課題指向型訓練は、何を証明してきたのか〜推奨の根拠を一次研究まで遡って考える
- Nagashima Kazuhiro
- 7月25日
- 読了時間: 39分
現在、課題指向型訓練というのは多くの国々で推奨されている脳卒中リハビリテーションの訓練手法と言えるのだろうと思います。
一般的に、課題指向型訓練は科学的根拠に沿ったリハビリテーションのあり方として考えるような風潮がありますよね。
私はここにふたつの違和感があるのです。
ひとつは、既存の脳卒中リハビリテーションの手法では、何かしらの課題と組み合わせて行われることが通常です。立ち上がりにせよ、座位バランスにせよ、歩行にせよ、日常生活の諸動作にせよ、何かしらの課題を繰り返し練習するのが通常ですよね。では、課題指向型訓練とは何が特異的であるのかという疑問が湧きます。科学的に検証するのであれば、通常訓練の枠組みと異なる課題指向型訓練の枠組みが必要です。共通する枠組みが明確でなければ、個々の研究で設定された訓練の効果を検証することはできても、それを「課題指向型訓練一般の効果」として統合し、一般化することは難しくなります。
もうひとつ。運動学習に反復などの練習量が必要であることも間違いがないのです。
一方で、運動学習は同じ運動の反復だけによって成立するものではありません。新奇体験、情動、注意、探索、他者との関わりなど、多様な要因が脳の可塑性に影響します。したがって、一つの課題を反復することは、その課題を獲得するうえでは有効であっても、それだけで運動学習全体を十分に効率よく促せるとは限りません。
臨床では、直接関係がないように見える別の活動を経験した後、これまで困難だった動作が突然可能となり、その変化が他の場面にも広がることがあります。これは科学的に十分解明された現象とは言えませんが、運動学習を課題特異的な反復だけで説明できないことを示唆する経験だと思います。
と言うことで、まず、「課題指向型訓練」と言うものの枠組みを確認しようと思ったのです。
どうやら、世界共通の厳密な定義が存在するものでは無さそうですね。
(^^;;
定義(枠組み)の曖昧なものをどういった形で科学的に検証したのであろうかと素朴な疑問が湧きます。
とりあえず、一般的には次のような要素が課題指向型訓練に含まれるようです。
・日常生活や社会生活に関連する、具体的で目的のある課題を扱う
・課題を実際に遂行する形で練習する
・同じ課題を一定量反復する
・患者の能力に応じて難易度や環境を調整する
・結果に対するフィードバックを利用する
・必要に応じて課題を分解し、再び全体の動作へ統合する
・異なる状況でも行えるよう、課題や環境に変化を加える
まぁ、手を使う必要があるのであれば手を使う練習をしようとか、歩くことが必要なら歩く練習を反復して行おうといったような事ですね。
なんとなく学術的に書くのであれば、
「患者にとって必要または意味のある具体的な課題を、実際の遂行に近い形で反復し、課題や環境を調整しながら、実用的な行動能力の獲得を目指す訓練の総称である。ただし、その内容を一意に定める標準的な定義は確立していない。」
と言う感じでしょうか・・・
どなたか、しっかりした定義をご存知でしたら、ぜひ教えてください。
m(_ _)m
課題指向型訓練を研究しようとした科学者はこの事実を目の当たりにして、きっとご苦労をされたことと思います。(^^;;
いっそのこと研究デザインで研究用の定義を作ってしまうのも手ですね。
あるサイトで、以下のような文章を見つけました。
「課題指向型訓練は、日常生活に近い動作を繰り返し練習する脳卒中リハビリの代表的な方法です。2023年に世界中の脳卒中ガイドラインを統合した研究で「世界中のガイドラインで推奨されている」ことが確認されており(Mead, 2023)・・・」
リンク先の、
A systematic review and synthesis of global stroke guidelines on behalf of the World Stroke Organization〜世界脳卒中機関を代表して実施した、世界的な脳卒中ガイドラインの体系的レビューおよび統合〜
に目を通したのですが、この論文は、「世界のガイドラインが何を推奨しているか」ということを述べたものであって、「その介入が他の介入よりすぐれていること」をこの研究自身が検証したものではないのです。
従って、上に引用させていただいた文章の通り〜いや、世界中で推奨されているとは言い難い気もしますが〜、とりあえず多くのガイドラインで推奨されているのは間違いなさそうですね。
科学的根拠に沿っているかどうかはこの時点では保留です。
すると、課題指向型訓練に関する研究を探す必要があるのですが、Chat GPT(うちでは、マギと呼んでいますので、以下、マギと記載しますね)に確認したところ、あまり研究として課題指向型訓練の優位性を明確に表している研究というのはなさそうだという返事でした。
そこで、LINEグループやインスタ、Facebookなどで課題指向型訓練について、どのような研究があるのか教えていただきたいと声をかけたところ、いくつかの研究を紹介していただきました。
これらの研究を、マギとともに読み解いていく事にします。
まずはひとつめといきましょうか。ご紹介いただいた順です。
( ◠‿◠ )
Repetitive task training for improving functional ability after stroke
〜脳卒中後の機能能力向上のための反復課題トレーニング(RTT)〜
アブストラクトには、以下のように記載されています。
【背景】反復課題訓練(repetitive task training:RTT)は、課題に特異的な運動活動を積極的に練習するものであり、現在の脳卒中リハビリテーションにおける治療アプローチの構成要素となっています。
【目的】主な目的は、脳卒中後の成人において、RTTが上肢機能・リーチ能力、および下肢機能・バランス能力を改善するかどうかを検討することです。
二次的な目的は、以下の2点です。
1.RTTが、日常生活活動、全般的運動機能、生活の質・健康状態、有害事象などの二次的アウトカムに及ぼす影響を明らかにすること。2.課題練習の量、課題の種類、介入時期、介入内容など、一次および二次アウトカムに影響する可能性のある要因を明らかにすること。
