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脳の基本的な構造と働きのお話し

執筆者の写真: Nagashima KazuhiroNagashima Kazuhiro

脳損傷リハビリテーションを考える上で脳の働きを捉えるために大切なポイントは2つあると思います。


ひとつは、人がどの様なプロセスで行動や運動を選択するのかという事。

もうひとつは、選択された運動出力がどのような情報処理をされているのかという事です。


現在解っている(と云うか私の知っている、或いは私が理解している)脳の働きを元に説明していきますね。


まずは、大雑把な脳の構造と働きからおさらいします。

以下の図は、高草木先生の講義資料からになります。これが正しいという事では無くて、一般的によく言われている事をまとめた図だと思ってください。




ざっと働きが書いてありますね。

実際にはもっと様々な仕事をしています。例えば側頭葉は、視覚と体性感覚、聴覚情報などを統合し、物体の記憶と認識に関わっていたりすることが知られていますし、側頭葉と前頭葉/頭頂葉を分けるシルビウス裂の中にある「島葉」という部位では内臓の感覚や身体感覚などを処理し、自律神経系との関係を調節したりしています。

頭頂葉なども、各種感覚が統合されて身体図式情報を常にアップデートするような働きがあることが知られています。

細かなことを書き出すと際限が無いので、ざっとこんな感じだという風にご理解いただければと思います。


皮質下というのは、先に出した図が脳の表層〜皮質〜の説明であったのに対して、そのさらに深いところの構造を示しています。

これも上の説明と一緒で、ざっとした内容です。詳しく知りたい方は、脳の解剖学の本や、脳生理の本を読んでいただければと思います。

勿論ご質問いただければ私の知っている範囲でお答えします。(*^_^*)


そして、左右の脳の働きの特徴を図示したものです。

左脳のことを優位脳とか優位半球と呼び、右脳のことを劣位脳とか劣位半球と云います。

脳は左右の働きを強調させてひとつの情報処理を行うので、左右の脳の働きに優劣が在るわけでは無いのですけれど、こういった表現は昔からのものなのです。

ちょっと関係ないですが、脳のCT画像やMRI画像を見る際に、中心溝を同定することを最初に行う事が多くて、中心溝の独特な「ひ」と書いたようなラインの形状から中心溝のラインをシグマ(Σ)ラインと呼んだりします。


高草木先生の図は綺麗で見やすいですよね。

ずいぶん前は、勉強をしたいからデータが欲しいとお願いしたら気前よくデータをいただけたのです。現在は、それらのデータが一人歩きすることから様々な事が有ったようで、データを頂けなくなりましたが、今でも昔に頂いたデータを見返して勉強をさせていただいてます。

高草木先生、ありがとうございます。

この様な形で利用させていただく事をお許しください。

<m(__)m>


さて、脳がどの様なプロセスで行動や運動を選択していくのかといったお話をしたいと思います。



通常時ですね。解りやすく単純にするため、視覚刺激からの認知ー行動の例です。

目から入力された光による視覚情報は外側膝状体を経由して、後頭葉の視覚野に運ばれます。その情報は頭頂葉に運ばれて認知されます。この場合は火が燃えていると云った認知ですね。その認知情報は前頭葉に運ばれて、火事にならないように火を消すといった行動を選択することになります。火を消すための行動や運動が高次運動野を経由してコカ膜決定されていって、運動野に運ばれて行くことで、例えば消化器のあるところまで移動して消火器を持ち、その消火器を利用して火を消すといった動作になります。

目から入った情報が上記のように情報を伝達する中で、視覚情報が認知情報〜行動情報〜運動情報へと変換されていくわけです。


緊急時などに働く経路は、ちょっと違ったりします。



情動行動とか驚愕反応と言われるものの情報処理は、いちいち認知したり前頭葉で行動決定をすると言った情報処理をしていては行動や反応が遅れてしまいますので、ショートカットするように素速く行動や運動に変換する経路があるわけです。

目から入った情報が外側膝状体に行くところまでは一緒ですが、こういった情報は外側膝状体から扁桃体(辺縁系)に運ばれ視床下部に情報が伝達されることで逃避とか逃走or闘争といった行動を素速く起こすようになっています。動物として生き残るためには当然必要な経路ですね。


ここまで読んで、「あれ?」と思う方がおられるかも知れないですね。

そう、「意識」と云われるものの関与がありませんね。

実は、「意識」というのは良くわかっていないのです。意識と云うものの定義も、脳の情報処理として何処で意識が作られているのかという事も様々な推測はあるものの実際には解っていません。


