空間認知と姿勢運動制御
- Nagashima Kazuhiro
- 3月15日
- 読了時間: 5分
2020年に、「ベッドに斜めに寝ている人の空間認知」という記事を書いたのですが、この記事、いつの間にか閲覧数が2000を越えていました。
いや、よく読まれているようですね。
(*^_^*)
この記事、元々病院に勤めていた際にPTや医師から「ベッドに斜めになっているのはこの患者さんの空間認知に問題があるからだから、OTさんなんとかして」とよく言われていたのですが、空間認知に問題があることは異論が無いのですが、空間認知の問題にアプローチしようとすれば姿勢/運動機能も改善させなくてはいけないという説明が当時の私にはうまく出来なかったので、まとめて書いてみたものなのです。
何が伝えたかったというと、「空間認知と姿勢/運動は、別々のものではなくて脳の情報処理を異なる視点から表現したものですよ。ですから、ベッドに斜めに寝てしまっている原因が空間認知の問題であるとする考え方は間違いなのです。」という事なのですね。
空間認知が姿勢/運動に影響していると言った因果関係で捉えるのでは無くて、空間認知と姿勢/運動は相関関係が在るという捉え方ならば良いのですけれどね。
同じようなことに見えるかも知れませんが、空間認知と姿勢/運動が因果関係であるならば、まず空間認知を治療するための手段が必要だという事になります。
しかし、相関関係であるのであれば、空間認知を適正な状態にするために姿勢/運動に働きかけるという事も考える事が出来ます。
脳損傷のリハビリテーションに於いて、この方法論の違いは結構大きいと思うのです。
あ、今思いついた。
思い出してみれば、書道や華道などで姿勢を大切にされるのは半紙の上でどの様に文字を配置させるかとか、剣山上にどの様な配置でどういった色彩や高さの花を配置させるとかを近く、認知するためには頭部が垂直である必要があるのだろうと思うのですね。左右の眼球が地面と水平にあることが大切だろうと。
姿勢がいい人の方が空間認知が良いというデータがとれたら、こういう見方が科学的だと言われるのかも。
ま、それはさておき。
統計処理に頼らなくても、脳の情報処理を考えてみれば上記のようなことが解ると思うのです。
視覚情報は後頭葉の視覚野で処理されますが、視覚情報は何か物体の位置や性質などの外環境情報を知覚/認知させて前頭葉に送るためだけ情報では無いのです。
視覚情報の一部は、外環境情報になると同時に、上頭頂小葉、頭頂間溝野、下頭頂小葉で前庭感覚を含む体性感覚と統合され、これらの領域で身体図式を形成することになり、身体図式の情報も前頭葉に送られることになります。
運動プログラムを作るには、環境情報〜外環境がどの様な状態であるのかと云うことと、身体図式情報〜外的環境に於いて自分自身の身体がどの様な位置関係にあるのかと云うことと、身体それぞれのパーツ同士の位置関係がどの様になっているのかという情報が必用なのです。
体性感覚は、運動出力情報によって変化するので、前頭葉で作られた運動出力情報のエファレンスコピーを頭頂側頭連合野が受け取って、運動出力情報によって体性感覚がどの様になるのかという予測をするのですが、この変化の予測は実際の運動によっておきた各種感覚受容器の情報が入力されることで常に検証され、修正されます。その結果、身体図式は常にアップデートされることになる訳です。
アップデートされた身体図式情報は姿勢運動制御に関わり、運動プログラム情報のエファレンスコピーが体性感覚情報に送られることで、体性感覚野の情報処理に関わり、その情報が視覚情報とともに統合されていくわけですから視覚認知に関わることになります。
以下は高草木先生の図です。

Aの図には、視覚情報/体性感覚情報/前庭覚情報などが統合されて側頭頭頂連合野でBody Schma〜身体図式情報となることが説明してあります。
Bの図には、それらの身体図式情報が補足運動野に送られていることから、運動出力プログラムに身体図式情報が必要であることが示されています。
ここだけみると、身体図式(身体認知)が運動を作っているように見えますよね。
次にこの図を見てください。

補足運動野や運動前野で作られた運動出力プログラムは、一次運動野に送られると同時に体性感覚野/側頭頭頂連合野に送られているのが示されています。
補足運動野や運動前野で作られた情報のコピーを感覚野や側頭頭頂連合野に送ることで、運動で生成される感覚フィードバック情報と照合される事になり、それらの情報がさらに身体図式情報の形成に関わっていくわけです。
そういえば、昨年、米子脳神経クリニックで行われた大槻先生の研修会では、一次運動野が脳溝を介して感覚野に情報を送っているというお話をお聞きしました。その経路も、運動野の情報が感覚情報になにかしらの影響を与えていると思われますし、それは身体図式情報となり、姿勢運動制御に関わるとともに認知にも関わっているものと推測できますよね。
ですので、最初に述べたように、
「空間認知と姿勢/運動は、別々のものではなくて脳の情報処理を異なる視点から表現したものですよ。ですから、ベッドに斜めに寝てしまっている原因が空間認知の問題であるとする考え方は間違いなのです。」
と考えられるのです。
ベッドに触れたりしてベッド周辺の環境情報を集める運動機能や、適正に視覚情報を集めるようなことを可能にする姿勢制御に問題があればベッドに真っ直ぐ寝ることは難しいですよね。
しつこいようですが、本来、姿勢運動機能と認知機能は別々に語られるべき事では無いのだと思うのです。
そういった事が伝わればと思って書いた記事だったのです。
「ベッドに斜めに寝ている人の空間認知」と云う記事は2000以上の閲覧をされていますが、読まれた人達に何か伝わっていれば良いなぁ等と、生意気にも考えていたりするのです。
(*^_^*)
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