【検索方法】Cochrane Stroke Group Trials Register、CENTRAL、MEDLINE、Embase、CINAHL、AMED、SPORTDiscusなど、複数の医学・リハビリテーション関連データベースを検索しました。検索は、おおむね2016年6月までに公表された研究を対象として行われました。
【選択基準】脳卒中後の成人を対象としたランダム化比較試験または準ランダム化比較試験を対象としました。
RTTは、明確な機能的目標に向けた能動的な運動系列を、1回の訓練セッション内で反復する介入と定義されました。比較対象は、通常ケア、注意対照、または無治療でした。
【データの収集と分析】2名のレビュー著者が独立して、研究の要旨を確認し、データの抽出と試験の評価を行いました。
各研究のバイアスのリスクは、Cochraneの「リスク・オブ・バイアス」ツールを用いて評価され、アウトカムごとのエビデンスの質はGRADE基準によって判定されました。必要に応じて、追加情報を得るために試験の著者へ連絡しました。
【主な結果】33件の試験、36組の介入群と対照群の比較、合計1853名の参加者が含まれました。
多くの研究では報告が不十分であり、バイアスのリスクを明確に判断できませんでした。そのため、GRADEによるエビデンスの質は、低または中程度と評価されました。
RTTによって、以下の機能が改善する可能性を示す低品質のエビデンスが認められました。
・上肢機能標準化平均差(SMD)0.2595%信頼区間(CI)0.01~0.4911研究、749名
・手機能SMD 0.2595%CI 0.00~0.518研究、619名
・下肢機能SMD 0.2995%CI 0.10~0.485研究、419名
また、RTTによって以下の歩行能力が改善する可能性を示す、中程度の質のエビデンスが認められました。
・歩行距離平均差(MD)34.80m95%CI 18.19~51.419研究、610名
・機能的歩行能力SMD 0.3595%CI 0.04~0.668研究、525名
治療終了後の追跡調査では、上肢機能および下肢機能の改善が、治療終了後6か月まで認められました。一方、6か月を超えた時点では、明確な効果は認められませんでした。
介入の種類、課題練習の量、脳卒中発症後の経過時間によって治療効果が異なることを示す、明確な証拠は認められませんでした。
また、有害事象のリスクについて確実な判断を下すには、エビデンスが不十分でした。
【著者らの結論】RTTが上肢および下肢の機能を改善することを示す、低から中程度の質のエビデンスが認められました。改善効果は、治療終了後最大6か月まで持続していました。
今後の研究では、参加者が実際に行った反復回数を測定する方法を含め、訓練の種類や量について、さらに検討する必要があります。
また、このレビューを今後更新する前に、RTTの定義を、臨床的に意味があり、他の介入と区別できるものにするため、再検討する必要があります。
アブストラクトは以上です。
面白いのは、上にも書いてありますが、著者らの結論として、
The definition of RTT will need revisiting prior to further updates of this review in order to ensure it remains clinically meaningful and distinguishable from other interventions.
と記載している点です。「今後の更新に先立って、RTTの定義を、臨床的に意味があり、他の介入と区別できるものになるよう再検討する必要がある」の部分ですね。
誠実で論理的な検討が行われたのではないかと思います。
実験デザイン上、従来のリハビリテーションと比較するために、RTTの特異性を明確にする必要があるのですが、それを再検討する必要があるとしているのだろうと思います。
さて、下位の研究まで遡ってみる事にします。
マギに遡ってもらった結果、このレビューの下位研究は33試験あるようです。
ただし、RTTそのものの効果を検証できる研究と、単に練習量が増えた研究が混ざっているようで、マギは検討すべき研究として、RTT群と対称群の治療時間が同等とされたものとして8試験を挙げてきました。
研究 | RTT側 | 対照側 | 第一印象 |
Arya 2012 | Meaningful Task-Specific Training | Brunnstrom+Bobathを基礎とした標準訓練 | 比較的明瞭な上肢RTT比較 |
de Sèze 2001 | 探索課題を用いた体幹制御再訓練 | 通常治療 | 特殊な装置・体幹介入 |
Langhammer 2000 | Motor Relearning Programme | Bobath | RTT単独でなく治療体系比較 |
Lennon 2009 | Bobath内の歩行特異的訓練 | 通常のBobath | 未公刊研究報告 |
Olawale 2011 | 歩行を中心とする運動訓練 | 通常治療 | RTTというより歩行運動療法 |
van de Port 2012 | 課題指向型サーキット | 通常の個別理学療法 | 群形式・効率性を含む比較 |
Van Vliet 2005 | Movement science based treatment | Bobath based treatment | 治療体系全体の比較 |
Winstein 2016:ICARE | 構造化された高反復・課題指向型上肢訓練 | 同量の通常OT/通常量OT | 大規模で重要、優位性なし |
全部検討するのはちょっと辛いので、肯定的なものと否定的なもの、治療体系の比較研究を見てみます。
まず初めに、肯定的な研究として、Arya 2012を取り上げてみます。
Arya KN, Verma R, Garg RK, Sharma VP, Agarwal M, Aggarwal GG.
“Meaningful task-specific training (MTST) for stroke rehabilitation: a randomized controlled trial.”
Top Stroke Rehabilitation. 2012;19(3):193–211.
