その科学的根拠は本当に科学的なのか
- Nagashima Kazuhiro
- 6 日前
- 読了時間: 6分
私のブログをずっと読まれている方〜果たしてそんな人がおられるのだろうか(^_^;)〜は、私が常に科学というのは批判的に考える事が必要だと言ったような考えを持っていることをご存じのことと思います。
「その科学的根拠は本当に科学的なのか?」
そう言ったことを常に念頭に置いておかないと、たぶんいろいろ誤った判断をしてしまう場合も多いのでは無いかと思っています。
では、どのように批判的に読んでいったらいいのかという、私なりの読み方というのをちょっとだけ紹介してみましょうという記事なのです。
(*^_^*)
例えば、ネットでこんな論文を見つけました。読んでいただける様にリンクを張っておきますね。

要約すると、
研究の背景と目的
ボバース療法(Bobath therapy)としても知られる神経発達療法(NDT)は、脳性麻痺(CP)のリハビリテーションで広く用いられていますが、その有効性には疑問が持たれています。本研究の目的は、NDTがCPまたはCPの高リスク児において運動機能の改善にどれほど効果的かを評価することです。
方法
2021年3月までに、CINAHL、Cochrane Library、Embase、Medlineのデータベースから、NDTと他の介入法または無介入を比較したランダム化比較試験(RCT)を検索しました。合計34件の研究(35の出版物、参加者数1,332人)が分析対象となりました。メタアナリシスでは標準化平均差(SMD)を用いて効果を評価し、研究の質はCochrane Risk of Biasツール2で、エビデンスの確実性はGRADEアプローチで評価されました。
結果
NDTと無介入群との比較では、運動機能の改善に有意な差は見られませんでした(SMD 0.13、95%信頼区間 [-0.20, 0.46])。
活動ベースの介入法はNDTよりも中程度の効果を示しました(SMD 0.76、95%信頼区間 [0.12, 1.40])。
身体機能および構造に焦点を当てた介入法もNDTより優れていました(SMD 0.77、95%信頼区間 [0.19, 1.35])。
NDTの高用量と低用量の比較では、有意な効果差は認められませんでした(SMD 0.32、95%信頼区間 [-0.11, 0.75])。
結論
本メタアナリシスの結果、NDTは運動機能の改善において他の介入法より劣っており、無介入と比較しても有意な効果は確認されませんでした。また、NDTの用量を増やしても効果の向上は見られませんでした。これらの結果から、CPのリハビリテーションにおけるNDTの使用は推奨されず、他のより効果的な介入法への移行が求められます。
と言ったような内容だと思います。
さて。
そもそも、ボバースコンセプトは神経生理学的知識に基づいたアプローチを行っているわけです。現在の神経生理学を含む脳科学では、人の姿勢制御や運動制御というのは身体内部情報と外的環境情報、その中で起こるなにかしらの適応行動〜つまり課題とか活動とかが情報処理の結果として出力されるといった流になっていると思いますので、当然、活動を取り入れてアプローチを展開しているわけです。
この論文の結果に、”活動ベースの介入法はNDTよりも中程度の効果”と記載してありますね。この論文上は、「活動を用いるアプローチ」と「NDT」を分けて研究されておられるようです。
ということは、ボバースコンセプトは活動を用いない〜徒手的で受動的な操作のみのアプローチであると勘違いされているのか、もしくは研究のために徒手的で受動的な操作のみの群を仮にNDTとして分類し、活動ベースのアプローチと比較したのか、もしくは実験の再現性を重視して、NDTのアプローチから活動を行っていないもののみを母集団として選択したのかのいずれかであろうと思うのですね。
前者〜勘違いであれば、NDTも活動をもちいている以上、少なくとも結果に差がない事になります。この結果は矛盾することになりますね。何故差が生じているのか少し原因を知りたいと思いますね。
後者〜実験デザインであれば、かなりコントロールされた実験であると云うことになりましょう。ですので、NDT全般に効果が無いという事は出来ず、NDTの徒手敵で受動的な操作部分を抽出したアプローチに置いては効果が出ないと言うことを示していることにないります。ところが、NDTというのは、そう言った側面もあるとは思いますが、活動の中でハンドリングを用いたり、活動そのものが成功するように介入するアプローチも当然おこなっているわけです。すると、今度は結論の”NDTは運動機能の改善において他の介入法より劣っている”と言う表現には矛盾が生じる事になります。もしそうした実験デザインの上こういった結論を示したのであれば、なにかしら恣意的なものがある事になりますので、その時点でこの論文は読む価値がないと言う事になります。
次に、用いられたスケール(指標)がどの様なものかという事も考えてみましょう。
ヒト(に限らず、他の動物もそうですけれど)の活動や運動というのは、その全てが論理的に解明できているものではありません。
ここに異論があるセラピストや科学者はおられないはずです。
充分わかっていないものを取り扱う以上、そのスケール(指標)も便宜的なもので在り、ヒトの活動や運動の特徴的な部分のみを抽出しているだけという事になりますし、そのスケールが適切であるか否かは別の論議が必要になってくるものの筈です。
従って、研究が全て正しく行えていたと仮定をしても、その結論の部分は、現在使用されている××とか○○と言ったスケールに於いてはNDTは運動機能の改善において他の介入法より劣っているという結論になる筈です。
これを一般論として、NDTの効果が無いと判断することはこの研究では困難である筈ですので、この結果も矛盾をはらんでいることになるはずです。
こうした疑問が解消できた上で、こうした論文に意味があると論理的に説明が可能である場合にのみ、この論文は正しいと判断できると私は考えるのです。
まぁ、私の考えが正しいかどうかと言う事も有りますし、読まれる人によって疑問を持たれる部分は異なることだろうと思いますので、そう言った場合には様々な科学的なディスカッションの中でこの論文の意味を探っていくことになります。
そう言った手続きを踏んだ上で、初めて科学的な根拠に沿った見解というのが生まれることになります。
勘違いをされないように書いておきますが、この論文が誤っていると言っているのでは無いです。正しいかも知れないし、誤っているかも知れないという事なのです。
この論文を読んだだけで、それを科学的根拠としてNDTは効果が無いのだと主張されるセラピストもしくは医師や科学者がおられるとしたら、それこそ、そういった行為自体が「科学的では無い」と言う事になるかと思います。
きちんと納得できるだけの裏付けを取る事が大切で、こうした論文を読んで抱いたそれぞれの人達が持つ様々な疑問、その疑問を全て解消できた上で効果が無いとか効果があると仰る場合には問題が無いとは思います。
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