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執筆者の写真Nagashima Kazuhiro

足関節背屈の育て方

以前、足関節の背屈を出すというお話をブログに書きました。


そのブログを読んでいただいた方から、臥位や座位などで促通した背屈を立位や歩行場面に持ち越すことが難しいが、どのようにしているのかといった質問をいただきました。


おっしゃるとおりですね。(^_^)



個別性もあるので、一概には言え無いと思うのですが、今、私が考えていることを少しお伝えしたいと思います。



まず、身体図式についてです。

脳というのがどのように運動出力をつくっているのかということを考えてみます。

外的環境情報が頭頂葉で情報処理されて、脳の中に外的環境のコピー情報をつくり出します。環境情報を取り込む際に、身体がどの方向を向いているのか、どのような姿勢で情報に接しているのかという情報も必要になりますよね。例えば、視覚を考えてみて、自分の眼球が重力に対して垂直になっているのかとか、下を向いているのかとかそういった情報がわからなければ正確に外的な環境情報を視覚的に情報処理することができないですよね。ここで、自分自身の身体が重力などに対してどのような位置関係にあるのかといった情報が必要になります。こういった情報を身体図式と呼んだりします。




そうやって集めた外的環境情報と身体図式の情報などは、前頭葉に運ばれることになります。前頭葉は自分の情動などの情報からどのような動きをするのかと云った情報処理をしているので、環境情報を運動情報に変換することになります。


(高草木先生の図をお借りしてます)


ここでも、身体図式情報から自分の身体の位置関係をどのように動かしていくのかと云った情報変換の基礎情報として利用しているはずなのですね。


と考えていくと、身体図式情報が喪失している部分があると、そこでは外環境情報を運動情報に変換させることができない、あるいは難しいと云うことになります。足関節の背屈と云った運動のことについては、下肢全体~足部の身体図式が消失しているか崩れている場合は足部は動かないと云うことになると思うのです。


身体図式情報を構築する上で大切な要素の一つに固有感覚情報があるわけですが、そこには運動が起きると言うことが大切になってきます。運動が起きると感覚が変化するわけですから、それらの積み重ねが身体図式情報として統合されるわけです。ここでは、感覚と運動が別々に存在していると云うより、相互に関連性を持ちながら情報処理されることになります。


足関節の背屈をつくるというブログで行っていたことは、感覚情報をダイレクトに筋に伝えながら足関節背屈という動きと結びつけていくことで、脳の中で同時に情報処理してもらって身体図式化することを狙っていたのですね。



筋連結から見た背屈

足関節の背屈は、前脛骨筋や長趾伸筋、長母趾伸筋などが働くわけです。これはスーパーフィシャルフロントラインと呼ばれる連結があって、大腿四頭筋の流れが足関節背屈につながっていることになります。


逆にハムストリングスなどの短縮はスーパーフィシャルバックラインで足関節の底屈につながることになります。片麻痺の方などは、ハムストリングスの短縮を起こしておられる方が多いので、そもそも構造的に足関節背屈がしにくい状態であると言えます。となると、ポイントはハムストリングスを緩めて大腿四頭筋が利いているポジションが必要であると云うことになるかと思います。





姿勢制御から見た背屈

足関節背屈という運動出力の時に、脳はどのように情報処理を行っているでしょうか?よく言われるのは、APAs(先行随伴性姿勢制御)と運動出力の関わりですね。APAsは大雑把な分類ですが、p-APAsとa-APAsに分類されます。p-APAは皮質橋網様体脊髄路と関連が深く、多裂筋、腹横筋、内腹斜筋、骨盤底筋群などなどのコアスタビリティローカルシステムを構築する筋群のγ系出力を上げて変化に対する応答性を高め動きに対する安定性を構築する基本となっているようです。a-APAsは、皮質延髄網様体脊髄路と関連が深く、運動を起こす情報出力の近位部に対してγ系出力を上げて近位部の安定性に関与すると考えられているようです。





