Novak2013ボバース批判の検証
- Nagashima Kazuhiro
- 7月13日
- 読了時間: 10分
先日、第15回ボバース学会に出席させて頂きました。
皆さん、科学に対してどの様なスタンスで向き合っておられるかがわかり、そうした意味では有益な学会であったと思います。
ただ、少し気になった・・・というかだいぶん気になった講演があったのですね。
演者個人を批判したいわけではないので、演者名は控えておきます。
その講演の冒頭、Novakの研究を紹介されました。彼女は、リハビリテーションの効果に関して既存のシステマティックレビューを中心に、レビューが存在しない領域では一次研究も加えて、介入のエビデンスを概観した研究をおこないました。
私は、システマティックレビュー・メタアナリシスでは、その一次研究の質が問われることを知っていましたので、「あ、危険な発言だなぁ。ちゃんと裏をとってるのかなぁ。」と思って聞き流してたのですが、どうやら、そう言った見方をされる人間ばかりではないようで、こうしたことに関して、「非常に驚き、衝撃を受けた。」と言われる人がおられたとちらほら。
(^_^;
というわけで、今回ブログで検証をしてみようかと思ったしだいなのです。
(^_^;
Novakの2013年の原著はこちらです。
Novak I, McIntyre S, Morgan C, et al.
A systematic review of interventions for children with cerebral palsy: state of the evidence.
Developmental Medicine & Child Neurology. 2013;55(10):885-910.
DOI: 10.1111/dmcn.12246
この論文の対象は、166本のレビュー・研究を採用されておられるようです。
74%がシステマティックレビューで、残りがレビューが存在しない一次研究です。
Novakは、これらの既存レビューの結論を採用して、Red light(Do not do it)に分類したわけです。
すると、このボバースに関するRed lightの根拠となったレビューは何本あって、その一次研究は何本か、その一次研究はどの様なものかという事を知りたくなりますね。
いや、NovakのRed lightという判断をもちいるのであれば、知らねばならないのです。
それが科学なのです。
(*^_^*)
ここで、Novakは、ボバース関連の論文を集める際に、ボバースを次のように定義されておられます。
direct, passive handling and guidance to optimise function
〜機能を最適化するための直接的、受動的なハンドリングと誘導〜
で、システマティックレビューはそうした傾向の論文が集められることになります。
ノバックはそれらの問題を自ら認めておられます。
現代のボバースコンセプトは、運動学習や家族中心の実践などがおこなわれているため、どの治療要素が忠実に実施され、何が効果を生んでいるのかを切り分けるのが難しいと書いています。
つまり、現実のボバースコンセプトは、ハンドリングだけではないことを知っていたということですね。
前振りはここまでにします。
Novak2013がボバースコンセプトの判断の中心としてあげたレビューは次の3本です。
1.Brown & Burns, 2001The efficacy of neurodevelopmental treatment in paediatrics: a systematic review
2.Butler & Darrah, 2001Effects of neurodevelopmental treatment(NDT)for cerebral palsy: an AACPDM evidence report
3.Martin, Baker & Harvey, 2010
A systematic review of common physiotherapy interventions in school-aged children with cerebral palsy
Novakらは、この3レビューに合計18件のRCTが含まれ、
・有効性を調べた試験:15件
・頻度を調べた試験:3件
と整理しています。
これら3レビューの一次研究にあたってみますね。
1.Butler & Darrah 2001
採用は21報、実質416人。研究デザイン表には次の21件です。
年 | 一次研究 |
1973 | Wright T, Nicholson J. Physiotherapy for the spastic child: an evaluation. |
1975 | Carlsen PN. Comparison of two occupational therapy approaches for treating the young cerebral-palsied child. |
1976 | Scherzer AL, Mike V, Ilson J. Physical therapy as a determinant of change in the cerebral palsied infant. |
1981 | Sommerfeld D, Fraser B, Hensinger R, Beresford C. Evaluation of physical therapy service for severely mentally impaired students with cerebral palsy. |
1983 | DeGangi GA, Hurley L, Linscheid TR. Toward a methodology of the short-term effects of neurodevelopmental treatment. |
1985 | Laskas C, Mullen S, Nelson D, Willson-Broyles M. Enhancement of two motor functions of the lower extremity in a child with spastic quadriplegia. |
1987 | Herndon WA, Troup P, Yngve DA, Sullivan JA. Effects of neurodevelopmental treatment on movement patterns of children with cerebral palsy. |
1988 | Palmer FB et al. The effects of physical therapy on cerebral palsy: a controlled trial in infants with spastic diplegia. |
1989 | Hanzlik JR. The effect of intervention on the free-play experience for mothers and their infants with developmental delay and cerebral palsy. |