研究の問いは、亜急性期脳卒中患者に対して、意味のある課題を反復する訓練MTSTが、Brunnstrom法・Bobath法を基礎とした通常訓練より上肢機能を改善するか、というものです。
私はアブストラクトまでは追いかけれたのですが、それ以上は追いきれなかったので、マギに任せてみました。
私はアブストラクトまでは追いかけられたのですが、それ以上は追いきれなかったので、マギに任せてみました。
まず、研究者の属性です。
Kamal Narayan Aryaが、この研究の筆頭著者です。作業療法を専門とし、この研究においてMTSTの構成と有効性の検証を中心的に担った研究者と考えられます。
したがって、この研究は、MTSTと利害関係を持たない第三者が評価した研究というよりも、MTSTを構成・実施する研究者側が、その有効性を検証した開発者側の研究と捉えた方がよさそうです。
もちろん、開発者が自ら研究すること自体に問題があるわけではありません。ただ、研究者が介入の有効性を期待することによって生じ得るバイアスについては、頭の片隅に置いて読んだ方がよさそうですね。💦
研究には、脳卒中発症後4~24週の103名が参加し、MTST群51名と標準訓練群52名に無作為に割り付けられています。介入前の両群の属性には、大きな偏りはなかったようです。
MTST群では、意味のある共通課題と個別課題を用い、反復、shaping、課題難易度の調整、多感覚フィードバック、課題順序のランダム化、事前の運動イメージ、片手・両手動作、代償を最小限にする誘導などが行われました。
一方、対照群では、Brunnstrom法とBobath法を基礎とした標準訓練が、MTST群と同じ時間行われています。
Brunnstrom法については、反射を利用した運動行動の発達、感覚刺激、痙縮の抑制、movement retraining、Brunnstrom stageに従った共同運動および随意運動制御の発達などが説明されています。
Bobath法については、異常な反射活動の抑制、正常運動の再学習、ファシリテーションおよびハンドリングを用いるものと説明されています。
この時点で、少し気になることがあります。
MTST群の介入内容は詳細に規定されているのに対して、対照群については、両群の訓練時間が同じであったこと、Brunnstrom法とBobath法を基礎としたこと、その一般的な治療概念しか示されていません。
さらに、この研究には、次のような限界があります。
・研究者が募集しやすい対象者を集めた便宜的標本である・失語、失行、半側空間無視、感覚障害、うつなどを持つ人が除外されている・MTST群と対照群を異なるセラピストが担当している・対照群で具体的に何が、どの程度行われたのかが十分に記載されていない・MTSTに含まれる複数の要素を、一つの介入パッケージとして比較している
便宜的標本であることや、さまざまな症状を持つ人が除外されていることは、主に、この結果を脳卒中患者全体へ一般化できるかという問題に関係します。
一方、対照群の具体的な訓練内容が十分に記載されていないことは、より直接的な問題です。
これでは、対照群の介入を再現するための情報が不足しており、MTSTが実際にどのような訓練と比較されたのかを、十分に検証することができません。
また、両群を異なるセラピストが担当しているため、介入方法の違いだけでなく、担当したセラピストの技術、経験、介入に対する期待などが結果に影響した可能性も残ります。
したがって、この研究でMTST群に優れた結果が認められたとしても、それをそのまま「MTSTはBrunnstrom法やBobathコンセプトより優れている」と一般化することは難しいように思います。
全くの感想ですけれど。
MTSTという介入法を研究した側であればこそ、その優位性を証明したいのであれば、実験デザインにはもっと慎重であった方が良かったのではないかと思いました。
さて、今度は否定的な研究を検証してみます。
次は、ICARE 2016です。
Effect of a Task-Oriented Rehabilitation Program on Upper Extremity Recovery Following Motor Stroke
〜課題指向型リハビリテーションプログラムが運動脳卒中後の上肢回復に与える効果〜
これは元の論文を読めますね。( ◠‿◠ )
アブストラクトは以下の通りです。
重要性
これまでの臨床試験では、上肢運動障害を有する脳卒中患者に対して、課題指向型訓練をより高用量で実施することが、現在の通常診療よりも優れている可能性が示唆されている。
目的
脳卒中リハビリテーションにおいて、構造化された課題指向型運動訓練プログラムと、通常・慣習的に行われている作業療法(usual and customary occupational therapy:UCC)の有効性を比較すること。
デザイン、実施施設および参加者
第3相、実用的、評価者単盲検ランダム化比較試験。
米国の7病院から44か月間にわたって募集された、中等度の運動障害を有する361人を対象とし、2009年6月から2014年3月まで外来環境で治療を実施した。
介入
参加者を以下の3群に割り付けた。
構造化された課題指向型上肢訓練であるAccelerated Skill Acquisition Program(ASAP)群:119人
ASAPと同等の治療量で通常の作業療法を行うdose-equivalent usual and customary care(DEUCC)群:120人
研究側が治療量を指定せず、通常診療として行われる作業療法を観察したUCC群:122人
DEUCC群には、10週間にわたり1回1時間、合計30回の作業療法が処方された。
UCC群では、研究側は治療量を指定せず、通常診療として実施された作業療法の内容と治療量を観察した。
主要アウトカムと評価項目
主要アウトカムは、対数変換したWolf Motor Function Test(WMFT)時間スコアの、ベースラインから12か月までの変化とした。
WMFT時間スコアは、時間を計測する15項目の上肢運動および手指巧緻動作課題の平均所要時間から構成される。
副次アウトカムは、対数変換前のWMFT時間スコアの変化〔最小臨床的重要差(MCID)=19秒〕と、Stroke Impact Scale(SIS)手機能スコアが25点以上改善した患者の割合とした。
SIS手機能スコアについて報告されている最小検出可能変化は25.9点、MCIDは17.8点であった。
結果
無作為化された361人の平均年齢は60.7歳で、56%が男性、42%がアフリカ系米国人であり、脳卒中発症から無作為化までの平均期間は46日であった。
このうち304人(84%)が、12か月時点の主要アウトカム評価を完了した。
ITT解析では、対数変換WMFT時間スコアのベースラインから12か月までの平均変化は、以下のとおりであった。
ASAP群:2.2から1.4へ変化(変化量0.82)
DEUCC群:2.0から1.2へ変化(変化量0.84)
UCC群:2.1から1.4へ変化(変化量0.75)
群間に有意差は認められなかった。
ASAP群対DEUCC群:群間差0.14、95%信頼区間 −0.05~0.33、P=.16
ASAP群対UCC群:群間差 −0.01、95%信頼区間 −0.22~0.21、P=.94