意識と云うものがなんであるのかというのは置いておいても、脳の情報処理として、感覚情報を運動に変換するシステムはあるわけです。


ですので、リハビリテーションをおこなう上でで押さえておいた方が良いと思うのは、意識とか意志というものが行動や運動を制御しているわけでは無いと言うことなのです。

もちろん起こした行動についてはなにかしらの理由付けをしますので、それを意思とか意識と呼ぶのですが、意志と言われるものや意識と呼ばれるものの多くは、既に脳がなにかしらの行動や運動を選択した後に生成される情報だと考える方が自然だと思います。


行動や運動を選択するメカニズムは、おそらく基底核と皮質のループ上の情報選択によるもので、それを基底核ループと呼びます。

上の例で言えば、火という視覚刺激が認知され、前頭葉に送られた際、腹側線条体による辺縁系ループによって、火を放置すると火事になると言った言語的な記憶や或いは火事を見たときの記憶が行動選択にバイアスをかけて、火を消すと言った行動を選択させることになり、それが運動ループで運動プログラムを選択していって一次運動野に情報が運ばれ、最終的な出力となるような感じです。

ここで行動決定をしているのは記憶が大きな要因を占めているので、記憶そのものが意志とか意識と言ったものと類似した概念だと言えるかも知れませんね。


つまり脳損傷のリハビリテーションにおいて大切なのは、意識とか意志と言われるもので行動や運動を制御することを学習させるより、感覚情報が行動や運動情報に変換されるための感覚ー運動変換プロセスの学習・記憶が大切なのでは無いかと私は考えているのです。


そう言った視点から言うと、目標を強く意識させてそれを達成させると言うより、無意識下で目標が達成できるようなリハビリテーションデザインのほうが脳の機能を活性化させる可能性が在るのでは無いかと思ったりしています。


さて、簡単ではありますけれど、環境情報が行動や運動情報に変換されるプロセスのお話はこのくらいにします。


次の話題です。

人は二足直立姿勢で活動をおこなう動物ですよね。

これは四足歩行などに比べて、不安定な姿勢です。

その代わり、エネルギー効率が良くで長時間の歩行や走行による移動に適していると言われていたり、視点が高くなることで環境情報の収集に有利であったりとかいった様々な特長から環境に適応しやすかったため進化の過程で二足直立姿勢という他の動物に余り見ない姿勢が残ってきたのだろうと思います。

まぁ、他にも二足直立になることで、頭部(脳)の重さを筋出力だけでは無くて骨のアライメントで受けることが出来たから脳がここまで大きく発達することが出来たのだろうという人もおられます。


(図は「文明の曙」という本を紹介したサイトからです。図にリンクを張ってあります)
(図は「文明の曙」という本を紹介したサイトからです。図にリンクを張ってあります)

図を見ると、四足獣の方が強い筋出力が要求されているのが解りますね。


ともかく、人は二足直立であることにメリットがあったので、進化の中で生存してきたのですが、二足直立はバランスを取るのが難しいというデメリットがあります。


例えば上肢の重さは体重の4%から8%と言われています。

8%で計算すると、体重60キロの人の片手の重さは、約4.8キロ。

結構重いですね。普段そんな重さを意識することはありませんけれど。


子供の頃、男の子であれば仮面ライダーのソフビ人形、女の子であればリカちゃん人形などで遊んだことのある人は多いと思います。

手を前に出したりすると転んじゃいますよね。で、バランスを取るのに一生懸命になったりして。(^^)

私たち、小学校の時、整列で「前ならえ」をした記憶がありますよね。

だけど、「前ならえ」で人形のように転ぶ子供はいないですよね。

どういうことが起きているのでしょうか。


立位姿勢です。

通常、耳垂(耳たぶ)から垂線を下ろすと、その線は耳垂ー肩峰(肩関節)-大転子(股関節)ー膝関節前部ー腓骨外果の前方(足関節あたり)を通ります。

左の写真ですね。

右の写真は「前ならえ」の状態です。

この人形では耳垂からの垂線が、股関節のかなり後方、膝関節のかなり後方を通って、足関節の後ろの方に降りています。


人は、「前ならえ」をしようとすると自動的に重心を後方に移動させるメカニズムがあるのです。

これを姿勢制御と言います。

運動出力というのは、運動出力情報と姿勢制御情報が組み合わさっていないと上手くいかないというわけです。


さぁ、運動出力がどの様な情報処理をされて、姿勢制御と協調しているのかと云った事をお話ししていきます。


手を前に出すのに先行して、或いは手の動きと連動しながら重心を後ろに持って行く様な姿勢の働きのことを、先行随伴性姿勢制御(APAs)と言います。

まぁ、これだけでは人の動きの中では運動に伴う重心の変化を充分に支えることが出来ないので、もっと様々な要素があったりします。例えばイスに座っているときから立ち上がろうとする際にはわずかに足を引いたりしますよね。そういった所も含めると運動に伴う構えの変化〜「姿勢セット」という言い方の方がリハビリテーションを進める上では便利だと思います。


