課題指向型訓練の論文を読んで考えたこと
- Nagashima Kazuhiro
- 7月30日
- 読了時間: 5分
課題指向型訓練に関するシステマティックレビューを精読するために、一次研究まで遡って、それなりの数の研究論文を読みました。
とても勉強になりました。( ◠‿◠ )
そこでいくつか気がついたことがあるのです。
まず、課題指向型訓練と言われるものと比較される治療法として、割と少なくない頻度でボバースという名前が用いられています。
しかし、その研究においてボバースと言われている治療法の枠組みは、基本的にパッシブなものと規定されていることが多いようです。
それに対して、課題指向型というのは、アクティブプロセスとして捉えて実験的に分類しているものが多いようですね。
そのため、課題指向型訓練と言われるものはハンズオンをあまりされていないように見えます。
ハンズオンというのはそれほどまでにパッシブで効率が悪いものなのでしょうか?
さまざまなスポーツの指導では、ある程度ハンズオンをすることがあります。
ゴルフ、テニス、体操、各種格闘技などなど。
ハンズオンは、注意を向ける場所を示したり、動きの方向や範囲を提示したり、余計な自由度を一時的に減らしたり、成功しやすい条件を作ったり、言語化しにくい身体感覚を共有したり、危険を防ぎながら探索させたり、そのほかさまざまな目的でハンズオンをするわけです。
乳幼児などの発達を考えると、もし、他者に支えられた運動経験をすべて「パッシブで学習効率が悪い」とみなすなら、乳幼児が親に支えられて座位や立位を経験することも、発達にとって無意味か非効率だということになります。しかし、少なくとも、そのように単純化することはできないでしょう。
親が子供の身体を支えることで、
・まだ自力では到達できない姿勢を経験できる
・視野や手の届く範囲が変わる
・前庭感覚、体性感覚、視覚などの新しい組み合わせが生じる
・転倒の危険を抑えながら重心移動を探索できる
・成功した経験から次の自発的行動が期待できる
などなど、脳の中では非常に多様な情報処理が起きるのは間違いありません。
一見パッシブに見えても実はアクティブプロセスであることはいくらでもあるのだろうと思います。
そこには、アクティブとパッシブの間にグラデーションがあるのだろうと思うのですね。
そうして考えると、アクティブな課題遂行と、一見パッシブに見えるハンズオンは、必ずしも対立するものではありません。対象者の状態や介入の目的によっては、両者がそれぞれ重要な役割を持つ可能性があります。
課題指向型訓練とハンズオンを含むアプローチと、それぞれに役割があってどちらが優れていると言ったことを競うものでは無いはずなのです。
小規模なパイロット研究ではありますが、ボバース概念に基づく介入と課題練習を組み合わせた群が、構造化された課題練習のみを行った群よりも、歩行速度において大きな改善を示した報告もあります。主要評価項目では有意差がなく、これだけで十分な科学的裏付けとは言えませんが、少なくとも、ハンズオンを含む介入が課題練習より一律に劣るとは言えないことを示唆しています。
課題指向型訓練は、課題を明確に設定し、反復量を確保しやすいという利点があります。一方、ハンズオンには、対象者が自力では到達しにくい姿勢や運動を経験できるようにし、感覚情報や自由度、成功可能性を調整するという役割があります。
したがって、両者は優劣を競う排他的な治療法ではなく、異なる側面から運動学習を支える手段と考えた方が自然です。必要に応じてハンズオンによって探索可能な範囲を広げ、その経験を課題遂行へつなぎ、対象者の変化に応じて介助を減らしていく。このような使い方は、課題指向性とも能動的な運動学習とも矛盾しません。
研究上の比較を明確にするために、ハンズオンを含む介入を「パッシブ」、ハンズオフの課題練習を「アクティブ」と分類することには、一定の実験上の意味があるのかもしれません。しかし、その便宜的な分類をそのまま臨床原理に置き換え、前者は非効率、後者は科学的と一般化することには無理があるように思います。
いかがでしょう?

以前、高草木薫先生の講演で、興味深い実験が紹介されていました。
立位の状態でカロリック刺激を加えて前庭感覚を混乱させても、開眼して視覚情報を利用できれば、その混乱を補って立位を保持することができます。しかし、その状態で閉眼すると立位の保持が難しくなり、身体が傾いてきます。ところが、骨盤付近にごく軽い接触を加えるだけで、閉眼した状態でも立位を保持できるようになったという実験です。
高草木先生は、立位姿勢の維持に必要な「自己身体の認知情報」を生成するためには、一定量の感覚情報が必要である、という趣旨の説明をされていました。
この接触は、力学的に身体を支えられるほど強いものではありません。それでも姿勢が安定したということは、「触れる」ということ自体が、自己身体の状態を認知するための感覚情報となり、脳の姿勢制御に利用されたと考えられます。
もちろん、この実験だけでハンズオンを用いた介入全般の有効性が証明されるわけではありません。しかし、外から見て一見パッシブに見える接触であっても、それを受け取る中枢神経系では、自己身体を認知し、姿勢を調整するためのアクティブな情報処理が起こりうることを示す、科学的根拠の一つではないかと私は考えるのです。
( ◠‿◠ )



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