DEUCC群対UCC群:群間差 −0.14、95%信頼区間 −0.32~0.05、P=.15
副次アウトカムでは、WMFT時間スコアの変化と、SIS手機能スコアが25点以上改善した患者の割合は、以下のとおりであった。
ASAP群:WMFT −8.8秒、SIS改善者73%
DEUCC群:WMFT −8.1秒、SIS改善者72%
UCC群:WMFT −7.2秒、SIS改善者69%
いずれの群間比較においても、有意差は認められなかった。
ASAP群対DEUCC群
WMFT:1.8秒、95%信頼区間 −0.8~4.5秒、P=.18
SIS改善者割合:1%、95%信頼区間 −12%~13%、P=.54
ASAP群対UCC群
WMFT:−0.6秒、95%信頼区間 −3.8~2.6秒、P=.72
SIS改善者割合:4%、95%信頼区間 −9%~16%、P=.48
DEUCC群対UCC群
WMFT:−2.1秒、95%信頼区間 −4.5~0.3秒、P=.08
SIS改善者割合:3%、95%信頼区間 −9%~15%、P=.22
109人の参加者に合計168件の重篤な有害事象が発生し、8人が研究から離脱した。
結論と臨床的意義
主として中等度の上肢機能障害を有する、運動障害を伴う脳卒中患者において、構造化された課題指向型リハビリテーションプログラムは、同等量またはそれより低用量の通常・慣習的上肢リハビリテーションと比較して、運動機能または回復を有意に改善しなかった。
これらの結果は、主として中等度の上肢機能障害を有する脳卒中患者において、このプログラムが通常の作業療法より優れていることを支持しない。
アブストラクトは以上です。
まず研究者の属性ですが、この研究はASAPを構想・開発した研究者らが自ら実施した、開発者主導の多施設ランダム化比較試験です。
一般に、介入法の開発者自身による検証研究には、その介入を有利に評価する研究者アレジアンスの影響を考慮する必要があります。
一方、本研究では、主要評価項目についてASAPの優位性が認められなかったという、研究者らの当初の仮説を支持しない結果が、そのまま明確に報告されています。この点には好感が持てます。
否定的な結果を隠したり、無理に肯定的に解釈したりするのではなく、なぜ予想した結果が得られなかったのかを検証することによって、よりよい介入方法や評価方法が明らかになる可能性があるからです。
無作為化後の3群については、年齢、発症からの期間、上肢Fugl-Meyer Assessment、NIH Stroke Scaleなどの主要なベースライン特性が概ね均衡しており、群間の比較可能性は比較的よく保たれていると思います。
ただし、この研究の対象者は、少なくともある程度の手指伸展が可能であり、重度の認知障害、感覚障害、半側空間無視などがなく、集中的な外来訓練に参加できる患者に限定されています。
したがって、群間の割り付けは適切である一方、この結果を重度麻痺や重い認知・感覚障害を含む脳卒中患者全体に一般化することには注意が必要です。
研究者らは、脳卒中後の上肢機能訓練としてASAPを開発し、ASAPが、同量またはより低用量の通常の作業療法よりも優れているという仮説を検証するために、この研究を行いました。
ASAPは、運動訓練の方法や実施スケジュールに関する神経科学、運動学習、行動科学などの知見を臨床に実装した、原則に基づく複合的なプログラムとして開発されています。
具体的には、機能障害への介入、意味のある課題を用いた技能獲得、課題難易度の調整、運動の質の重視、患者とセラピストの協働、自己決定、自己効力感、生活場面への展開などが含まれています。
したがってASAPは、単純に課題を反復する訓練ではなく、課題指向型訓練の主要なエッセンスを広範に取り入れた、かなり充実した複合プログラムと考えることができます。
そのASAPを、同じ治療時間の通常OT、および研究側が治療時間を指定しない通常OTと比較した結果、12か月時点の上肢運動機能について、ASAPの明確な優位性は認められませんでした。
これは、課題指向型訓練の理念を可能な限り丁寧に構造化したとしても、それによって通常の作業療法を上回る効果が保証されるわけではないことを示す、重要な結果だと思います。
一方、比較対照となった通常OTの具体的な介入内容は、研究側によって統一されていません。
通常OTの内容は、担当する作業療法士、地域の臨床慣行、保険者の基準、患者の希望などに基づいて決定されました。これは通常診療に対するASAPの実用的な優越性を検証するという研究目的に沿ったものです。
ただし、通常の作業療法にも、意味のある活動、実際の物品操作、課題の反復、難易度調整、筋力や可動性への介入、自主練習、生活場面への展開などが含まれていた可能性があります。というより、通常の作業療法であれば、こうした要素がある程度含まれていると考える方が自然でしょう。
そのため、この研究は、
「課題指向型訓練」と「課題指向的ではない従来型訓練」
を比較した研究ではありません。
実際に比較されたのは、
「課題指向型訓練の諸要素を詳細に構造化したASAP」と、「介入内容を個々の臨床家に委ねた通常の作業療法」
です。
したがって、ASAPと通常OTのどの構成要素が共通し、どの構成要素が異なっていたのかは明確ではありません。
この研究から言えるのは、ASAPという構造化された複合プログラムが、通常の作業療法より優れていることは確認できなかった、ということです。
一方、この結果から、課題指向型訓練の構成要素そのものに効果がない、あるいは課題指向型訓練が従来のアプローチより劣っている、と結論づけることはできません。
通常診療に対するASAPの実用的な優越性を検証する研究としては意味がありますが、課題指向性、反復、個別化、難易度調整、自己効力感など、それぞれの構成要素の作用を科学的に分離する研究ではありません。
少なくとも、ここまで確認した研究からは、課題指向型訓練に固有の付加的効果が存在するのか、あるいは通常のリハビリテーションにも含まれる共通要素によって同様の効果が生じているのかは、まだ明らかではないと考えます。
また、本研究の追跡期間は無作為化から12か月までです。そのため、2年後、3年後以降の上肢機能の変化や、生活の中での上肢使用の蓄積によって生じる長期的な運動学習については、この研究から判断することはできません。
なお、同じICARE研究の2018年の二次解析では、治療終了時点において、ASAP群で自己効力感、参加、健康感、生活の質などの一部の自己報告指標が通常OT群より早く改善したと報告されています。
しかし、参加者は介入内容と割り付けを認識しており、ASAP自体が自己効力感、患者中心性、協働、動機づけを意図的に強化するプログラムでした。そのため、これらの自己報告結果には、介入による実際の心理的効果だけでなく、期待効果、治療者との関係、特別な治療を受けているという認識、回答傾向などが影響した可能性を否定できません。
また、Fugl-Meyer AssessmentやWMFTなどの客観的な運動機能評価では、回復速度を含めてASAPの優位性は確認されていません。したがって、二次解析の結果を、ASAPが上肢の運動回復を早めた証拠として扱うことには慎重であるべきだと思います。
