脊髄の足底接触刺激に対する反応に、Reflex reversalというものがあります。
Reflex reversalとは、日本語で、状況依存反射反転と呼ばれています。
此は、足底刺激に対する下肢の反応が、立脚期(荷重時)には下肢を安定させる様に共収縮を増強し、遊脚期(非荷重時)には下肢を持ち上げるという全く反対の反応〜出力を示す状況についての名称なのです。
同じ足底刺激でも状況に依存して反応が変化するというのは興味深いですよね。
もちろん、動物にとって非常にメリットがある反応なのです。
足がついている時は、脊髄レベルで下肢の筋を、体重支持というタスクに答える様に出力調整をしていて、遊脚期では足底刺激が入ると,刺激の元となる物体に足が引っかからない様に足を持ち上げるのです。

ちょっと話がずれますが、此は脊髄の反応であって、意識は関与しません。だけど、たぶん、遊脚期になにかに足底が触れた際、足を持ち上げる反応が出た直後に、「何で足を高く持ち上げたのですか?」と問いかけると、おそらく、その物体を指さしながら「此にあしがひっかかりそうだからあしをもちあげた」等と、まるで足を上げるという動きをあたかも意識によって起こしたかのごとく説明をするのだろうと思うのですが、順序が逆です。
反応を起こすという事実があって、その情報が脳に届けられた後、あたかも脳がそれを制御していたという理屈を生成しているだけなのです。これを受動意識仮説と呼びます。
人って興味深いですよね。(^^)/
話を戻します。
この反射活動は当然ではありますが、中枢神経系によって調整されています。
重要なのは、皮質脊髄路などの出力情報とともに基底核−脚橋被蓋核投射によるアセチルコチン(Ach)の調整があるという事だと思うのです。
Achは脳幹に於いてγ系の出力を弱くするような働きがあります。Achが余り放出されないと、γ系出力が増してしまうと云うことですね。
この事実は、ドーパミン(DA)による基底核出力調整とAchによる脳幹の出力調整がReflex reversalのメカニズムが正常に働くために重要だという事を示しています。
この反応活動は、パーキンソン病のすくみ足の説明で、末梢感覚入力の影響のひとつとして聞いたことがあるのですが、考えてみれば基底核出力の問題ですので、脳卒中などの疾患に於いてもとうぜんReflex reversalの反応が問題を起こしてしまうことは想定できます。
実は健常人でもおそらくこの反応が減弱してしまうケースも考えられると思っているのです。
ほら、悲しい時とか、厭な時って足が重いですよね。まるで地面に足がくっついてしまっている様に重く感じる事も記憶に有るのでは無いでしょうか?
報酬物質のひとつであるDAは、報酬予測によって放出量が増えるのだと思うのですが、報酬が期待できない時はDAの総量が減少することになりますので、基底核の機能が低下することになります。そうすれば、基底核−脚橋被蓋核の投射も影響を受けますので、Reflex reversalのメカニズムも働きにくくなっていることが予測されますよね。
人って面白いですね。(^^)/
さて、脳卒中の人に対して、このメカニズムの異常を想定したアプローチを試みてみました。
アプローチはそのことだけをしているわけではないので、他の要因の影響もあるのではありますが、こういった視点からのアプローチは有効でありそうな印象があるセッションになりました。
ご利用者さんの同意を得て動画を公開させて頂きます。
まだまだ、色々課題の残るアプローチではありますが、今後、さらに有効な手法として検討していこうかと思っているところです。
同業者の方からみてどうかとか、ここはこうした方が良いのでは無いかと言ったご意見が御座いましたら、どうぞ遠慮無くコメントを残していただければ喜びます。
あ、そうそう。この方、以前動画に撮らしていただいてアップした物があります。
3月の歩行の様子が後半に少し出ています。
室内と室外と云った環境に違いがありますので、そのまま比較するわけにはならないかと思いますが、参考にはなるかも知れません。
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