前章まで、記憶のプライミング効果について解説してありました。
私にとってプライミング効果というのは聞き慣れない言葉でしたので、ちょっとネットで検索してみました。
「プライミング効果とは、先行する刺激(プライマー)の処理が後の刺激(ターゲット)の処理を促進または抑制する効果のことを指す」
との記載を見つけました。
本の中に解りやすいプライミングの例が書いてあります。
以下の問いに声を出して答えてください。
1.ケニアは何大陸にありますか?
2.チェスで使われる反対色の色は何と何?
3.何でも良いですから、動物の名前をひとつあげてください。
こういう質問の仕方をすると、約20パーセントの人が「シマウマ」と答えるそうです。
通常、動物の名前を言うように言われてシマウマと答えるのは1パーセントに満たないそうです。
こういったことをプライミング効果と呼ぶようですが、これは記憶が関連性を持っていることを示しています。
上の例だと、アフリカ大陸とシマウマのノードはつながっていて、さらに白と黒といった色とシマウマのノードがつながっているため、上記の質問の後に動物の名前を尋ねると、そのつながりに引っ張られるようにシマウマと答える可能性が上がるという理屈になります。
面白いですね。このノードがつながっているというのがセルアセンブリ仮説で言われる構造特性を思わせるのです。
このセルアセンブリ仮説で言われる神経細胞の同期的活動もシナプスの構造変化に基づくものですから、そこにはアストロサイトや細胞外電場、細胞外液のイオン環境、神経修飾物質の拡散伝達などが調節機能として存在しているので、適正な脳内環境ってとっても大事そうですよね。
そして話題は行動のプライミングへ。
やはり行動もこういった現象が起きているようですよ。直前の何かしらの刺激によって行動選択は影響を受けるようです。ある人たちを2グループに分けて、ひとつはポジティブな回答が出るように操作された質問用紙に回答を書いていくようにして、もうひとつはネガティブな回答が出るように操作された質問用紙を渡すと、ポジティブな回答が出るように操作されたグループの方が優位に人に対して配慮した(優しい)行動をとりやすいという実験が書いてあります。人の自由意志ってどこまであるのだろうと毛内先生は話しておられました。
そのときに紹介された言葉で、「代表制バイアス(一度「あるべき姿」を思い描いてしまうと、新たな情報がもたらされた後にも、その「あるべき姿」から逃れられなくなってしまう現象)」が紹介されたのですが、これは良くも悪くも起きてしまう事なのでしょうね。私はSNSの炎上を思い浮かべてしまいました。ネガティブなノードのつながりですね。
行動の選択から、話は「記憶のアップデートについて行けない」へ。
記憶とは常にアップデートされてしまうもののようです。まぁ、そうでないと変化する環境に適応することが出来ないですから。
これはパソコンなどと違って人の脳の中は書き込み作業とと読み出し作業が独立していないという特徴があって、それで記憶のアップデートが可能なシステムとなるらしいです。
しかし、ここにはとてもおおきな危険も隠れているようです。
長期記憶の形成には、ニューロンでタンパク質(RNG105)が合成される必要があります。
なにかの刺激に対して応答しているとき(した後?)にこのタンパク質合成が起きていると記憶が定着する様なのですが、記憶定着の時期にタンパク質合成を阻害すると記憶が定着しないようです。
そして、記憶が定着した後にこのタンパク質合成を阻害しても、定着した記憶には影響があまりないようです。
さらに、定着した記憶に違う記憶を上書きする際にこのタンパク合成を阻害すると新しい記憶が出来ないと同時に前の記憶が失われたりする様子。
凄いですね。
脳卒中リハビリテーションにおいて、記憶されてしまった代償的な運動出力パターンの選択という手続き(非陳述)記憶を新しい運動パターン選択に書き直す際に脳の中のエネルギー代謝がきちんと起きている事って言うのは大事なんですね。書いてみたら当たり前だけれど・・・。
雑談で、ヒトの脳は「否定」を理解できないという話をされていました。「シマウマを思い出さないで」とかいわれると、そんなこと脳は出来ないで錘よね。言われたら絶対にシマウマの記憶情報が出てきます。
で、色々思い浮かべることがあって。
いま、ご利用されている人で、とても自己肯定感が乏しい人がおられるのです。何かあると、「ダメだ」と言われるのが口癖で。
これって、ダメって言っていること自体で脳の情報処理のメカニズムのなかで自己の行動選択に影響を与えているはず(プライミング効果)だと思うのです。
で、ついつい「ダメじゃないですよ」と言ってしまうのですが、これは否定ですね。
今日からできるだけ「良いですよ」と答えるようにしよう!
ところで、この記事は画像にシマウマを使っています。記事を読んでいない人も、この絵を見た後に少し時間をおいてから、「何でも良いから動物の名前を言ってみて」と言ったらシマウマと答えてくれる人は一定数期待できるのかも。(*^_^*)
Comments