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執筆者の写真Nagashima Kazuhiro

BodySchema


先日の研修会で少し話題に上ったBodySchema:身体図式の話です。

似た言葉にBodyImageがありますが、Imageの方は、視覚的で顕在的な自己身体に関する知識を指す(私は身長が167センチで,中肉中背、髪は白髪が多い。などなど)ものです。

それに対してBodyImageは身体に関わる潜在的な知覚の枠組みです。意識には上がらないけど、身体の位置関係などについて解っているというような情報を指しています。


身体図式は、

  1. 再帰的な意識、自覚を必要としない。身体運動を意識下で調整している主体である。したがって、ひとが身体図式に対して顕在的な知識を持っているとは限らない。

  2. サル、ヒトの脳に共通して、大脳皮質の頭頂葉連合野および運動前野が身体図式に関わっている。ヒトでは特に頭頂連合野の損傷によって、身体図式の障害が起こる。

  3. 身体図式は変容する(可塑性を持つ)。日常的には、ある道具の使用に熟達すると、私たちは道具を持っている手そのものではなく「道具の先端」で対象を感じがちである。身体図式は感覚運動学習の結果、あるいは実験的に作り出された錯覚によって、一時的に変容させることもできる。

と記載してあります。

ここで重要なのは、3.に書いてある「身体図式は変容する」という事です。

身体図式も人が環境に対して適応するための情報です。

身体状況の変化に対して、柔軟に変化することが求められる情報だといえます。

例えば、スキー靴を履いたら足関節の可動性がなくなります。その状態で歩行を可能にするためには足関節が動かないという情報を元に下肢の運動パターンを生成或いは選択することになります。その基盤となる身体情報は、足関節に運動出力を送り、下腿三頭筋なり前脛骨筋なりが収縮したにも関わらず足関節が稼働していないという身体情報が固有受容感覚として体性感覚野に送られます。視覚情報には移動しようとした結果予測される視覚情報ではなく、バランスを崩して下の方をみてしまったり或いは、思ったより前に進んでいないという予測と異なる視覚情報が入力され処理されることになります。同様に、前庭感覚も加速度や進退の位置関係、傾きなどの情報が予測とは異なる情報として入力処理されます。それらの情報はバランスを崩さないように小脳で処理されつつ下頭頂小葉に送られリアルタイムに身体図式を更新し、スキー靴を履いても歩いて移動できる情報処理-出力となって歩くことが出来るようになるのです。


ここで重要なのは、BodySchemaはリアルタイムで情報処理され変化するという事実です。

その後、繰り返しによりBodySchemaの再学習というべき状況は起きるであろうと推測されますが、変化その物はリアルタイムに起きるよう情報処理されているのです。


病院に勤めているとき、脳卒中病棟ではイニシャルカンファレンスという事をしていました。病棟で患者さんのところに関連職種が集まります。新しい患者さんの医学的情報を医師がプレゼンして、その後、セラピストが身体状況を確認しながら損傷部位と現在の身体状況を確認し、脳損傷部位と身体反応の比較検討から予後を予測しつつ大まかなリハビリの方針を決めていくというカンファレンスです。

10分とか15分ですが、多くの場合セラピストの介入により変化は起きます。例えば、医師が患者さんを座らせて話しかけます。左方向の無視のある方は声を左から話かけてもより右の方を向いたりして眼球運動も起きないか、さらに右方向を探索される方も少なくありませんでした。



しかし、麻痺側上肢から丁寧に感覚を入れて行ったりマヒ側手を床面においてCHORを作ったり、マヒ側の下肢や座骨に感覚を丁寧に繰り返し入力しながら正中軸と垂直軸をできるだけあるべきところに修正していったあと、左から声をかけるとわずかに頭部が左へ回旋したり眼球が正中に近づいてきたりと変化することが多いです。

それは、身体の感覚情報処理から重力に対する身体の位置関係を適正な位置に変化する能力が高まり、結果的に正中垂直軸が介入前よりよりよい状況に変わっているため、その体性感覚-視覚-前庭感覚の情報から下頭頂小葉のBodySchemaが変化し、結果的に頭部の追視や眼球運動に繋がったと推論を組み立てることが出来ます。

当然変化しないかたもおられます。そういったときは、情報処理その物が難しい状態〜例えば損傷その物が姿勢制御に関わる脳の皮質を広範に壊しているか、皮質損傷によって神経細胞の周囲の環境悪化、例えば細胞破壊によるカリウムイオンなどの流出から神経伝達がまだ起こりにくい状況であったり、BADの様にまだ血流自体が不安定で神経系の情報伝達に必要な酸素やエネルギーが供給されない状態を想定するわけです。

そういった方には無理に起こすとかそういった事より臥位での姿勢変換や臥位自体で落ち着ける感覚情報はなにかを考えたりするのですけれど。


そういった臨床経験から、BodySchemaはリアルタイムに更新されるという意見を私は支持しています。

BodySchemaは良くも悪くも変化するものであるという認識です。


研修会の時に、急性期からの先生が、急性期で非麻痺側の手や足をベッドの外に出していたり、ベッドの柵に足を引っかけるような環境に対して適切な姿勢を取っておられない患者さんに対して、手や足から丁寧に感覚を入れていくときちんと姿勢が整っていくことが多いとお話をされておられました。

それも、麻痺した方の身体情報が脳で適切に処理できない状況が、感覚入力が情報処理されて落ち着きを取り戻しベッドという環境の中で適切な姿勢を取ることが出来るようになったのでは無いかと思いながらお聞きしていました。


急性期であっても回復期であっても、それ以降でも。

脳卒中に限らず整形疾患であったとしても、BodySchemaは適切な状態から逸脱している人は多いと思います。

ですので、より適切な情報処理~BodySchemaを作るための介入はセラピストにとっては大きな課題なのだろうと思っています。



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