1990 | Palmer FB et al. Infant stimulation curriculum for infants with cerebral palsy: effects on infant temperament, parent-infant interaction, and home environment. |
1990 | Lilly L, Powell N. Measuring the effects of neurodevelopmental treatment on the daily living skills of 2 children with cerebral palsy. |
1990 | Embrey D, Yates L, Mott D. Effects of neurodevelopmental treatment and orthoses on knee flexion during gait: a single-subject design. |
1990 | Kluzik J, Fetters L, Coryell J. Quantification of control: preliminary study of effects of NDT on reaching. |
1991 | Law M et al. Neurodevelopmental therapy and upper-extremity inhibitive casting for children with cerebral palsy. |
1994 | DeGangi G. Examining the efficacy of short-term NDT intervention using a case-study design. |
1994 | Bower E, McLellan D. Assessing motor-skill acquisition in four centres for the treatment of children with cerebral palsy. |
1996 | Fetters L, Kluzik J. Effects of NDT versus practice on reaching of children with spastic cerebral palsy. |
1997 | Jonsdottir J, Fetters L, Kluzik J. Effects of physical therapy on postural control in children with cerebral palsy. |
1997 | Law M et al. A comparison of intensive NDT plus casting and a regular occupational therapy program. |
1999 | Trahan J, Malouin F. Changes in GMFM in children with different types of CP: an eight-month follow-up study. |
2000 | Adams M, Chandler L, Schulmann K. Gait changes in children with cerebral palsy following an NDT course. |
研究一覧と書誌情報は、報告書本文の表および参考文献に明記されている。
21件のうち、通常の意味での群間RCTは少数です。
RCT・比較群あり
単一事例研究
AB・ABA・クロスオーバー
前後比較のみ
強度比較
装具やキャスティングとの複合介入
が一括されています。
さらにButlerら自身が、NDTは標準化された単一手技ではなく、療法士の技量・目標・家庭状況・他療法との併用が異なるため、効果判定が難しいと説明しています。
報告書はまた、Bobathが後期には、
子ども自身による運動制御
特定課題への準備
実際に生活・遊び・学習する環境での治療
へ移行したことも記述していて、この21報を単純に「ハンドリングだけ」と呼ぶことも正確ではないが、現代Bobath全体を統一的に評価した21件ではないことは明白ですね。
2.Brown & Burns 2001
Brownらは17研究、818人を採用しています。内訳は、CP研究と高リスク・低出生体重児研究の混合であり、11研究のみが比較群を持っていました。
本文の全研究表は有料部分だが、公式の参考文献一覧とレビュー記述から、採用対象となった臨床研究を追います。
CPを主対象とした研究
Wright & Nicholson, 1973
Physiotherapy for the spastic child: an evaluation.
Carlsen, 1975
Comparison of two occupational therapy approaches for treating the young cerebral-palsied child.
Scherzer, Mike & Ilson, 1976
Physical therapy as a determinant of change in the cerebral palsied infant.
Rothman, 1978
Effects of respiratory exercises on vital capacity and forced expiratory volume in children with cerebral palsy.
Kanda et al., 1984
Early physiotherapy in the treatment of spastic diplegia.
Bertoti, 1986
Effect of short-leg casting on ambulation of children with cerebral palsy.
Herndon et al., 1987
Effects of NDT on movement patterns of children with cerebral palsy.
Palmer et al., 1988
The effects of physical therapy on cerebral palsy: controlled trial in infants with spastic diplegia.
Hanzlik, 1989
Effect of intervention on free play of mothers and infants with developmental delay and CP.
Law et al., 1991
NDT and upper-extremity inhibitive casting.
Mayo, 1991
The effect of physical therapy for children with motor delay and cerebral palsy: a randomized clinical trial.
Law et al., 1997
Intensive NDT plus casting versus regular occupational therapy.
Steinbok et al., 1997
Selective posterior rhizotomy plus physiotherapy versus physiotherapy alone.
