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執筆者の写真Nagashima Kazuhiro

軟部組織損傷の対応と認知バイアス

スポーツ外傷の処置として比較的有名なものに、RICE処置と言われるものがあります。

RICE処置とは、

Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)

のことです。

スポーツ外傷などのことを調べると、Google検索ではまだRICE処置がトップに上がっている様子なので、一般的にはRICE処置がまだ優先的に行われているのかも知れないですね。



最近では、PEACE & LOVEが軟部組織損傷の回復を早める方法として取り上げられてきているようです。

Protection(保護)、Elevation(挙上)、Avoid anti-inflammatories(抗炎症薬を避ける)、Compression(圧迫)、Education(教育)。そして、Load(負荷)、Optimism(楽観的思考)、Vascularization(血流を増やす)、Exercise(運動)が、回復に大切だという認識に変化してきているのですね。



冷却が削られて、血流を増やすことが推奨されてきているのですね。抗炎症薬も避けることが推奨されているようです。


双方ともに科学的根拠に基づいているわけですから、何が変化したのか気になりますよね。

RICE処置で冷却が上がっているのは、冷却することで血中CK値の上昇が低いことが根拠になっているものと思われます。痛みも減弱するのも根拠の一つになっているのかも知れません。筋肉の損傷があるとCK値が上がることが知られているので、冷却することでCK値が上がらないということから、冷却によって筋肉の損傷が抑えられていると推測することができます。また、痛み受容器であるポリモーダル受容器は冷却によって閾値が上がりますので、痛みが減少します。そう言ったことなどを考えてRICE処置においては冷却することが推奨されたものと思います。


ところが、血液データというのはさまざまな影響がありますので、単純に通常時のデータと冷却した時のデータを比較するのは難しそうです。例えば単純に考えて、冷却すれば毛細血管は収縮して局所循環障害を起こすわけですから、血液の流れが滞ってしまいます。その中で取り出した血液と、そうでない血液では成分が変わっていてもおかしくないですよね。

痛みに対しては、なぜ痛みが出現するのかということも十分考えておく必要もありそうです。

痛みといえば、ブラジキニンなどの炎症メディエーターといわれる発痛物質が思い浮かびますね。

炎症メディエーターの働きを整理してみます。

・炎症メディエーターとは、損傷された組織、および炎症部位に浸潤した白血球や肥満細胞、マクロファージなどから放出される生理活性物質

・炎症メディエーターは、血管透過性亢進、血管拡張、白血球の遊走・浸潤、組織破壊などの作用を引き起こす。

・炎症メディエーターは、ポリモーダル受容器を刺激し、その反応性を高め、痛覚閾値の低下による痛覚過敏を引き起こす。

ぐらいの感じでしょうか。

ついでに、炎症とは何かを調べてみました。ウィキペディアには以下ように書いてあります。

「炎症とは、生体の恒常性を構成する解剖生理学的反応の一つであり、恒常性を正常に維持する非特異的防御機構の一員である。炎症は組織損傷などの異常が生体に生じた際、当該組織と生体全体の相互応答により生じる。」

生体の恒常性を維持するために炎症、つまり発赤・熱感・腫脹・疼痛などの症状を起こすわけです。

ということは炎症とは損傷してしまった部位などを破壊して、組織の再構築を起こしやすい環境を作り生体の恒常性を維持しようとする時の反応だと考えることができますね。


損傷が起きた場合、不要な組織を破壊し、環境を整えていくために炎症メディエーターが放出される。炎症メディエーターは、血管を拡張し、血管の透過性を強くして周辺に白血球などの組織損傷に対応するための物質をたくさん運ぼうとする。そして、組織内でのそう言った反応(防御反応)が適正に行いやすくするために痛みというサインを生体に送って、運動をある程度制限する。

そう言ったメカニズムが想定できるのではないかと思います。

そうすると、冷やして血流や間質液の流れを悪くして痛みを感じにくくすると言ったことは返って損傷の修復を遅らせる、あるいは悪化させる可能性があるということになります。

ですから、冷やすということを省いた上に、抗炎症薬を避けると言ったことが言われ始めているのでしょう。

これらも科学的根拠ですね。

どうやらPEACE & LOVEの方が正しそうな気がします。


なんたって、平和と愛ですから。(๑>◡<๑)


さて、両方とも科学的根拠に沿っています。


RICEを提唱された先生も、患者さんを悪くしてやろうと思って作り出したものではないはずです。

何が間違っていたのでしょう?

ふと思うのは、血液データで判断したところが誤っていたということになるのかも知れませんが、少し違うと思います。

血液データで改善したと判断した背景には、冷却や抗炎症剤の使用で「痛みが良くなった」とか「動きやすくなった」といった反応を見て、損傷が回復したと感じたのでしょう。

そのために、冷却した際に起こるであろう血管収縮のことや、その時に血液データを通常時と同じように判断していいのかと言ったこと。また、血管収縮によって起こる局所循環障害が何を引き起こすのかと言ったことや、組織破壊が起こっているままに痛みが減少した際に活動を再開したらどのようなことが起こるのかと言ったことを考えていくことにまで思考がたどり着けなかったということがあったのではないかと思います。

生理学的には炎症が起きなければ組織の回復は起きないのですから、そのことを踏まえて思考を続けていけばよかったのであろうと思うのですが、データのみから判断してしまったのだとすれば、患者さんの即時的な反応のフィードバックからくる認知バイアスが存在していたのだろうと思います。


RICEからPEACE & LOVEに変わってきているように、PEACE & LOVEもいずれ変化していくのかも知れません。

ちょっと話が変わりますが、脳卒中に関わるさまざまな科学的と言われる情報も、今までそうでしたし、今後も変化し続けることと思います。


私たちはリハビリテーションをめぐるさまざまな情報に常に晒されています。

きっと、自分が認知バイアスを常に受けているということを自覚することは大切なのかも知れませんね。



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