さて今まで2本の1次研究に目を通してきたのですが、現在のところ、課題指向型訓練が通常リハビリテーション群と比較して優位であるかどうかは、科学的にはわからないという結論だと思います。
長くなりますが、3本目。いってみましょう。♪( ´θ`)ノ
3本目は、ガイドライン推奨を形成した根拠群に、どのような一次研究が「課題指向型」または「反復課題訓練」として取り込まれているのかを検証する研究を取り上げてみます。
Van Vliet et al., 2005 いきます。
Comparison of Bobath based and movement science based treatment for stroke: a randomised controlled trial
〜脳卒中に対するボバス法に基づく治療と運動科学に基づく治療の比較:無作為化比較試験〜
アブストラクトは以下の通りです。
目的:ボバスベース(BB)および運動科学ベース(MSB)の理学療法介入は、脳卒中後の患者に広く用いられています。どれが最も効果的かを示す証拠はほとんどありません。この単一盲検ランダム化比較試験は、これらの治療が運動能力および機能的自立に与える影響を評価しました。
方法:脳卒中リハビリテーション病棟に入院した合計120名の患者を、BBまたはMSBのいずれかの治療を受ける2つの治療群に無作為に割り付けました。主要なアウトカム指標は、Rivermead Motor Assessment と Motor Assessment Scale でした。二次的測定は、機能的自立、歩行速度、腕機能、筋緊張、感覚を評価しました。測定は、ベースライン時に盲検評価者によって実施され、ベースライン後1か月、3か月、6か月で実施されました。連続測定の分析を実施し、曲線下面積(AUC)を算出し、AUC値をMann‐Whitney U検定に挿入することで、群間の結果を比較しました。
結果:群間の比較では、いずれのアウトカム測定においても有意差は認められませんでした。Rivermead Motor Assessment の有意性値は p = 0.23 から p = 0.97 まで、Motor Assessment Scale の有意水準は p = 0.29 から p = 0.87 の範囲でした。
結論:BB介入またはMSB介入を受けた患者間で、運動能力や機能的自立に有意な差は認められませんでした。したがって、本研究は、脳卒中患者の治療において、一方のアプローチが他方よりも効果的であることを示しませんでした。
アブストラクトは以上です。
マギに、研究者の属性を確認してもらいました。筆頭著者のPaulette M. van Vlietは理学療法士で、脳卒中後の運動制御・運動学習、とくに上肢機能回復を主な研究領域としてきた研究者だそうです。研究当時はノッティンガム大学の脳卒中医学部門に所属していて、後年の研究歴を見ても、フィードバック、運動学習、課題特異的練習など、明らかにmovement science寄りの研究関心を持っているとマギは指摘しています。
研究者は脳卒中後の理学療法について、治療時間を増やすこと・運動学習を促す方法・免荷式トレッドミル・非麻痺側上肢の拘束・課題得意的練習などの個別の治療要素には肯定的な研究がある一方で、Bobathやmovement scienceのような治療体系全体のどれが優れているかは分かっていないと整理しています。
ここで大切なのは、肯定的な研究があるというだけで、その方法が科学的に肯定されたものではないことにも留意しておく必要がありますね。(^^;;
母集団ですが、21ヶ月間に脳卒中病棟に入院した569名が検討され、そのうち無作為化されたのは120人(21%)です。
除外理由には、意識障害や初回評価への耐久性など臨床的に理解できるものが多く含まれています。一方で、居住距離や理学療法士の担当数、早期退院など、研究運営や施設事情による除外も含まれていました。そのため、登録された120人が、病棟へ入院した脳卒中患者全体を代表しているとは限りません。
母集団の大雑把な傾向としては、極端な軽傷者と重症者を除いた、早期の肘頭度障害患者と言えそうです。
大まかな臨床的重症度の分布については、両群に明らかな偏りは認められないようです。
一方、本来、回復予後に関係する条件の一つである病変の種類、病変体積、病変部位、初回発症か再発か、あるいは併存疾患の有無などについては、十分な情報を確認できません。
例えば、糖尿病を有する患者では末梢神経障害による感覚障害を伴うことも珍しくありません。こうした身体側の条件は、感覚入力や運動学習、身体活動に影響し、機能回復に不利に働く可能性があります。
したがって、これらの条件をあらかじめ把握し、群間の分布を確認することは、介入効果をより正確に検討し、研究の精度を高めるうえで重要であると考えられます。
次にこの研究がどのように行われていたのかをみてみます。
この研究では、病棟で従来から行われていたBobath系の通常診療と、研究者らが文献などを参考に構成し、MSBの経験が乏しい療法士を訓練して新たに導入したMSB診療を比較しています。
Bobath群については、その病棟で研究前からBobath系治療を日常的に行っていた療法士が担当したと記載されています。ただし、Bobathの基礎講習会などを受講していたかどうかは明らかにされていません。
さらに著者ら自身が、治療を担当した療法士について、Bobath、MSBのいずれについても、それぞれの治療法の専門家ではなかったと述べています。つまり、この研究は、十分に訓練され、高度に習熟したBobath療法士とMSB療法士を比較したものではありません。
また、病院の人事ローテーションのため、Bobath群ではMSB群よりも多くの療法士が治療に関与していたことも、著者らが認めています。Bobath群では担当療法士が固定されず、複数の療法士が入れ替わりながら治療を行っていたイメージでしょう。一方のMSB群は、MSBの経験が乏しい少数の療法士が研究者から訓練を受けて担当していました。
以上から、この研究では、治療法の違いだけでなく、療法士の経験、担当者数、治療の一貫性、研究者による教育や関与などの条件が、両群で同等に統制されていなかったと考えられます。
ただし、こうした条件の違いが、一方の群だけに有利に働いたとは限りません。Bobath群には、それまで日常的に実践してきた経験がある一方、MSB群には、担当者が少なく、研究者から直接指導を受け、比較的一貫した方針で治療を実施できたという利点があります。
少し意地悪な言い方になりますが、これは、熟練したBobathと熟練したMSBのどちらが優れているかを明らかにする実験というよりも、専門家ではない療法士が、Bobathの考え方に基づいて通常診療を行う場合と、MSBの文献やガイドラインをもとに研究者から訓練を受けて実践する場合とで、どちらの患者成績が良くなるかを比較した研究といえます。
もっと乱暴にたとえるなら、ゴルフの専門家ではない人たちを二つのグループに分け、一方には以前から使っていたゴルフの教本に沿って練習してもらい、もう一方には別の教本を研究者が説明して練習してもらったところ、どちらの成績が良くなるかを比較したようなものです。
それはそれで、特定の治療方針を通常の臨床現場へ導入した場合の結果を知るという意味はあるのかもしれません。