これらの書誌情報はBrown論文の公式参考文献欄で確認できます。
ただし、Bertotiは短下肢キャスト、Steinbokは選択的後根切断術を含むため、NDT単独の効果研究ではないのです。Brownレビューの批評でも、キャスティング、感覚統合、Rood、PNF、後根切断術などの併用が含まれ、比較内容が不明瞭な研究もあったと指摘されています。
ここの研究は、ご自身で読んで確認して頂くことにします。
現時点で言えることとして、一次研究まで降りると、評価対象は少なくとも次のように混在しているようです。
・NDT対他の治療法
・高頻度NDT対通常頻度NDT
・NDT対反復練習
・NDT後の短期的関節可動域
・乳児刺激プログラム対理学療法
・早産児あるいは高リスク乳児への早期介入
・後根切断術+理学療法対理学療法
・単一事例での歩行、リーチ、ADL
・前後比較のみ
これでは、一つの均質な「Bobath Concept」の有効性を検証した研究群ではないと言えますね。
これらの一次研究からRed light(Do not do it)という結論を出すのは論理的な飛躍があると言えます。
その論理的飛躍を造ったのは、おそらく、一次研究の質やシステマティックレビューやメタアナリシスの構造的問題であり、それらについては既に多くの研究者が指摘しているところです。代表的な指摘を2つあげておきます。
始めに、
「Why Most Published Research Findings Are False(発表された研究結果の多くは誤りである)」John P. A. Ioannidis
Ioannidisは、研究規模が小さいこと、効果量が小さいこと、多数の仮説や解析方法が存在すること、研究者の裁量やバイアスが入り得ることなどによって、発表された研究結果が誤っている確率が高まることを理論的に示しました。
これはリハビリテーション研究だけを分析した論文ではありません。しかし、小規模研究や介入・評価方法の多様性を特徴とするリハビリテーション領域にも、無関係な指摘ではありません。実際、リハビリテーション研究を対象とした別のメタリサーチでも、ランダム化、盲検化、介入内容の記載、統計解析、アウトカム設定などの問題が繰り返し報告されています。
次は、
Ottenbacher & Barrett, 1990
Statistical Conclusion Validity of Rehabilitation Research: A Quantitative Analysis
これは、リハビリテーション領域の研究報告100件について、使用された統計検定の検出力を調べた研究です。
サンプル数が少ない研究が多く、実際に効果が存在しても、それを有意差として検出できない研究がかなり多いことを指摘しています。
ついでに、私がいつも指摘している点として、評価指標そのものが妥当とは限らないという事も指摘しておきます。
現在の科学では人の行動や運動を全て網羅し、完全に妥当性のある評価指標として表現することは出来ません。現在、臨床や研究でもちいられているものは全て不完全な評価指標であるという事は、すべての人が知っておくべきだと思います。
さて
何度か書いていますが、システマティックレビューやメタアナリシスといった研究方法は、一次研究の質がシステマティックレビューやメタアナリシスといった研究の質に直結します。
これは最も重要な原則で、Garbage in, Garbage out(ゴミを入れればゴミが出る)という言葉で表されたりします。
そうして、もう一つ重要な原則を知っておく必要があります。
absence of evidence is not evidence of absence
(証拠がないことは、存在しない証拠ではない)
という論理学では有名な問題なのです。
レビューで言えるのは、「充分な証拠がない」というところまでであって、「効果がない」という事とは違うのです。
それらを踏まえた上で、もう一度、Novakの指摘を考えてみます。
すると、
Novak2013年が根拠とした研究の多くは、ハンドリング、姿勢・筋緊張への介入、発達促通など、伝統的NDTの限定された構成要素を評価している。家族中心実践、家庭生活、環境調整、遊び、目標設定、日常活動への汎化を統合した現代的Bobath Concept全体の有効性を直接検証したものではないといえます。
Novak自身も、現代のボバースコンセプトには家族中心主義や運動学習が含まれて、どの構成要素が有効なのかを切り分ける困難であることを認めているわけです。
つまり、限定されたNDT研究から、ボバースコンセプト全般の中止を推奨していることになりますので、研究から得られる情報から導き出される結論に論理的な飛躍を含んでいることは指摘ができると思います。
つまり科学的な論理性に欠けるところがあったと云う事ですね。
これが、Novak2013を検証してみた私の結論です。
私が問題だと感じたのは、Novakの結論そのものを紹介したことではありません。研究の階層を下りて、元となったレビューや一次研究が何を対象とし、何を測定し、何を測定していなかったのかを検証しないまま、「科学がBobathを否定した」と受け取れる形で提示したことです。
システマティックレビューやアンブレラレビューは、肩書きや図表によって自動的に真実になるものではありません。引用された研究をたどり、対象、介入、比較、アウトカム、研究デザインを確認し、結論がそのデータから本当に導けるのかを考える。これが科学に向き合うということだと思います。
したがって、あの講演を聞いて「科学によってBobath Conceptが否定された」と衝撃を受ける必要はありません。少なくともNovak 2013が引用した研究群は、そのような強い結論を支えられるものではありません。
Dr. Iona Novakはこの様なかたです。

実装科学畑の方だそうです。
実装科学とは、元になるエビデンスを評価し、その質を吟味し、臨床に普及させる科学です。
実装科学であるからこそ、エビデンスの解釈には慎重であるべきです。
しかし、なぜ科学者がこの様な初歩的とも言える論理の飛躍をしてしまったのでしょうね。
そこは謎です。(^_^;



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