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三角巾などのアームスリング


三角巾や類似する肩関節内旋/軽度屈曲/肘屈曲で肩を安定させるアームスリングがあります。使用しておられるかたも多いかもしれないですね。あれってどうなんだろうなと思って・・・


肩関節の構造を見てみます。

肩関節は肩甲骨-鎖骨-胸骨の動きが唯一骨構造との間で接続していて、これを胸鎖関節と肩鎖関節と呼びます。

肩甲骨は上腕骨の動きを大きくするように肋骨の曲面上の面を滑るように動きます。骨との接続はないので正確には関節ではないですが肩甲骨と肋骨の間を動くので肩甲胸郭関節と言います。

肩甲骨の上に肩甲棘の棘突起と鳥口突起の間に靱帯がはっていて、それが上腕骨の上側を支えるのでこれも骨構造とつながりはなくて厳密には関節ではないのですが上腕上方関節と呼びます。

肩甲骨の関節窩と上腕骨は関節を構成していて、これを肩甲上腕関節と呼びます。

この5つの関節を動かすことで肩は大きな可動性を持っていると言うことになります。


大きな可動性を持つと言うことは、それだけ不安定だと言うことも言えますね。

骨構造と関節包だけでつなげた図を見ると上肢の重さで肩甲骨と鎖骨は胸鎖関節を中心にグルリと下に落ちちゃいますね。

ですので、鎖骨を安定させている感じで頭部から鎖骨についている胸鎖乳突筋があります。だけどこれだけだと弱そうですよ。鎖骨の安定には肩甲骨を安定させておくことは必要です。



肩甲骨と上腕骨の関節面が体幹から離れにくくしておく必要がありますがそういった働きを持つ筋の一つに肋骨から肩甲骨烏口突起についている小胸筋があります。これは肋骨の全面から肩甲骨の鳥口突起についています。この筋だけだと、ちょっと安定した鎖骨を中心に烏口突起から肩甲骨全体を引っ張り下げるので、肩甲骨が肋骨から後ろに離れるように浮き上がってしまいます。

そうすると肩甲骨を浮き上がらないように安定させる必要が出てきます。前鋸筋は肋骨から始まり、肩甲骨の内側、脊柱の近くの方に付着します。ですので、肩甲骨のない側面を肋骨の方に向けて安定させるモーメントが生じます。ただ、これだと今度は肩甲骨が肋骨の間を外側下側に滑ろうとしてしまいますね。

そこで、肩甲骨を脊柱方向に安定させる筋も必要です。



肩甲挙筋/大小菱形筋が肩甲骨を脊柱側の上方に引き上げていますね。

さらに僧帽筋がそれらを上から包むようにして肩甲棘に着いています。

僧帽筋の上部線維や肩甲挙筋が肩甲骨を引き上げ、鎖骨は胸鎖乳突筋が上方に持ち上げていて、大小菱形筋が肩甲骨を脊柱に近づけながら引き上げているのを前鋸筋が肩甲骨を胸郭から離れないようにしている。この状況で手の重さや肩甲骨自体の重さで肩甲骨が下に落ちちゃうようなことはなさそうです。

これでかなり肩甲骨は安定してきている感じですね。

肩甲挙筋/大小菱形筋/僧帽筋/前鋸筋/小胸筋は体幹と肩甲骨を結ぶ筋群です。


肩甲骨が安定したところで、肩甲骨と上腕骨を結ぶ筋群を見ていきます。

肩甲骨からは回旋筋腱板(棘上筋/棘下筋/小円筋/肩甲下筋)は上腕骨の骨頭を包み込むように上腕骨に着いています。肩甲骨が安定していれば棘上筋は上腕骨頭を肩甲骨の関節窩に引き寄せながら僅かに下に落として肩関節外転の初期に重要な働きを持ってます。棘上筋と棘下筋は上腕骨を外旋させ、肩甲下筋は内旋に働きます。が、上腕骨を肩甲骨の近くで安定させておくような働きもあります。


