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未来から見た現在の脳科学

8 分前
読了時間: 4分

かつて、頭蓋骨の形から人の性格や能力を判断する「骨相学」が、科学として扱われていた時代がありました。


現在の私たちは、それを科学が未熟だった時代の出来事として見ています。

しかし、未来の人たちは、現在の脳科学やリハビリテーションを、骨相学と同じような目で見るのかもしれません。


最近、7テスラMRIを用いた興味深い研究が報告されました。



従来は、ある脳領域の血流が多いか少ないかを、皮質全体の平均として捉えることが中心でした。

今回の研究では、7テスラMRIの高い空間分解能を利用して、大脳皮質の表層から深層に向かう血流分布を測定し、それを細胞密度の分布と照合しています。

その結果、単に血流量が多いことではなく、

「エネルギーを必要とする細胞層に、血流が適切に配置されていること」

が、ミトコンドリアの呼吸能力や脳機能と関係している可能性が示されました。

一方、別の研究では、通常のfMRIで用いられるBOLD信号と、実際の酸素代謝が約40%の領域で一致しないことが報告されています。

神経活動が高まっても、血流量を増やさず、すでに流れている血液から酸素を多く取り出すことで、必要なエネルギーを賄う場合があるからです。

つまり、

「血流が増えたから、その領域の神経活動が高まった」

とは、必ずしも言えないということになります。


私たちは現在、

・BOLD信号を神経活動の代理とする・病変体積を損傷の重さの代理とする・画像上で残っている神経路を、機能している神経路と考える・FIMやFMAなどの得点を、回復そのものとして扱う・動作ができるようになったことを、神経学的な回復とみなす

といった方法で、脳損傷や回復を捉えています。

もちろん、これらは現在の臨床や研究に必要な指標です。

しかし、いずれも現象そのものではなく、観察可能な「代理指標」にすぎません。

骨相学も、脳に機能局在があるという着眼まで、すべてが間違っていたわけではありません。

当時観察できたものが頭蓋骨の形だったため、測ることのできるものを、知りたいものそのものとして過大評価してしまったのだと思います。

現在の私たちも、同じ危険性を持っています。

将来、血流の層状配置、酸素抽出、ATP産生能力、グリアによる代謝支援、細胞外環境、神経回路の実効的な伝達能力などを、患者さん一人ひとりについて縦断的に観察できるようになれば、脳損傷と回復の見え方は大きく変わるでしょう。

同じ場所に同じ程度の損傷があるように見えても、

「組織が形として残っているだけなのか」

「エネルギー供給を受け、実際に働くことのできる組織なのか」

を区別できるようになるかもしれません。

これはSRRRが重視している、真の神経学的回復と代償との区別にもつながります。

動作が改善した時、それが損傷した神経系の回復によるものなのか、別の回路による代償なのか、それとも特定の課題だけに適応した結果なのか。

現在は行動評価や通常の脳画像から推測するしかありませんが、将来はその生物学的過程まで追える可能性があります。

そうなればリハビリテーションも、

「どの訓練が平均的に有効だったか」

という研究から、

「どのような生物学的状態にある脳へ、いつ、どの程度の負荷を加えると、どのような回復や代償が生じるのか」

を検討する研究へ進んでいくでしょう。

未来の人たちは、病態の異なる人たちを「脳卒中」という大きな分類でまとめ、介入内容も十分に記録せず、評価尺度の平均値だけで効果を判断していた現在を、かなり未熟な時代として見るのかもしれません。

しかし、それは科学にとって恥ずかしいことではありません。

科学とは、その時代に測ることのできる範囲で仮説を立て、新しい測定技術が生まれれば、それまでの理解を修正していく営みだからです。

問題なのは、現在の代理指標を現象そのものだと思い込み、

「脳活動はすでに測れている」「回復は正確に評価できている」「この治療法の効果は確定した」

と考えてしまうことです。


私たちは骨相学を笑うことができます。

しかし、未来の人たちが現在の私たちの何を見て笑うのか。

新しいMRI研究は、その輪郭を少し見せてくれているように思います。


おそらく将来は、「脳卒中の重症度」ではなく、


・損傷の場所と規模

・残存エネルギー供給能力

・時期ごとの生物学的回復可能性

・課題と環境への適応

・その他


という複数軸で、リハビリを考えることになるでしょう。


ただし、現状で7テスラのMRIは、現状で7テスラMRIは、国内の限られた大学や研究所(新潟大学脳研究所、大阪大学、生理学研究所、京都大学など)にしか導入されておらず、それも、研究実験用のものも含まれている可能性もあり、かなり数が少なく、普及するにはまだ時間が必要でしょう。




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