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脳の3つのネットワーク

脳の大規模ネットワークを考えるとき、特によく取り上げられる3つのネットワークがあります。簡単に説明しますね。

1)デフォルトモードネットワーク(DMN)内側に向かう脳記憶・想像・自己・物語・ぼんやり思考などに関わるネットワーク

2)実行制御ネットワーク(ECN/CEN)目的に向かう脳計画・論理・集中・抑制・問題解決などに関わるネットワーク

3)サリエンスネットワーク(SN)切り替える脳重要なものを見つけて、DMN・ECN・外界への注意などを切り替えるネットワーク

もっともらしい分類ですね。(^_^;)

現在では、脳科学において当然のように用いられているこの3つのネットワークが、どのように整理されてきたのかというお話をします。

基本的には、人間、あるいは動物の脳活動が、単一部位の働きではなく、複数領域の協調パターンとして現れることがわかってきました。その流れの中で、脳を部位ごとではなく、ネットワークとして分類する考え方が自然に生まれてきたのだと思われます。

ある意味、脳の情報処理におけるホーリズム、といったところでしょうか。

まず、1990年代から2001年頃にかけて、DMNの存在が明らかになってきます。

一番有名なのは、マーカス・レイクルらが2001年に発表した“A default mode of brain function”という論文です。

ここでは、外部課題をしていない安静時に、一定の脳領域が活動しており、逆に課題をすると活動が下がる領域群があることが報告されました。これが、後のデフォルトモードネットワーク、DMNの出発点となります。

面白いのは、課題中にいつも活動が下がる領域があり、それが何を意味するのかという観察から始まったことです。

つまり、課題をしているときに活動が下がる領域は、本当に何もしていないのか。その疑問から始まったと言えますね。

次に、2000年代より、実行制御ネットワーク、あるいは前頭頭頂ネットワークが明らかになってきます。

この実行制御ネットワークは、DMNのように「この一本の論文で命名された」というより、注意・ワーキングメモリ・課題遂行の研究の中で、徐々に整理されてきたものだと思われます。

中心となるのは、背外側前頭前野や後部頭頂皮質などです。計画、注意集中、ワーキングメモリ、課題遂行、認知制御に関係するネットワークとして扱われています。

これは、「課題をするときに働くネットワーク」として、DMNと対比される形で、徐々に重要になってきたものです。

このネットワークには、呼び名がいくつかあります。(^_^;)

  • Central Executive Network:CEN

  • Executive Control Network:ECN

  • Frontoparietal Network:FPN

これらは、かなり重なりを持った概念として使われており、広い意味では実行制御ネットワークを指す言葉として扱われています。

そして、2007年頃にウィリアム・シーリーらにより、サリエンスネットワークが明らかにされます。

サリエンスとは、「顕著性」や「目立つこと」を意味する言葉です。

シーリーらは、安静時機能的結合解析を使って、サリエンス処理に関わるネットワークと、実行制御に関わるネットワークを分けて示しました。サリエンスネットワークの中心は、前部島皮質と前部帯状皮質です。

このネットワークは、痛み、情動、危険、内臓感覚、違和感など、「これは重要だ」と脳が判断する情報に関わると考えられています。

脳科学の流れの中で、単にDMNが内的な情報処理、ECNが課題遂行に関わる、というだけではなく、

「では、その切り替えは誰がやっているのか?」

という問いが出てきます。

その問いに対する重要な答えの一つとして、サリエンスネットワークが入ってきたわけです。

そして、2011年にヴィノッド・メノンが、精神疾患や神経疾患の理解において、DMN・ECN・SNの3つを軸にしたtriple network modelを提案します。

このモデルでは、サリエンスネットワークが重要な情報を検出し、DMNとECNの切り替えに関わっているとされています。

また近年のDMNに関するレビューでも、3ネットワークモデルにおいて、サリエンスネットワークは行動上重要な外的イベントを処理し、DMNの抑制や実行系の関与につながる中心的な役割を持つと整理されています。

このような形で、DMN・CEN・SNという3つのネットワークが定義され、整理されてきたと言えそうです。

さて、これはある意味、脳の情報処理におけるホーリズムのような概念に見えますよね。

そして、非常に簡便でわかりやすい分類でもあります。

ただ、こうした分類が本当に必要だったのかどうかと考えると、私は少し引っかかるところもあります。

もちろん、一般に概念的に理解するには、DMN・CEN・SNという分類はとても有用だと思います。

しかし、これらの機能を実際の行動やリハビリテーションの場面で考えるとき、おそらく基底核ループと上縦束の働きが大きく関わっているように思うのです。

基底核ループは、情動や価値判断、行動選択に深く関わります。上縦束は、前頭葉と頭頂葉などを結び、情報の拡散と収束に関わります。さらに小脳は、皮質情報処理の予測や修正に関わっていると考えられます。

そうした視点から言えば、基底核ループの働き、上縦束による皮質間連絡、小脳による予測と修正といったネットワークがある程度理解できていれば、DMN・CEN・SNをわざわざ分ける必要はなかったのではないかとも思うのです。

ただし、これはDMN・CEN・SNの分類に意味がないということではありません。

DMN・CEN・SNは、脳活動を大きな機能的ネットワークとして見るための「地図」として、とても有用です。

一方で、実際にその地図の上で、行動を選択したり、注意を切り替えたり、環境に応じて身体を調整したりしている仕組みを考えると、基底核、上縦束に代表されるような白質線維、小脳、身体感覚、情動などを重ねて見る必要があるのではないかと思います。

メノンが示したように、これら3つのネットワークは、生存のためにさらに一つのシステムとして統合されているわけですからね。

脳は、DMN、CEN、SNという部品に分かれて働いているというより、状況に応じて、内側に向かったり、外界に向かったり、目的に向かったりしながら、常に全体として行動を選択している。

そう考えると、やはり脳は「部分の集合」ではなく、「生きるために統合されたシステム」として見る方が自然なのではないかと思います。

などと、生意気にも考えたりしました。

(^_^;



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