脳の可塑性を支える条件の概略と側坐核
- Nagashima Kazuhiro
- 3 日前
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更新日:3 日前

脳の可塑性を充分に発揮するためには、以下の条件が必要です。
1.エネルギー産生が保たれていること
可塑性は、シナプスの変化、軸索・樹状突起の再編成、神経伝達、タンパク合成、炎症制御などを伴うことになりますので、かなりエネルギーが必要だと言えます。
ですから、土台にはミトコンドリア機能、血流、酸素供給、代謝の安定が必要です。
現在では、脳卒中後リハビリテーションにおいても、ミトコンドリアはエネルギー産生・神経保護・運動回復に関わる重要な標的として扱われています。
2.グリアが神経回路を支えられる状態にあること
以前は可塑性というとニューロン中心でした。
現在は、アストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイトを含めた「神経ーグリアネットワークの再編成」として捉えるのが重要になってきています。
アストロサイトは、シナプス周囲で神経活動を調整し、シナプス効率や記憶痕跡の形成・安定化、そして学習に関わることが明らかになってきています。
可塑性を支えるグリアの働きは、アストロサイトによる代謝支援・神経伝達物質のクリアランス・細胞外イオン環境の安定・ミクログリアによる過剰な炎症の抑制・シナプスの整理や選別・グリンファティックシステムによる老廃物処理などにまとめることができます。
脳の可塑性は、ニューロン単独の能力ではなくて、グリアによって支えられた神経環境に依存しているという事も出来るように思います。
3.適切な運動習慣があること
運動はかなり重要です。特に有酸素運動は以下の物質の産生や効果に関わっていることが知られています。
・脳由来神経栄養因子(BDNF)
神経回路を変化させる、つまり学習のために重要です
・インスリン様成長因子(IGFー1)
筋肉や肝臓などで作られる物質で、損傷やストレスを受けた神経細胞を守る作用を持ち、神経突起の伸長やシナプス形成を助け、BDNFと協調して働きます。
・血管内皮増殖因子(VEGF)
脳の神経活動を高めるには、酸素と糖が必要です。その供給路が血管です。脳はよく使う場所に血流を増やす必要があります。血管の反応性が良いほど、神経活動とエネルギー供給が良くなるわけです。VEGFは血管内皮増殖を促し、新しい血管を作る方向に働きます。
・ミトコンドリア機能の改善
ミトコンドリアは細胞の中でエネルギーを作る重要な小器官です。神経活動やシナプスの変化には大量のエネルギーが必要です。そして、ミトコンドリアはエネルギーを作る一方で、活性酸素も生みます。活性酸素は、多いと細胞を傷つけますが、適量であればシグナルとして働いて、ミトコンドリアの増加に関わっています。
これらのことを考えると、運動習慣が脳の可塑性を支えていると言っても良いと思います。
ただし、運動は可塑性のスイッチではありますが、過負荷は可塑性の土台を壊すことがある事もあります。例えば、前述したエネルギー産生に関連して、エネルギー需要と供給のバランスが崩れた場合や、後述しますが、過負荷により慢性疼痛を引き起こす場合などは、可塑性を発揮できなくなる事も予測できます。
4.感覚入力が意味を持つこと
脳は「筋肉を動かす装置」ではなくて、「環境に適応して生き延びるための予測制御システム」と言えます。その結果出力として運動が出現しているのです。
予測制御システムを運動出力に変換する装置として働くためには、感覚情報・姿勢情報(ボディスキーマ)・運動意図・情動・報酬予測・環境との相互作用・生活上の必要性などが含まれていた方が良いと言えます。
そうした感覚の意味が可塑性に繋がるのです。
5.環境の豊かさ
脳が環境に適応して生き延びるための予測制御システムであるのならば、環境自体が単調なものであれば脳の情報処理も充分機能しないことになります。環境の豊かさが、積極的な探索行動を引き起こし、様々な姿勢や行動を取ることが必要となる、或いはそうすることがより報酬系を刺激することになるような環境が必要です。単調な環境ではなく、ある意味「面白い」環境が脳の可塑性を促すことになります。
6.休息と睡眠がある事
可塑性は、練習中だけではなくて、練習後の休息や睡眠中にも整理され、強化されることが解っています。
臨床的に言えば、疲労困憊までリハビリを進めると、その場では頑張ったように見えますが、翌日以降に動きが崩れることがあります。これは、神経系・代謝系・グリア系の回復が追いついてない可能性が在ります。
逆に、土日などにリハビリテーションを休んだ後の月曜日には動きが洗練されてきていることに気が付くこともあります。
睡眠は、学習に関わるだけではなく、グリンファティックシステムを介して脳の神経細胞外環境の適正化に関わっています。
刺激量の多さより、刺激と回復のリズムの方が大切な場合があるのです。
7.炎症・ストレス・痛みが過剰でないこと
慢性疼痛、睡眠不足、強い不安、過剰な炎症、抑うつ、孤立、低栄養などは、可塑性の質を悪くします。
痛みを避け、恐怖に緊張を強め、失敗体験が繰り返されて行動を起こす気が無くなり、介助依存が習慣化すると云った事もある意味可塑性の結果です。
さて、こうしたことを俯瞰してみると、結局運動習慣がつくことが大切だという事になるのですが、運動習慣をつけるには意志(或いは記憶)だけでは困難です。
私など運動習慣が必要であるという情報を記憶していますので、運動習慣をつけるためにジムに通っているのですが、ちょっと理由を見つけて休んだりしてしまいます。
人間らしいでしょ。(^_^;
そこで大切になるのが、側坐核を中心とした辺縁系と基底核の働きです。
基底核は大脳皮質とのループ構造を持っています。これを基底核ループと呼びます。側坐核は、その中でも辺縁系、前頭前野、報酬系、運動系をつなぐ重要な中継点のひとつです。
側坐核を含むこのループでは、情動、報酬予測、身体状況、環境情報などが統合され、「その行動を起こす価値があるかどうか」という情報処理が行われます。そして、その情報処理が、非意識下での行動開始につながっていくと考えられます。
すると、脳の可塑性のためのリハビリテーションを考える上では、単に運動を反復させるだけでは不充分だということになります。
大切なのは、側坐核を含む基底核ループが「動く価値がある」と選択しやすい身体状況と環境を整えることです。ここでは、より強い報酬や意味を予測できる情報が選ばれ、行動開始へとつながっていくと考えられます。
簡単に言えば、脳卒中リハビリテーションにおいて、適切な身体状況〜動きたくなる、そして動き続けることが可能な身体〜を作りその姿勢ー運動感覚情報を脳に届けること、豊かな環境の中で脳が何かをしたくなるような状況を準備すること、適切な休息や睡眠などを提供する、或いは積極的に奨めることなどが大切であるという事になりますね。
そして、動きたくなる、動き続けることが可能な身体というのは、姿勢制御システムと運動制御システムが協調して成立する多様な姿勢ー運動パターンをもつ身体性が大切になリますね。
(*^_^*)




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