しかし、BobathとMSBという治療体系そのものの優劣や、日常診療においてどちらの治療体系を選択すべきかを判断するための根拠としては、参考にはなるとしても、十分な研究とは言いにくいように思います。(^^;;
さて。
2本目のシステマティックレビューです。
Effects of Task-Oriented Training on Gait Outcomes and Balance in Individuals with Stroke: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials (Lee et al., 2025)
〜脳卒中者における課題指向型訓練が歩行成績およびバランスに及ぼす効果:ランダム化比較試験のシステマティックレビューおよびメタ解析〜
以下のサイトで、全文PDFがダウンロードできます。
アブストラクトを引用します。
背景・目的
課題指向型訓練(task-oriented training:TOT)は、課題に特異的な練習を反復することによって、脳卒中後の運動回復を促進する、機能的かつ目標指向的なリハビリテーション・アプローチである。しかし、脳卒中者の歩行およびバランスに対する総合的な効果については、依然として明らかになっていない。
本システマティックレビューおよびメタ解析では、脳卒中者の歩行およびバランスに対する課題指向型訓練の効果を評価することを目的とした。
方法
PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane LibraryおよびScopusを用いて、包括的な文献検索を行った。
脳卒中者を対象として課題指向型訓練を実施した適格研究を採用し、PEDroスケールを用いて方法論的質を評価した。その後、統合効果量を推定するため、ランダム効果モデルによるメタ解析を実施した。
結果
合計888名を対象とした17件のランダム化比較試験が採用された。
対照介入と比較して、課題指向型訓練は以下の項目を有意に改善した。
歩行速度:標準化平均差(SMD)=0.48、95%信頼区間=0.27~0.69、p<0.0001
歩行持久力:SMD=0.49、95%信頼区間=0.27~0.71、p<0.0001
Berg Balance Scale(BBS):SMD=0.45、95%信頼区間=0.08~0.82、p=0.02
Timed Up and Go test(TUG):SMD=-0.28、95%信頼区間=-0.47~-0.09、p=0.003
BBSについて行われたサブグループ解析では、脳卒中の病期によって効果に違いが認められた。
結論
課題指向型訓練は、脳卒中者の歩行およびバランスを効果的に改善し、脳卒中後リハビリテーションの中核的な構成要素として位置づけられるべきである。
今後の研究では、その長期的効果を検討するとともに、脳卒中の病期および患者特性に応じた最適な訓練条件を明らかにする必要がある。
アブストラクトは以上です。
研究者の属性です。
本研究の研究者は、韓国の理学療法士2名のようです。課題指向型訓練の提唱者や採用RCTの開発者が行った自己評価研究ではありません。一方、著者はいずれも理学療法士で、脳卒中者の歩行・バランス介入を継続的に研究してきた研究者だそうです。筆頭著者には課題指向型歩行訓練の研究歴もあるようです。また、研究費は責任著者が所属する韓国前庭リハビリテーション治療協会から提供されています。商業的利益相反は申告されていないようですが、専門領域や所属組織に由来する研究者忠誠バイアスの可能性は考慮する必要がありますね。
このレビューは対照介入に対する課題指向型訓練の効果を統合していますが、「課題指向型ではない従来型リハビリテーション」を一貫した比較対象として、その優越性を検証したものではありません。
ところが、結論には、課題指向型訓練を脳卒中後リハビリテーションの中核的な構成要素として位置付けるとしています。
構成要素というのは同意しますが、課題指向型訓練を中核的な構成要素と位置づけるのであれば、少なくとも、観察された改善が訓練量や強度、付加的な治療要素ではなく、課題指向性そのものに由来することを示す必要があります。
No. | 研究 | 題名の日本語訳 | 実際の比較 |
1 | Gao et al., 2024 | 片麻痺を有する脳卒中患者の運動・歩行に対する課題指向型生体力学的知覚・バランス訓練の効果 | 基本的リハビリテーション+課題指向型知覚・バランス訓練 vs 基本的リハビリテーションのみ |
2 | Ali et al., 2020 | 亜急性期脳卒中における個別課題特異的訓練と集団サーキット訓練のバランス・歩行への効果 | 集団での課題特異的訓練 vs 個別での課題特異的訓練 |
3 | Kim et al., 2016 | 慢性期脳卒中入院患者における個別および集団課題指向型サーキット訓練のバランス能力・歩行持久力への効果 | 集団課題指向型サーキット vs 個別課題指向型サーキット |
4 | Cha & Oh, 2016 | 鏡療法を組み込んだ課題指向型運動が脳卒中後片麻痺者のバランス機能に及ぼす効果 | 鏡を用いた課題指向型運動 vs 鏡を用いない課題指向型運動 |
5 | Kuberan et al., 2017 | 感覚入力を変化させた課題指向型運動が慢性期脳卒中者のバランスと機能的移動能力に及ぼす効果 | 感覚入力操作・感覚葛藤を含む課題指向型訓練 vs 通常理学療法 |
6 | Kwon et al., 2015 | 課題指向型トレッドミル歩行訓練が脳卒中者の歩行能力に及ぼす効果 | 課題指向型トレッドミル歩行 vs 通常のトレッドミル歩行 |
7 | Tsaih et al., 2018 | 課題指向型筋電バイオフィードバックと練習変動性の組合せが慢性期脳卒中者の筋力・バランスを改善する | 変動練習または一定練習による筋電バイオフィードバック+通常PT vs 上肢運動+通常PT |
8 | Knox et al., 2018 | 6時間の課題指向型訓練は脳卒中後の歩行能力を最適化する:南アフリカの公的医療制度におけるRCT | 立位・歩行を中心とした課題介入 vs 脳卒中管理・教育的介入 |
9 | Verma et al., 2011 | 運動イメージを伴う課題指向型サーキットクラス訓練による脳卒中後歩行リハビリテーション | 運動イメージ+課題指向型サーキット vs下肢リハビリテーション |
10 | Yang et al., 2006 | 課題指向型漸増抵抗筋力訓練は脳卒中者の筋力と機能的遂行能力を改善する | 課題指向型漸増抵抗筋力訓練 vs リハビリテーションなし |
11 | Malik & Masood, 2021 | 脳卒中後の移動能力を改善するための課題指向型訓練とエクサゲーム:ランダム化試験 | 課題指向型訓練+エクサゲーム vs 課題指向型訓練のみ |
12 | Kim et al., 2015 | 補助的傾斜台上での漸進的課題指向型訓練が脳卒中片麻痺者の下肢筋力と歩行回復に及ぼす効果 | 通常治療+傾斜台+課題指向型訓練 vs 通常治療+傾斜台 |
13 | Atif & Afzal, 2023 | 課題指向型歩行介入が脳卒中後患者のバランス自己効力感を改善する効果 | 課題指向型歩行訓練 vs 通常治療 |
