左片麻痺の麻痺側への荷重

昨年終わりぐらいからご利用いただいている方がおられます。

左の上肢に強い麻痺で歩行は出来ておられます。

だけど、左上下肢の身体図式は混乱されておられるようです。特に下肢は比較的確りした支持性をお持ちで私が誘導すると膝の屈曲位でも体重を支えられることが出来ておられます。

歩行中に左上肢の屈曲が目立つため、上肢が連合反応で曲がってこないような歩行を獲得するのは一つの目標です。ご本人は左手を使える様になりたいという強いご希望があります。

左に体重をかけてみてくださいと言葉でお伝えしたところ、座位であっても立位であっても、左肩甲帯を少し後ろに引きながら身体をねじるように左に側屈させて重心を左に移しておられます。

歩行時もこの方法で、左に体重をかけて非麻痺側の右足を降り出されます。杖は使用したくない様子で、杖があった方が良いかもしれないと言うことをお伝えするものの杖自体を持ってこられることはありません。

プラットホームに座っていただいて手の様子見ながら情報を集めます。

左手をプレーシングしていただくように操作していくと肩甲骨が不安定に下方に落ちていきます。内側縁は胸郭から離れ、翼状肩甲のようになります。重くて90度ぐらいからは抵抗感も増してきます。

左広背筋も短縮しながら粘弾性を失っているようです。ここの感覚は三角筋などの抗重力筋に相反抑制作用をおこしているかも知れません。

肩甲骨から上腕骨に付着する筋に触れると硬くて粘弾性に乏しい感じです。特に肩甲下筋や棘下筋、小円筋あたりはその印象が強いです。ですので肩甲骨と上腕骨が上手く離れてくれません。手をプレーシングさせていっても体幹は左に側屈する傾向の姿勢を維持して手の状況に応じて体幹の姿勢を変化させることは余り観察されません。ですので、上肢の身体図式は結構乏しいのではないかと感じます。

常に体幹は左に崩れているように見え、右は肩甲帯をやや挙上して緊張されておられます。右の体幹は常に伸びている感じです。このことから、左座骨周囲の感覚から左体幹を抗重力的に働かせる作用も乏しいのだと感じ、座骨周囲の固有受容感覚も乏しそうだなぁと当たりをつけます。立位でも同様の姿勢なので同じように左足部の感覚から左体幹の抗重力性をつくっていただくのは難しそうだと考えます。

左上肢の三角筋の収縮や前鋸筋による肩甲骨の安定が乏しいのは左体幹の抗重力性の弱さによるものかも知れません。プラットホーム上の座位で、前に昇降テーブルを置いて左手の状況を整えつつ少しでも感覚が入力しやすい状態をつくって行きます。両側の僧帽筋、左の肩甲骨付着筋の粘弾性をつくりながら上肢の感覚が少し適正に入りやすいように調整して姿勢を整えていきます。頭部の正中軸をつくるために両上肢をまっすぐテーブルに置いて体幹を正中に維持していただける様に視覚的な手がかりにしていくと正中は維持しやすいようです。

体幹の働きは分節性に乏しく、その姿勢から脊柱の抗重力伸展活動とか従重力伸展活動をおこそうとすると頭部も含め脊柱全体を曲げたり伸ばしたりしてしまいます。

体幹の筋活動は起きているので網様体脊髄路は促通性に働いているようですが、橋網様体脊髄路の出力先である多裂筋などによる分節性が乏しいようです。

ですので、頭部を維持しながらどちらかというと腰部の動きを強調して分節的な脊柱の活動を感覚的につかんでいただける様にしていきます。

ある程度実現できたように感じたので、左右の様子を見ます。

左に荷重をかけようとすると抵抗されます。左の感覚が充分ではないのでしょう。ここでも左にかけてみてくださいと声をかけると体幹を左に側屈されます。

左にかけるという意志とその際に無意識下で左に側屈するという姿勢出力プログラムが強く結びついているのでしょう。

左にかけていくのを言ったん諦め、右座骨に加重して右の体幹は抗重力伸展を維持していただきつつ、左の骨盤を上げていただく(左体幹の側屈/左骨盤の挙上)ことと、下ろすことを右の座骨の重心移動でおこしていただくように操作していきます。「難しいですね」と、骨盤の制御の困難さを自覚されますが、続けると少し上手になってきました。