神経メカニズムから考えると、足部の背屈という運動に対して、p-APAsによる体幹の姿勢制御およびa-APAsによる股関節や膝の姿勢制御が重要であると云うことになるのだと思います。


脳卒中においては、網様体脊髄路と皮質脊髄路の協調は崩れることが非常に多いので、この部分をどのように考えて臨床場面に取り込むのかといった課題はありそうですよね。


その他にも立位姿勢で重心が後方に移動すると背屈が強くなり、逆に前方に移動すると底屈が強くなるといった小脳系や前庭系が関わる反応もあります。そういった事を利用したりもします。



背屈を起こす末梢のメカニズム

これもいろいろあるかとは思うのですが、現在私が注目しているのは、状況依存反射反転のメカニズムです。



この脊髄のシステムが、中枢神経系の調整によって正常に働くのであれば、足底が設置して荷重を受けている時から、つま先が床面から離れる瞬間に足底刺激が入ると脊髄レベルで背屈が起こせると云うことになります。



さて、ざっとではありますが、こんな情報に注意を払ってアプローチを行っている訳なのです。

で、前回の記事に貼り付けた動画、上手く背屈がでてました。

すると、その感覚情報を用いて、左下肢〜足部の身体図式をきちんとつけていきたいと思ったのですね。この方、左下肢に荷重をかける際に、左足を棒のようにして使いがちなので、左下肢を中心とした身体図式は弱いのだろうと思ったのです。

で、取りあえず、かなりしっつこくあの動きを続けていました。なにかの活動に結びつけてもよかったのかも知れませんが、ご本人がその動きを楽しんでおられたので、結構長く繰り返していました。(^_^;)


こんな姿勢ですね。

この姿勢では、後方に重心が崩れないように姿勢制御が働いているはずですので、p-APAsも充分利いているはずです。さらにマヒ側である左の股関節を屈曲していますので股関節屈筋群を始め、四頭筋の姿勢筋緊張も維持されているはずなのです。さらにハムストリングスは長さを必用としないので、スーパーフィシャルバックラインから足関節底屈が強くなることもありませんね。結構足関節背屈が出しやすい姿勢なのでは無いかと思います。


次に下肢の動きを出して、その中で足関節背屈を使うという経験をしてみます。この姿勢からだと足を上げ下げするのも良さそうですよね。


プラットホームから足を卸したり挙げたりしてみます。

この時、運動の開始は足関節のはいくつから起こすように操作して足を上げるようにします。プラットホームから足を下ろす時が注意が必要で、片麻痺のかたは、下肢を母テントおとすように下ろしてしまい安いです。そのときには足の重心移動に対する姿勢制御が欠けてしまいますし、足関節も下垂しやすくなります。あくまで、姿勢を調整させつつ足関節の背屈を維持させていくことが大切だと思いますので、グレーディングコントロール〜ゆっくり段階付けつつ下ろしていく経験をしていただくように操作します。

この時、様々な体幹の代償が起きることが多いので、体幹の動きにも注意しながら足を動かしていくことになります。


そして、端座位での足関節の背屈です。

端座位は、姿勢が臥位より抗重力的で、先ほど使った片足挙げた座位とはちがって、腹部の姿勢制御が抜けやすい印象があります。此は恐らく、姿勢の自由度が高くなるので腹部の姿勢制御をあまり使わずに円背のように崩れても姿勢が維持できてしまうような所が在るからでは無いかと思います。

ここで足関節を背屈しようとすると、例えば以下の写真のような姿勢や代償を使われることが多い様に思います。




麻痺側(ここでは左)の骨盤を後ろに引くようにしながら後傾させて足関節を背屈させようとする場合や、身体を後ろに傾けて脊柱を伸展させつつ重心の移動で足関節、と云うより足全体を持ち上げようとするような場合ですね。