14 | Choi & Kang, 2015 | 患者中心型課題指向型訓練が脳卒中後のバランス、日常生活活動、自己効力感に及ぼす効果 | 患者中心型課題指向型訓練 vs 一般理学療法 |
15 | Mendoza et al., 2021 | 慢性期脳卒中者の歩行能力、歩行速度、階段昇降に対する2種類のサーキットクラス療法の比較 | 課題指向型サーキット vs 個別機能障害に焦点を当てたサーキット |
16 | Van de Port et al., 2012 | 脳卒中後の通常理学療法に代わるサーキット訓練の効果:ランダム化比較試験 | 課題指向型サーキット訓練 vs 通常の外来理学療法 |
17 | Outermans et al., 2010 | 脳卒中早期における高強度課題指向型訓練が歩行能力に及ぼす効果 | 高強度課題指向型訓練 vs 低強度理学療法 |
この17研究では、比較条件が非常に多様です。課題指向型訓練同士を比較した研究に加えて、訓練量、運動強度、感覚入力、運動イメージ、鏡療法、バイオフィードバック、集団形式など、課題指向性以外の条件が同時に異なる研究が多く含まれています。そのため、課題指向性そのものの効果を分離して評価することは困難です。
ですが、一応通常の外来理学療法との比較研究が含まれているので、一本だけ下位研究を確認をしておくことにします。
Effects of circuit training as alternative to usual physiotherapy after stroke: randomised controlled trial
〜脳卒中後の通常理学療法に代わるサーキットトレーニングの効果:ランダム化比較試験〜
研究論文の中に含まれている、as alternative to usual physiotherapy という表現は、「通常理学療法より優れた」という意味ではなく、通常理学療法の代替手段としてという意味ですね。
以下アブストラクトです。
目的
入院リハビリテーション施設から自宅へ退院した脳卒中者を対象として、課題指向型サーキットトレーニングが、通常の理学療法と比較して、本人が評価する歩行能力にどのような効果を及ぼすかを検討する。
研究デザイン
24週間の追跡調査を伴うランダム化比較試験。
研究施設
オランダ国内の9か所の外来リハビリテーション施設で実施された多施設共同試験。
対象者
身体的な介助を受けずに少なくとも10m歩行でき、入院リハビリテーションを終了した後、外来リハビリテーション施設へ移行した脳卒中者を対象とした。
対象者をリハビリテーション施設ごとに層別化したうえで、オンラインによるランダム化手続きを用い、サーキットトレーニング群または通常理学療法群に無作為に割り付けた。
介入
介入群は、1回90分、週2回、12週間のサーキットトレーニングを受けた。
訓練は、体育館内に設置された8種類の課題ステーションで構成され、歩行能力に関連する課題の遂行能力を改善することを目的としていた。
対照群は、通常の外来理学療法を受けた。
主要評価項目
主要評価項目は、Stroke Impact Scale version 3.0(SIS)の移動領域とした。
副次評価項目は、立位バランス、本人が評価する各種能力、歩行速度、歩行距離、階段昇降、手段的日常生活活動、疲労、不安および抑うつとした。
群間差は、intention-to-treatの原則に基づいて解析した。すべての評価は、評価群を知らされていない評価者によって、24週間にわたる反復測定デザインで実施された。
結果
サーキットトレーニング群には126名、通常ケア群には124名が割り付けられ、このうち解析可能なデータが得られたのは、それぞれ125名と117名であった。
サーキットトレーニング群では1名、対照群では7名が脱落した。
サーキットトレーニングは安全に実施され、重篤な有害事象は報告されなかった。
12週時点において、主要評価項目であるSISの移動領域には、有意な群間差を認めなかった。
β=0.05
標準誤差=0.68
p=0.943
一方、サーキットトレーニング群では、以下の項目において有意に良好な結果が認められた。
歩行速度:群間差0.09m/秒、標準誤差0.02、p<0.001
歩行距離:群間差20.0m、標準誤差7.4、p=0.007
修正版階段昇降テスト:群間差-1.6秒、標準誤差0.7、p=0.015
その他の副次評価項目については、Nottingham Extended Activities of Daily Livingの余暇活動領域、およびSISの記憶・思考領域を除き、有意な群間差を認めなかった。
追跡評価時には、歩行速度を除いて、有意な群間差は認められなかった。
歩行速度については群間差-0.04m/秒、標準誤差0.02、p=0.040であった。
結論
課題指向型サーキットトレーニングは、入院リハビリテーションを終了して地域生活へ移行した後も、外来で歩行および歩行関連活動の訓練を必要とする脳卒中者に対して、通常の理学療法に代えて安全に実施することができる。
アブストラクトは以上です。
研究者の属性ですが、課題指向型サーキット訓練という概念そのものの発明者ではないけれど、今回評価された構造化FIT-Strokeプログラムを設計・標準化し、自ら効果を検証した研究チームだそうです。
課題指向型訓練に対して中立的な第三者が評価した研究ではなく、課題特異性、反復量、訓練強度を重視してきた神経リハビリテーション研究者が、自ら設計したFIT-Strokeプログラムを検証した開発者主導研究と言えるようですが、主要評価で有意差が出なかったことを隠さず報告し、「通常理学療法より優れている」とは結論づけず、
通常理学療法と同程度に有効で、安全に代替できると結論づけている点には好感が持てますね。
母集団は、オランダの9つのリハビリテーション施設で入院治療を終え、自宅へ退院し、外来理学療法を継続する脳卒中者250名です。
主な条件は、介助なしで10メートル以上歩ける・自宅へ退院している・歩行能力または体力改善の
12週間(24回)の訓練に参加する意欲がある・MMSE24点以上・十分に意思疎通できる・施設から30Km以内に居住するなどです。
つまり、入院リハビリテーションを終え、すでにある程度歩け、自宅生活へ移行できた、認知・コミュニケーション能力が比較的保たれた人ということですね。
研究対象者の平均年齢は56〜58歳と、高齢者を含む一般的な脳卒中集団を十分に代表しているとは言いにくそうです。
割り付けなどはしっかりされている印象です。
少し興味深いのは、サーキット群対通常理学療法群で、サーキット群が平均12日早く介入を開始しているようです。発症後3ヶ月の時期ですので決定的ではないですが、実験群の方が、やや有利であったとは言えるかもしれないですね。
研究では、脳梗塞・脳出血、大まかな病変部位、脳梗塞についてはBamford分類などが示されています。しかし、病変部位や病変範囲、合併症などについては十分に判断できません。
(いつも思うのですが、発症部位や損傷範囲、糖尿病や心疾患などの合併症の有無は脳卒中後の回復について大きく関与する因子であるにもかかわらず、研究でしっかりコントロールして実験していることを示す研究がないのはなぜでしょうね?)
