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脳卒中急性期と長谷川式スケール

最近、重い感染症と認知症リスクの関連を示した研究が報告されました。


フィンランドの全国規模データを用いた研究で、入院を要するような重い感染症は、その後の認知症リスク上昇と関連し、その関係は他の併存疾患を調整してもかなり残ったとされています。

研究者たちは、感染症が認知症診断の平均5〜6年前に起きていることから、感染や炎症が脳の脆弱性を表面化させたり、認知機能低下を加速させたりする可能性を示唆しています。

もっとも、観察研究なので因果関係そのものを証明したわけではありません。

ですが、少なくとも「重い感染や炎症は脳機能に関係しうる」という方向性は、かなり強く支持されたと言ってよいでしょう。

実際、近年では、全身性炎症や感染がBBBやグリア機能に影響し、脳内環境を不安定化させうることも示されつつあります。


こうした知見を踏まえると個人的には、感染や炎症が認知機能低下に関与するということは、かなり因果関係に近いと思っています。


さて。

ここで改めて考えたいのは、急性期脳卒中の患者さんに長谷川式スケールを安易に実施することの意味です。

感染や炎症が脳に影響するなら、急性期に起きているのは「その人本来の認知機能の低下」ではなく、発熱、全身炎症、倦怠感、痛み、不安、睡眠障害、薬剤、注意障害、意識水準の揺れなどを含んだ、きわめて”状態依存的”な脳機能の乱れである可能性が高いわけです。

実際、高齢入院患者では、急性発症と変動を特徴とするせん妄の評価が重要であり、せん妄のスクリーニングでは注意や覚醒を短時間でみる手法が重視されています。

逆に言えば、長谷川式のような認知スクリーニングの点数を、そのまま「この人の認知機能」と考えるのは、かなり無理がありそうですよね。


要するに、急性期に長谷川式を取って低得点だったとしても、それは認知症の程度を測っているのではなく、その時の脳内環境の悪さを測っているだけかもしれない、ということです。風邪で高熱がある時に知能検査をされたら、誰だってイライラしますし、集中もできませんし、点数も落ちるでしょう。そんな当たり前のことを、病院に入った途端に忘れてしまうのはおかしな話なのです。


しかも問題は、点数が低かったことそのものではありません。その低得点が、患者さんの“能力”として固定的に解釈されてしまうことです。本当は急性の炎症反応やせん妄、全身状態の悪化の影響かもしれないのに、「認知が悪い人」として扱われてしまう。これは評価ではなく、雑なラベリングです。


さらに言えば、急性期の患者さんに検査をすること自体が負荷になります。しんどい、だるい、痛い、不安だ、頭が働かない。そんな状態の人に質問を重ね、できないことを確認していく。それで得られる数字にどれだけの意味があるのでしょうか。

それは評価者が安心するための点数であって、患者さんの理解に役立っていないなら、その評価は再考されるべきです。


OTは「認知を見る職種」だと言われます。ですが、認知を“点数で雑に切り取ること”が認知を見ることではありません。その人が今、なぜ答えられないのか。なぜ注意が続かないのか。なぜ反応が鈍いのか。そこに炎症や疲労や不安や環境変化がどう絡んでいるのか。そういうことを考える方が、よほど認知を見ています。


急性期に長谷川式を取ることが、絶対に無意味だと言いたいわけではありません。経過の中で状態変化を見る材料になる場面はあるでしょう。ですが少なくとも、急性期の点数をその人の本来の認知機能として扱うのは乱暴ですし、患者さんへの負荷まで考えれば、もっと慎重であるべきだと思います。



炎症が脳機能に影響する。そんなことは、考えてみれば至極当たり前の話です。むしろ、今までそこをあまりに軽く扱ってきたことの方が問題だったのではないでしょうか。



追記:

あ、ちょっと関係ないですけれど。

そう言えば、明らかに失語症の患者さんの長谷川式スケールをとれと言われたのは、ちょっといらつく笑い話です。

評価の目的が失われると、現場ではこうしたことが起きてしまうんですね。

(^_^;



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