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神経細胞死と早期リハビリテーション

更新日:2023年7月22日

以前、脳損傷後の神経細胞死のメカニズムについて記事を書きました。



簡単に紹介すると、神経細胞内はカリウムイオンが多く、ナトリウムイオンが少ない状態です。細胞外にはナトリウムイオンが多くて、カリウムイオンが少ない状態です。両方とも+イオンですので、反発し合っています。神経細胞が刺激を受けると、ナトリウムイオンチャンネルが開いて、細胞内にはナトリウムイオンの濃度が細胞外より低いのでナトリウムイオンが細胞内に流れ込みます。すると、細胞内は+の電位になります。その後、カリウムイオンチャンネルが開いて、カリウムを細胞外に放出して電位が元になります。その後、ポンプの働きで細胞内と細胞外の環境が元に戻るといった形で、神経細胞は発火したり、次ぎに備えたりするんですね。

脳損傷で神経細胞が壊れると、壊れた神経細胞内のカリウムイオンは細胞外に出てくることになります。

生き残った神経細胞のナトリウムイオンはまだ濃度が薄いままなので、膜興奮が起きてナトリウムイオンチャンネルが開くとナトリウムイオンが神経細胞内に流入して細胞内は+に傾きます。その後、カリウムイオンチャンネルが開いてカリウムイオンを放出しようとしても、神経細胞外には壊れた細胞からのカリウムイオンがあるので、濃度差で放出することが難しく、電位を元に戻すことができません。その後、ポンプが働いて元の状態に復帰しようとしますが、やはり細胞外の環境が変化していますので、細胞内環境は元に戻りにくく、ポンプは働きっぱなしでエネルギーを消費し続けて、最終的にはエネルギーが枯渇して細胞死を起こすといったメカニズムが想定できるわけです。


すると、細胞死を避けるためには、あまり神経細胞を興奮状態にしないことと、脳の神経細胞外環境を速やかに元通りにするということを考えなくてはいけないと言うことになりますね。特に、不安や過度な努力を要することなどで交感神経系の興奮が高まる~ノルアドレナリンが多くなると、アストロサイトの働きが悪くなって、グリンファティックシステムが働きにくくなることになりますので注意が必要だと考えられますしね。


さて、医療においては、早期のリハビリテーション、あるいは超早期のリハビリテーションが必要だという流れになってきているように見えます。

しかし、これが本当に正しいのかと言うことは考えなくてはならないような気がしてきませんか?

神経細胞死との関連は一体どうなのかという疑問が湧いてくるのではないかと思うのです。


早期リハビリテーションの効果として求められるのは、早期退院やADL低下予防などのようです。

これらの方針も科学的根拠によるものですね。


それも正しいとすると、どういうことになるのでしょうか?


例えば、

1)脳のペナンブラ領域の神経細胞が死んだとしても、脳の可塑性により運動機能の回復とADLが回復し、退院が早くなる。


2)脳のペナンブラ領域の神経細胞死とADL能力は、あまり強固な関連はないのでADLのリハビリは早期に行った方が効果が高い。


3)そもそも、麻痺の程度とか脳の神経細胞のことはリハビリテーションの効果基準として捉えず、ADLと退院時期を基準として考えることの方が適切である。


4)実は、早期のリハビリテーションを積極的に行わない方が経時的な予後が良い場合があるが、短期間のスパンでは早期に開始した方が結果が出やすい。


5)実は、そんなに神経細胞死は起きない。


6)早期にリハビリを行うとか行わないとかは、ペナンブラ領域には関係が無い。


7)早期から刺激した方が、脳血管運動を促すのでへの循環が回復しやすい。


8)ADLには脳の神経細胞の量より、末梢の筋を含む軟部組織の状態が重要である。


9)そもそも神経細胞死により失われる機能より、末梢からの感覚が脳の可塑性を刺激しやすい。



などなどが考えられる事でしょうか。

同じようなことの繰り返しになっているかもしれませんけれど。

どれも、推測の域を出ない仮説ですね。

7)はかなり無理矢理な感じの理屈ですけれね。脳血管運動にはグリアも関わっているので、細胞外環境は大事だと考えられますからねぇ。非麻痺側の過剰使用は脳の半球間抑制作用による結果、損傷脳の血流低下も可能性がありますし。


まぁ、そういった関連のことについて研究が進んでくれると良いのですが、なかなか難しいのかもしれないですね。


早期リハビリテーションを否定しているのではありません。

ただ、それらのEBMを臨床に用いるためには注意と思考が必要だと言うことだと思うのです。

最近の早期離床に関わるSNSの書き込みでは、やはり対象や時期についていろいろ情報を発信されておられますよね。

それを見ていても、やはり皆さんタイミングや実施すべき事柄などをきちんと考えて行っていく必要があると考えておられるようです。


「早期リハビリテーションは効果があるから、誰でもどんな状態でも離床して訓練をするべきだ。」とかそういった発想をもたれる方はもうおられないと思いますが、何を持ってして効果とするのかとか、その効果を出すためにどういったことをしていくのかと言うことはやはり、個人個人に応じて考えるべきなのだろうといった、まぁ、当たり前のことに帰結するお話なのです。


2023/07/22追記です。

蛇足なようなことではあります。

繰り返しますが、早期リハビリテーションとか離床を否定するものではありません。全体としてみたときに早期リハビリテーションとか離床が役立つのかも知れないとは思います。解んないですけど。

将来、やっぱりちょっと時間をおいた方が良いといった研究が出ないとも限らないですよね。

ですので。

ただ、同じ早期リハビリテーションや離床をしたとしても、早くに身体を動かしやすくなる方もおられれば、動きやすくなるのに時間がかかる人もおられるでしょうし、中には、やはり経過が悪い方もおられるのだと思います。

そんなときに、「EBMにそって実施したのだから最良の選択だった」などと思うこと無く。きちんと脳の中で何が起きているのかを考える事で、より精度の高い、効果的なアプローチが展開できるようになるはずですよね。私がこの記事で書きたかったのはそんなことなのです。

(*^_^*)




*ペナンブラは、脳梗塞惹起後、早期の病態において血流が低下しているが細胞死を免れている領域のことです。血流が回復すれば梗塞への移行を阻止できると期待されるところとされています。

私の個人的な意見ですが、血流の回復と、それによる神経細胞外成分の循環回復による神経細胞外環境の回復が神経細胞死を免れるための条件だと考えています。論理的には成立する考え方だと思いますが、その実験、研究などはまだ見たことはありませんので、今のところ推測の域を出ない意見です。




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