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大脳基底核の回路は何が変わったのか?

大脳基底核の研究は、近年かなり進んできています。

では、線条体、淡蒼球、視床下核、黒質、視床などの構造や、それらを結ぶ回路そのものが、昔とはまったく違うものになったのでしょうか。


結論から言うと、

「基本的な構造と回路は変わっていない。しかし、その使われ方は、以前考えられていたよりずっと複雑だった」

というのが現在の理解に近いと思います。


これまで大脳基底核は、よく自動車に例えられてきました。


「直接路は、運動を始めるアクセル・間接路は、運動を止めるブレーキ」

直接路が働くと運動が促進され、間接路が働くと運動が抑制される、という説明です。


このモデルは、現在でも大脳基底核の基本構造を理解するうえで役に立ちます。

ただし、実際の脳活動を調べてみると、運動を始める際には直接路だけでなく、間接路も同時に活動していることが分かってきました。

つまり、直接路と間接路は、単純にアクセルとブレーキとして交互に働くわけではなさそうです。


現在では、

「直接路が、選ばれた行動を通す・間接路が、競合する別の行動を抑える・両者が協力して、実行する行動の輪郭を作る。」

といった働き方が考えられています。

たとえば、机の上のコップを取るとき、脳は「腕を伸ばす」という動きだけを作っているわけではありません。

同時に、別の方向へ腕を伸ばす、立ち上がる、視線をそらすなど、その場では必要のない多くの行動を抑えています。

大脳基底核は、単に身体を動かす装置ではなく、数多く存在する行動の可能性から、その場に適した行動を選択する仕組みとも考えられます。

また、以前は間接路の中継点にすぎないと思われていた淡蒼球外節にも、性質や投射先の異なる複数の神経細胞があり、線条体へ情報を戻す回路などが存在することも分かってきました。


線条体の内部も一様ではありません。

ストリオソームとマトリックスという区画があり、運動だけでなく、価値判断、動機づけ、学習、感情、葛藤などに関係する回路が組み込まれています。

したがって、現在の大脳基底核は、

「運動を促進したり抑制したりする装置」

というよりも、

「身体の状態、外部環境、過去の経験、予測される結果などを統合し、今どの行動を採用するかを調整するネットワーク」

として捉えられるようになっています。

ただし、細胞レベルの詳しい研究の多くはマウスなどを対象としており、そのまま人間の働きとして断定できるわけではありません。

基本的な構造は昔と大きく変わっていません。

変わってきたのは、私たちがその構造をどう理解するかです。

昔の回路図が間違っていたというより、あまりにもきれいに整理されすぎていた。

実際の大脳基底核は、直接路と間接路が対立するだけでなく、互いに協調し、学習によって働き方を変えながら、行動の選択と切り替えを支えているようです。


最後に、簡単にまとめておきますね。




【主な資料】

● Graybiel AM. Surprises From the Basal Ganglia: Stop and Go Have New Meaning. Movement Disorders. 2025.古典的な直接路・間接路モデルを振り返り、ストリオソーム由来の非典型的回路など、近年の知見を紹介した総説。https://movementdisorders.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/mds.70008

● Fang LZ, et al. Updating the striatal-pallidal wiring diagram. 2024.線条体と淡蒼球の間にある、従来の模式図では表現しきれない投射や細胞型を整理した総説。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38057614/

● Cui G, et al. Concurrent activation of striatal direct and indirect pathways during action initiation. Nature. 2013.行動開始時に、線条体の直接路と間接路が同時に活動することを示した代表的研究。

● Varin C, et al. The respective activation and silencing of striatal direct and indirect pathway neurons encode behavior. Nature Communications. 2023.直接路と間接路が、行動に対して異なる活動特性を持つことを示した研究。

● Rocha GS, et al. Basal ganglia for beginners: the basic concepts you need to know and their role in movement control. Frontiers in Systems Neuroscience. 2023.直接路・間接路・ハイパー直接路を含め、大脳基底核の基本構造を比較的分かりやすくまとめた総説。https://www.frontiersin.org/journals/systems-neuroscience/articles/10.3389/fnsys.2023.1242929/full




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