事を見に来ておられるかたがいるようですので少しだけ。
元々、この話題は、MMTとか数値化すれば状況は把握出来るけど、網様体脊髄路の賦活なんて解らないではないかと言った疑問にお答えしようと頭をひねりながら書いたものなのですね。
最終的には、結局観察と推論でと言うことになりますので、MMTの様に数値化出来るメジャーはありません。画像所見で脳幹内の神経伝達物質を見ることができれば或いは臨床像と結びつけやすいのかも知れませんが、それでもまだ足りないと思います。
だけどですね。
MMTであっても、数値化されたものがどれだけのことを表しているのかというのは実は不明だと思うのですよ。
例えば、指の伸展の筋力をMMTで検査したとしましょう。
その結果特定の数値が出るわけです。
しかし、総指伸筋はそれが単独で存在しているわけではなくて、僧帽筋から連なる筋組織です。筋繊維は筋内膜とインテグリンで接続され、張力を伝えるのはファシアと言うことになりますよね。このファシアの構造をどこでもこの途中を切断する、例えば三角筋を切ったり僧帽筋を切ったりしても、指の張力は減少することになります。
指の伸筋のMMTはいったい何を見ていることになるのかと言ったら、これらのつながりが、構造的状況、位置的な配置状況、軟部組織内の摩擦抵抗、この範囲の痛みの有無。これら全体の組織に対する神経学的な支配の程度、アセチルコリンの量や受容器の程度、筋繊維の数、その他諸々の結果を見ているので、正確に総指伸筋の筋力を見ているとは言えません。
というか、総指伸筋という文字は、この写真で見る一連の軟部組織の位置を切り取って表現しているだけです。全体の中の一部なので、そこだけを切り取って表現することや、そこだけの力を測ることなど、理論的に無理なのだと思うのです。(全体は部分の和より大きい)
ですので、最終的には何がどうなって、その筋力となっているのかと言った事を臨床的に推論をつくるしか有りませんよね。
「推論が必用だ」。そういった意味では、MMTで有ろうと、橋網様体が賦活したかどうかで有ろうと、結局は同じだと。「私は」そう考えているのです。
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