肩甲下筋はその前方に前鋸筋や前鋸筋のさらに前方にある長肋筋などがありますので、肩甲下筋と前鋸筋/長肋筋等の滑りが悪くなると臨床的には問題があったりするので注意が必要な場所です。

あと、肩甲骨下角あたりから大円筋が上腕骨に付着しますが、上腕骨の内転に働きます。人によっては広背筋と言われる骨盤から上腕骨に付く筋と接続している場合もあり、これも違った意味で注意が必要ではあります。


三角巾などでは棘上筋/棘下筋/小円筋は常に引っ張られて肩甲下筋は短縮している状態を持続することになります。

外旋筋群が引っ張られると持続的に筋紡錘や腱紡錘からの入力が起きていますので、内旋筋である肩甲下筋は筋活動が低くたるんだ状態で動きを失い他の筋と癒着したりすることになります。動かないのに上腕骨前面は緩いわけですから上腕骨頭が前方にずれやすい要因の一つになっているかもしれませんね。



三角筋は前部繊維/中部繊維/後部繊維に分けられます。それぞれ鎖骨/肩甲骨棘突起/肩甲棘あたりに着いてます。で、上腕骨と接続することで大きく上腕骨を動かす筋肉です。だけど、この図を見てもらうと解るように上腕骨を肩甲骨にぶら下げているようにも見えますね。これらの筋が充分働くためには鎖骨/棘突起/肩甲棘が安定していないといけないわけです。ところが、前に書いたようにそれらを安定しているのは体幹と肩甲骨をつなげる筋群です。

三角巾は常に上腕骨を前方に出していますので、肩甲骨はそれに伴って外転、つまり外側にいつも引っ張られているわけです。それを止めようとする筋肉が肩甲骨を内転させる筋群ですが、止めようとすれば肩甲骨を外側に持ってくる前鋸筋のような筋肉は持続的な抑制を受ける可能性があります。すると、肩甲骨は胸郭肋骨面に張り付く力を失うので不安定になります。

何だか三角筋も働く力を失いやすそうですよね。


上腕二頭筋と上腕三頭筋です。体の前側が上腕二頭筋で後ろ側が上腕三頭筋。肘を曲げたり伸ばしたりとか上腕骨を屈曲させたり伸展させたりする筋肉ですね。

これもよく見ると、肩甲骨から上肢をぶら下げているように見えますよね。

三角巾は肘を屈曲させて安定させます。ですので、上腕二頭筋は基本的に活動が弱くなります。片麻痺の人で二頭筋の姿勢筋緊張が強いと言われる人でも、肘を完全に屈曲させることが出来る人は少ないですよね。だから、たるんでいるのに硬いと言えるのでしょう。

とくに肩甲骨付近では後ろ側の三頭筋は肘の屈曲で引っ張られているのに、前側の二頭筋はたるむわけです。上腕骨頭は前方にずれ放題ですよね。


構造的に考えると、三角巾は肩関節の亜脱臼を促しているようなものなのかもしれません。

中枢神経においても麻痺側上肢を隠し、感覚入力を制限していると言えるでしょう。脳は筋出力プログラムを生成するための固有受容感覚が入ってこないので、出力を出そうとしなくなるでしょう。

中枢神経系から見ても三角巾はやはり良いものではなさそうです。

唯一、三角巾が有効と思っているのは手の位置が知覚できない人が手を挟んだりひねったりすることが予測される場合ですが、その場合においても安全なときは外し、危険なときはつけるといった作業をすることで麻痺側上肢への感覚入力を行って手の位置関係を知覚するようにすべきで、三角巾をつけっぱなしと言うのはあまり良くないと私は思うのです。

何らかの工夫が必要ですよね。

最近はアームスリングも様々なタイプのものがありますので、適合と目的を考えて使用方法や使用頻度を個々に考えて行くべきなのでは無いかと思ったりします。

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