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執筆者の写真Nagashima Kazuhiro

科学とはどの様なものなのか?

更新日:6月6日



私たち、医療に携わる人間は、医学という科学に基づいた判断を要求されることが多いのだと思います。

ですから、「科学」と云うものがどの様なものかという事を理解しようとすることがまず大切なのだと思うのです。


そうは思いませんか?


一般には、科学とは真実を示すものと捉えられる事が少なくは有りません。

しかし、科学とは、真実を追究するものであって、真実そのものではないのですよ。


例えば、15世紀は天動説が科学的とされていましたよね。今は、天動説などを主張したら炎上することでしょう。(^_^;)

まぁ、私は地動説を信じていますが、だからといって、地球が回転していることを実感したことはないのですけれどね。


さて、医学の分野でも同じようなことが繰り返されています。

リハビリテーション医学の分野でも同様です。


同業者の中には、超早期リハビリテーションという言葉をご存じの方も多いと思います。

脳卒中発症後24時間以内にリハビリテーションをはじめましょうという流れですね。

2010年ぐらいのことだったでしょうか?


大元には、廃用症候群の予防という概念があってのことだったと記憶しています。

違うかも知れないけれど。

廃用症候群の予防という観点から云えば、脳卒中の筋萎縮などに関しては、脳損傷後、脳の修復にかかるエネルギーが必要にもかかわらず栄養は必ずしも充分とれるわけではない、発症直後は睡眠の質の低下や過覚醒などの問題を併発しやすく、情報処理自体も通常よりエネルギーを要してしまっていることが推測できると思うのですね。すると、エネルギーは需要と供給のバランスが崩れていることが予測されると思います。足りないエネルギーを供給するために筋肉を破壊してエネルギー源とすると云った要素も否定できないかと思います。


ただ、こういったことを科学的に分析しようとすれば、脳損傷が起きた場合において、脳のエネルギー消費がどの程度高くなるのか(或いは低くなっている可能性も有りますけれど)と云ったことが解らないといけないのですが、私の知るかぎりそういった研究は目にしたことがないので、今まで私が得てきた知識を組み合わせてみると、単純に寝ているから筋肉が萎縮すると云った単純な構図ではないのでは無いかと推測することが出来たのですね。

つまり、寝ていることと廃用性筋萎縮が起きることは相関関係にあったとしても、因果関係があると言えるほどのものでは無いのではないかと。そう思ったわけです。


そして、実際に超急性期に関わってみると、臥位では動いていた指が座位になってしばらくすると動きづらくなるとか、結構よく見るのです。座ってしばらく麻痺側の指や肩や肘が動いていたのに、徐々に動きが弱々しくなる感じの変化です。

血圧などに変化が無くても、脳循環がなにかしら問題を抱えているような、そんな印象の動きだったりします。

姿勢制御上は、多くは低緊張で崩れが目立つ印象ですが、重力に対して対応できないという感覚情報が中枢神経系の可塑性を促しているとは考えにくい気もしていました。

また、画像所見上も、数日の経過を追うことも多かったのですが、ペナンブラ領域は拡大することが多かったですし、BAD(穿通枝梗塞)であれば梗塞巣そのものが拡大します。t-PAを行った患者さんは出血性梗塞に変化する場合が多かったですし。

もちろん、通常ケア群と比較したわけではありませんので、超急性期にリハビリテーション介入を行ったからそうなったと云うことは出来ません。その時代に超急性期のリハビリテーション介入を止めて見るべきだと云ったら袋だたきにあったことでしょう。(^_^;)

それに、私たちが介入しなくても・・・あ、これ以上は止めとこっと。(^_^;)


ですので、出来るだけ愛護的に床上動作〜寝返りなどを中心にして、時間の最後にちょっと起こしてすぐ横になるような事をしてお茶を濁し続けること数年。

2015年にAVERTのフェイズ3の研究が発表されました。

関連記事を以下に載せますね。


まぁ、この研究にも検証は必用なのかも知れません。


私としては予測していたことなのです。

一言に脳損傷と云っても様々な病態がありますし、損傷部位や損傷の大きさ、年齢やその他のパラメータを一切無視した形で誰でも彼でも超早期にリハビリテーションをはじめれば予後が良くなるなんて事、そんな魔法のようなことはあり得ないお話なのです。


しかしそれが行われていた時期があるわけです。


分かりやすい例だと思うので、以前(・・・と云ってもつい10年ぐらい前のお話なのですが)の超急性期リハビリテーションの流れを書きました。


最近では、脳卒中後のリハビリテーションの効果を考える上で、代償的な動作による行為の獲得といったアプローチが返って患者の回復を阻害しているのではないかと言うプレスリリースもでています。ブログで紹介したので、興味がおありでしたら下のリンクをクリックしてみてください。


もちろんこの研究も今後の検証が必用であるのは云うまでもありませんが、私の臨床経験では、特に、自費リハビリを始めてからは初期に学んでしまった歩行のパターン、感覚情報の利用の仕方はやはり強固で、それを変えるには時間がかかると感じていたりするので、この研究は正しい方向に有るのでは無いかと感じています。


何が言いたいのかと言えば、24時間以内にリハビリテーションを行うと予後が良いと云ったお話は、天動説のようなものだったと云うことなのです。


つまり、その時代にある科学的な知見というのは、時間の経過で変化しうるものなのです。

実験段階でパラメータのとり方に問題があったり、研究結果を出すために切り捨てたデータが実は必用なものであったり。実験に使われる道具の発達も研究の手法や結果に大きく影響を与えます。


科学というのは真実を探すものであって真実を示すものではないのでは無いかと、そう思うのです。

そして、多分、特に医学は不確実性をより多く持つ科学的分野であると言えるのだろうと思うのです。


最初に書きましたとおり、私たちリハビリテーションに関わる人達は、医学を学ぶ前に「科学とはどの様なものか?」ということを学ぶべきなのでは無いかと思うのです。


今私が読んでいる本の一節を紹介します。 「「科学的に証明されている」という言い方をする人は多いが、実はこれは非常に害の大きい言い方である。まず言葉として矛盾している。科学にとって大切なのは、常に懐疑に対して扉を開けておくことだからだ。」

(『天才科学者はこう考える――読むだけで頭がよくなる151の視点』(ジョン・ブロックマン, 夏目 大, 花塚 恵 著)より)


ところで、現役の脳科学者の話をリアルタイムで聞くことのできるチャンスがあります。

お茶の水女子大の毛内拡先生がいんすぴゼミという企画を行われているのです。

病院などで仕事をされておられるかたは時間的に難しさがあるのかも知れないですが、脳科学者がどの様な思考をされておられるのかと云うことを知ることで、科学とはなにかとか、脳科学に対する思考を深めていくのにはとても良いと思うのです。(*^_^*)

録画配信もありますので、同業の方は是非見てみてください。

(^^)/







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