もう歩行が可能な方ですし日常的に歩いておられるので、姿勢を立位に近づけ立位での姿勢制御に課題を変えていこうと考えます。

しかし立ってしまうと左に崩れるのは目に見えていたので、少し四つ這いのような姿勢(写真のような感じ)を選びます。

上肢をついていることで上肢の荷重による肩甲帯の安定性の構築や、座位でつくった体幹の分節性を生かしていただけるかも知れないという期待を込めての姿勢です。



左上肢の支持は出来ていました。しかし、その状態から右手を離していただこうとすると重心を右後方に移してあげようとされます。しかも大変そうです。

ですので、少し左に重心を移すように操作すると、その操作される感覚から左に重心を移すといういつもお使いの姿勢制御プログラムが発動するようで左上肢の支持を失い左手は屈曲、体幹を左に側屈させて右手を挙げようとされます。当然上手くいきませんのでかろうじて瞬間的に右手を台から離す程度の感じです。

ですので、この四つ這いのような姿勢でそのまま少しずつ重心を移動するように操作を加えつつ左に重心が移動した際に左の体幹が伸びるようにしていきました。

ある程度左に持って行くときに左側屈をおこさずどちらかというとわずかに左体幹が伸びるような感じになってきたので、再び、右手を挙げてみていただこうとすると、また体幹が左に側屈をしてしまいます。

意識を外すようにした方が良さそうだと思って、机の上に将棋のボードと説明書、駒を置きます。右手にある駒を中心の説明書にある様な配置にするように左のボードに置いていくような感じで。



私は黒子のように姿勢制御が上手くいくように操作していきます。すると、上手く左で体重を支持しながら駒を移動させることが出来るようです。その姿勢制御が学習されるように期待してしばらくこの課題を繰り返しました。そしたら結構上手になってきました。

この状態で、右手を離してと口頭指示するときちんと左に荷重をかけて左体幹は伸びてます。この姿勢においては、左に体重を移すという意識と左の抗重力伸展を伴う荷重姿勢制御が脳の中の選択肢の一つに入ったようです。このあたりは高次運動野でのプログラムの多様性/高次運動野から網様体脊髄路への出力/基底核ループでの姿勢運動選択/基底核から網様体脊髄路への出力などの無意識下の協調が改善してきていると捉えても良いのではないかと感じます。



ここで、その姿勢制御を使って左手のCHORで左下肢の荷重を上手く制御しながら右下肢のスイングに持って行って歩行時の上肢の制御がしやすいように持って行くか、左肩甲帯の安定性を基盤に手指の活動に持っていくか少し悩みますが、手の動きに対するご希望が非常に強いので手の方に展開していくことにします。

結論的に結うと今回初めて随意運動として左母指の外転と示指の伸展を出現させることが出来ました。しかし、意識的に制御しようとする気持ちが強くなると手は屈曲していきます。

何度も意識と無意識の間で手指の伸展をおこしていくように操作していきます。

このとき、この方の表情をみるとかなりお疲れのようです。「疲れましたか?」と問いかけると疲れていませんと言われます。

おそらく中枢性の疲労ではないかと推測します。

極度に麻痺側上肢にふったアプローチで手指の活動まで出現し始めていますが、損傷を受けた周囲の血流が足りず働かせている部位が軽く酸欠のようになっているか、神経細胞の働きによって出た老廃物が上手く流れていっていないかのいずれかではないかと推測しました。

ですので休息を挟みつつ行うようにしていきます。休息の時間はその人の表情などを観察しながら決めていきます。休息の時は本当に何も考えないよう、できるだけボーッとして欲しいと伝えておきます。

臥位で休息を挟むべきかも知れないですが、その前後の姿勢変化の活動を考えると時間が惜しかったのでそのまま座位で休息をとっていただきました。

繰り返していると眠たそうな表情になられましたので、その日の手はそこまで。

その後、課題を歩行に切り替えて行きます。

股関節と膝関節を屈曲させて重心を低くした姿勢のまま歩行していただいてみると、その際には上肢の屈曲を余り起こさず確り麻痺側下肢への荷重をおこすことが出来るようになっているようでした。しかし、直立位ではまだ習慣的な左への側屈が残っています。

まだまだ課題はたくさんあるなぁと考えながらその日は終了です。

今日できたことと課題について。そして、中枢性の疲労と思われるボーッとしたり眠くなったりすることに対して簡単に説明して、この指の動きを今後安定して出していくためにはどのようにするべきかなどを説明しつつ少し手伝いながら両手で靴下をはくような課題を行っていただき、一人でするときは少なくとも靴下の近くに左手を持って行くだけでもしておいて欲しいことをお伝えしました。

そして、今日のように疲れたときは確り休んでいただくように話はしたのですが、焦りはおありでしょうから、また来られた際に睡眠状況などの経過を聞かせていただくことを忘れないようにと記録をとっておしまいです。

(脳の神経細胞外環境のことを考えて)1日ぐらいボーッとしてても良いですよ言ったのですが、きっと焦って色々されるかもしれません。

少なくとも継続して安心していただくには次回さらに異なった運動を出現させる必用はありますね。


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