しかし、脳生理学的には先行随伴性姿勢制御の方が説明しやすいので、ここでは姿勢制御の先行随伴性姿勢制御と運動制御についてのお話となります。


こう言った姿勢制御と運動制御というのは、脳のシステムとしては生まれ持ってある部分もありますが、その多くは後天的なもので、赤ちゃんの頃から遊びなどで学習していくものです。

脳性小児麻痺のお子さんなどは、遊びの中でこう言った運動制御と姿勢制御の協調性のメカニズムを如何に働かせるのかと云った事が大切になります。


さて、脳の情報処理ではどのような事になっているのでしょう。

先に書きましたように、感覚情報が頭頂葉や側頭葉で処理されて認知情報となって、前頭葉に運ばれていきます。

ここから先のお話になりますね。

まず、選択(決定)した行動はどの様なプロセスで運動情報になるのかを考えます。


前頭連合野との基底核ループが認知で得た環境情報と身体情報、記憶などから行動計画を選択します。

選択された行動計画は高次運動野に運ばれ、そこの基底核ループでどの様な運動をどの様に起こすのかといった情報を選択していきます。

そして、最終的な出力部位である一次運動野に情報をおくり、一次運動野の出力が脊髄を通って身体の筋に繋がっていくことになります。



高次運動野(a)で選択された運動プログラム情報は一次運動野に送られます(c)が、同時に脳幹網様体にも投射(b)されます。

これを皮質網様体路と言います。

構造的に皮質網様体路から網様体脊髄路を下降する経路は、一次運動野の情報より先に脊髄を下降することになりますね。網様体脊髄路は皮質脊髄路より早い情報伝達の経路でもあります。

この経路を合わせて皮質網様体脊髄路(皮質橋網様体脊髄路・皮質延髄網様体脊髄路)と言います。この経路は、主に体幹と近位関節を中心に身体部位のγ運動ニューロンに接続され、筋の感度を中心に姿勢筋緊張を挙げつつ姿勢を制御します。

これを先行随伴性姿勢制御(APAs)と呼ぶのです。


そして、一次運動野の情報が外側皮質脊髄路を下降して、α運動ニューロンに接続されて、それぞれの身体部位の筋肉に接続され、筋活動をおこします。

これを運動制御と言います。


こうして、姿勢制御と運動制御は協調されて出力されるので、手や足を動かしても転ぶようなことはないのです。


上手いこと出来ていますよね。

したがって、脳損傷のリハビリテーションにおいては、運動出力プログラムが出力されると同時、もしくはそれより早く姿勢制御プログラムが働いていることが大切になります。

この部分で上手くいかないとバランスを崩したり、転倒したりしやすくなりますので、精神的な緊張が高くなったりして、運動出力を起こそうとすると手が曲がってきたり足の内反尖足と言われる姿勢の異常が出やすくなったりすることにも成ります。



それらのことを考えると、脳損傷のリハビリテーションにおいては、ちょっとここでは書いてないですが、身体図式をきちんと脳の中で生成する・させること、それから自発的に何かをしたくなるような場面で基底核ループを介して行動選択が起きて、それが運動選択に繋がる回路を刺激し、結果的に高次運動野からの姿勢制御情報と一次運動野の運動プログラム情報が協調すると言うことが大切だと言うことが出来ると思うのです。



ちょっと長くなりましたね。

麻痺した手を動かしたいとか上手く麻痺した足を動かしたい、麻痺した足できちんと身体を支えたい、支えさせたいといった気持ちを患者さんもセラピストも持つわけですが、その背景にあるものをきちんと理解して行為や動作、運動がスムーズに起こるように、或いは、努力を出来るだけせずに動くことが出来る身体を作っていくことが、動作が出来る出来ないと言うことと同じぐらい大切な事だと言えます。


少なくとも私はそう考えているのです。

(^^)/



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