脳卒中365日リハの科学なき現実
- Nagashima Kazuhiro
- 8月5日
- 読了時間: 5分
更新日:8月8日
「365リハは科学的根拠よりも制度設計が先行している可能性がある」
365リハビリテーションの歴史は、十条武田リハビリテーション病院が2005年9月に365日体制を自主導入したのが始まりのようです。
その後、2010年の診療報酬改定で「休日リハビリ提供加算」が新設されて病院経営上の動機づけとなります。これ以降、回復期リハビリテーション病棟の週7日リハビリ提供体制が制度として推進されるようになって、全国に広がったという経過ですね。
こうした経過の中で、日本では「365リハビリテーション体制」が推奨される流れが強まっているように感じます。
しかし、現場で働いてきた経験や文献を読んでみると、「科学的根拠」と「制度設計」にギャップがあるように見えるのです。
科学的エビデンスの現状
日本理学療法士協会によれば脳卒中ユニットで「リハ実施数が多いほど転機が良い(エビデンスレベル2)とされています。
ただし脳卒中ユニットは科学的検証作業において、その保険点数の性格上「軽症~中等度」の患者に限定されやすいという母集団の問題を持っています。
さらに行政的に365リハ導入されてから15年経過した現在でも、365リハと休息を挟むリハを直接比較した無作為化試験は見当たりません。
驚きますよね。(^_^;
結論的に言えば、365リハビリは「効果がある可能性」は否定できないけれど、科学的に確立された事実とは言えないと言った状況です。
科学的に検証されていないという事実があるにもかかわらず制度上では365リハを推進しているようですよね。
これはなぜなのでしょうね?
(^_^;
これには厚労省の財政的論理が存在しているのではないかと推測しているのです。
早期離床・365リハで効果が期待できるという曖昧な根拠を定着させることで、早期退院を誘導し、病床回転率を上げることにより、医療費を抑制して介護保険領域に負担を移行することを考えておられるのでは無いかと思います。
この行政的論理の背景には、365リハのエビデンスが存在していない以上、科学的エビデンスでは無くて、「効果が無いという事を否定できない」という事を根拠に制度化されているのだろうと思います。
そうだとすると狡いですよね。
科学という分野は、物事を完全に否定することは困難です。それにもかかわらずこの制度を推進するために、365リハビリの効果が無いとは言えないという「悪魔の証明」を根拠にしていることになりますからね。
さらに、この制度は現場への責任転嫁が可能です。成果がないのはセラピストの努力や能力が不足している所為だと解釈することも可能な訳です。実際、いくつかの報告では、効果が無い責任についてスタッフ数の問題や施設の特性などに起因しているのではないかという考察があるものもあったりします。
反面、病院経営とは親和性が高いと言えます。365リハにより診療報酬加算が安定しますし、経営者の視点から言えば人材稼働率を高めることが出来ますので結果的に病院経営を守ることに繋がるような制度設計ですよね。
人材稼働率というと何だか素晴らしいことのように聞こえますが、実際はひとりひとりのスタッフの負担を増やすことも示します。
365リハビリを導入するためにはリハビリテーションスタッフを多く雇う必要があります。スタッフの人数が増えれば役職も増え、病院の支出は増えることになりますので、結局、薄利多売の状況になってしまいます。実際365リハビリの中で、1日20~22単位をノルマのように課せられることもあるようです。20単位と言えば、6時間40分です。これにそれぞれの患者さん準備、送迎、後片付け、カルテ記録、実施計画書作成などの書類業務とカンファレンスなどが入る訳ですから、個人の負担は大きいですよね。
科学的な立場と行政的な立場を対比的に図示すると、以下のようになるかと思います。
項目 | 科学的EBM | 行政的EBM |
判断基準 | 再現性のあるデータ | 否定されていない |
目的 | 有効性の検証 | 財政効率・統制 |
責任 | 研究者・臨床家 | 現場(病院・セラピスト) |
リスク | 新知見による更新 | 制度が固定化 |
さて、365リハが推奨されている反面、科学的にはまた異なった視点からの研究も存在しています。
スポーツ科学では、運動学習には休息が必要だとする研究も多いですし、脳科学においてもグリアの研究などは休息の必要性を示しているものと思います。
これらは、「毎日リハビリを行う事だけが回復を促すとは限らない」という事を示しているのだろうと思うのですね。
すると、今後必用な事というのは、
・365リハと休息を挟んだリハの比較試験
・重症例や慢性期での適応研究、或いは追跡研究
・グリアアセンブリや神経ネットワークの可塑性に基づく実験検証
等だろうと思うのですね。
これが現在の状況ではなかなか難しいのだろうと思います。

365リハビリは、現時点で「科学的に確立した治療」ではなくて、「制度設計が先行している施策」と見做す方が現実的な気がしてきませんか?
これは、決して365リハビリを否定するものではなく科学的な議論の余地を明確にするための整理です。(*^_^*)
政府が言うように少子高齢化が進むのであれば、リハビリテーションスタッフはこれから減少するはずです。今、現在の制度を科学的に見直すことは、そうした未来にも質の高いリハビリテーションを残していく事に繋がるはずです
現場の経験や新たな研究が、リハビリテーションの科学性を高めることを期待しています。



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