色々個別性もあるので、もっと多様なパターンもあるかと思いますが、経験的に代表的なものはこの2つでは無かろうかと…いやもっとありますね。

まぁ、いずれの場合でも、腹部の姿勢制御が抜けてしまい、足関節まで動きを出すことが困難ですし、特に上の写真のパターンでは脊柱起立筋からのスーパーフィシャルバックラインが引っ張られて足関節背屈のためのFasciaの長さが足りなくなりやすいと思います。

こう言った場面でも、姿勢が余り崩れないようにしながら、しかも動きが最大に出て満足感のある姿勢を維持するようにします。

目標は、腹部を少し刺激してあげたら足関節の背屈がしやすい程度、或いは自分で姿勢を崩さずに僅かでも足関節背屈が出せるぐらいの感じです。


立位では、さらに姿勢制御が難しくなります。

怖さや運動経験などから麻痺側下肢に余り体重をかけないように、麻痺側骨盤を引き上げ、さらに前傾させてみたりして、膝は反跳膝気味にしつつハムストリングを収縮させて膝をロックさせているような姿勢を取られるかたもおられます。




此では神経学的にも構造の側面からも足関節の背屈は起きないか非常に起こしにくいですよね。

で、立ち上がりなどもゆっくり荷重をかけつつグレーディングコントロールしていただきながらこう言った姿勢にならないように操作していきます。


立位が上手くいってきたら、ステップポジションに持ち込んだりも良いと思うのです。

この際に起きやすい代償も色々ありますが、非麻痺側の膝を曲げたりされる方も結構おられます。右足ですべての重心の制御をするためにはそういった戦略の方がきっと有効なのでしょうね。だけどそれでは、右に体重が移った際に左の体幹がきちんと利いていない感じになっちゃいそうです。

姿勢が整ったら、麻痺側を後方に残したステップポジションで足関節と足底の動きをじっくり入れて行きます。この時、麻痺側下肢は視覚から外れていますので、固有受容核の制御がより必要になります。脳が麻痺側下肢の感覚情報をかき集めるのを待つ感じです。

その為には、左下肢に重心を乗せる〜後方に足を伸ばしつつ足底全体をつけて安定させるなどの感覚情報の工夫が必要で有る場合も多いと思います。

で、それが上手くいったら、足関節背屈から動き始めて足部を床から離していくような動きを経験していただくことになります。

足底が床から離れたら、足底に触れて刺激を入れてみます。

脊髄の働きが正常化されていたら、状況依存反射反転の機能で足関節背屈が起こしやすくなるはずだと思います。

繰り返し行う必要があるとは思いますけれど。


ある程度上手くいくようになれば、障害物を置いてみるのも有効だと思います。

最初においた物をきちんと見ていただいて、記憶していただきます。

この外的環境の視覚刺激は運動を起こす際に足底を高めに持ち上げるような運動出力パターンを生み出します。

ただ、多くの場合、そのパターンは麻痺側の骨盤を高く引き上げるような形であったり、体幹を大きく右に傾斜させて骨盤の位置を変えたり等の定型的なパターンになってしまい安いように思います。

ここでも、骨盤を引き上げると、股関節〜膝〜足部の構造的な側面或いは、姿勢制御での中枢神経系の協調性が出しにくい状態になりますので、体幹を非麻痺側に振ったり麻痺側の骨盤を強引に引き上げるなどの反応は抑えて、出来るだけ股関節と膝の動きを協調させるようにしながら足部の背屈を利用していくようにします。

下の物体には引っかかってもかまわないと思います。引っかかった際の足趾や足底の感覚刺激が脊髄でより強い足関節の背屈と股関節、膝関節の屈曲を引き起こしてくるはずです。


こんな感じでゆっくり進めてみると、最初よりより綺麗な足の動きが出ていて、足が軽くなったという印象を受けられたりすることが多いのです。


身体の使い方や代償などは発症前の運動経験や発症後のリハビリテーションで起きた運動学習に左右されますので、それぞれに合わせていく必要がありますが、現在私が考えて挑戦しているのはこう言ったような内容なのです。

もちろんもっと効率の良い方法を行われておられる先生方も多いと思いますので、少しだけ参考になればと書いてみました。

m(__)m



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