さて、実際の研究の内容です。
頻度・回数などは同条件に整えられているようです。
実験群は、一回90分です。
内訳は、
ウォーミングアップ:5分
8種類のサーキット:60分
評価と休憩:10分
集団ゲーム:15分
サーキットには、
立位でのリーチ
階段昇降と移乗
歩きながら床の物を拾う
ボールを蹴る
段差昇降
障害物歩行
臥位・座位から立位への移乗
速歩
反復回数を増やして段階づけていたようです。
参加者はペアになり、一方が課題を行っている間、もう一方が反復回数を数え、励まします。活動記録をつけ、次回のフィードバックにも使います。最後には方向転換、速歩、認知課題を組み合わせた集団ゲームも行われたようです。
対照群は、通常の個別外来理学療法です。
治療目標としては、立位バランス、身体的コンディショニング、歩行能力の改善が挙げられています。
具体的な治療内容、時間、治療期間に追加の制限を設けていません。 各療法士が通常行っている個別治療をそのまま実施する設計です。
この研究が正直だなぁと思うのは、実際に行われた時間が記載してあることですね。
予定上、サーキット群は1回90分でしたが、実際の平均治療時間は、サーキット群が72分、通常理学療法群が34分だったそうです。
つまり、サーキット群は通常理学療法群の約2倍の時間、介入を受けていたことになります。仮に歩行速度や歩行距離に差が認められたとしても、その差を課題指向性によるものと断定することはできません。訓練時間、反復量、運動強度、集団による励まし、活動記録とフィードバックなど、複数の条件が同時に異なるからです。
この研究が検証したのは、課題指向性という治療原理の純粋な優越性というより、一人の療法士が複数の患者を担当する構造化されたサーキット方式によって、通常の個別理学療法と同程度の主要結果を維持しながら、一部の歩行関連能力を改善できるかという診療提供方式であったと考える方が適切です。
この研究はシステマティックレビューにおいて課題指向型訓練の神経学的治療学的優越性を研究したものとは言えないようですね。
したがって、やはりシステマティックレビューで「課題指向型訓練を脳卒中後リハビリテーションの中核的な構成要素として位置付ける」と結論づけたのは、論理の飛躍があることになります。
長くなりました。私的な結論を書きます。
少なくとも今回確認したシステマティックレビューと一次研究からは、課題指向型訓練に固有の付加的効果や、他のリハビリテーションより優先して推奨すべき科学的根拠は、明らかになっていないように思います。
もちろん課題指向型と言われるものは大切だと思います。
しかし、それは回復〜運動学習を形作る沢山の要素の一つにしかすぎず、本来はそうした要素の組み合わせによって、回復が最適化されるということが真実であろうと思いますし、その中で課題指向型訓練のみが優れた要素であると結論づけることはできないのだろうと思います。
今回の研究を精読して感じたこと
今回、課題特異的練習に関する研究を一次研究まで遡って確認する中で、個々の研究の方法論だけではなく、現在のリハビリテーション科学が抱えている、より根本的な問題を感じました。
研究では、介入によって何が変化したのかを評価します。
しかし、その前には、
「何を回復と呼ぶのか」「自立とは何か」「正常な運動とは何か」「本人にとって望ましい生活とは何か」「代償による課題遂行と、身体機能そのものの回復をどのように考えるのか」
という問いがあります。
これらは、測定によって決められるものではありません。
どのような変化を望ましいと考えるのかという、哲学的、倫理的な価値判断を含んでいます。
今回確認した研究でも、練習した課題の遂行能力、身体機能、日常生活上の自立度、本人による自己評価など、何を評価するかによって介入の見え方が変わっていました。
練習した課題の成績が向上したとしても、身体機能そのものが回復したとは限りません。
日常生活上の自立度が向上したとしても、それが代償手段の獲得によるものなのか、運動機能の変化によるものなのかは別に考える必要があります。
また、本人の自己評価が向上したとしても、介入への期待、治療者との関係、説明の仕方などの影響を完全に分離することは困難です。
つまり、評価尺度は単に介入の結果を測定しているだけではありません。
その尺度を選んだ時点で、研究者はすでに、何を回復として重視するのかを選択しています。
回復の定義があり、その定義に基づいて評価尺度が選択され、その尺度によって介入の効果が判定され、最終的にガイドラインの推奨へとつながっていきます。
ところが、研究論文では、この最初の「何を回復と考えるのか」という前提が、十分に明示されていないことが少なくありません。
数値として測定された結果が、あたかも回復そのものを客観的に表しているように扱われています。
しかし実際には、
1.何を回復と考えるのか
2.その回復を何によって観察するのか
3.どの介入がその回復をもたらすのか
という三つの問いを、区別して考える必要があります。
第一は哲学的、倫理的な問いです。
第二は測定論の問いです。
そして第三が、臨床研究によって検証される科学的な問いです。
今回の研究を精読する作業を通じて、現在のリハビリテーション研究では、第一の問いを十分に検討しないまま評価尺度が選ばれ、介入効果の統計的な比較が行われている場合が少なくないように感じました。
そして統計的な差が認められると、どのような回復が望ましいのかという価値判断にまで、科学的な答えが出たかのように解釈されることがあります。
ここには、大きな論理の飛躍があります。
現在のリハビリテーション医学は、自然科学的な方法を用いる一方で、哲学的、倫理的な前提の上に成立している学問なのだと思います。
哲学的な側面があること自体が問題なのではありません。
その前提を明示しないまま、特定の価値観を科学的に証明された事実であるかのように扱うことに問題があります。
測定できるものが重要なのではありません。
何を重要と考えたかによって、測定するものが選ばれています。
今回、課題特異的練習に関する研究を一次研究まで遡って確認したことで、この順序を見失うことが、リハビリテーション科学における多くの混乱の根にあるのではないかと感じました。




コメント