盲視に見る意識の座
- Nagashima Kazuhiro
- 10月5日
- 読了時間: 4分
先日のいんすぴ!ゼミで、知覚という言葉は意識化された感覚なのかどうかという話題がありました。
翌日、ふと盲視のことを思い出したのです。
見えていないのにも関わらず、うまく物を避けたり、物を勘で言い当てたりする症状です。
脳科学事典というサイトによれば
「盲視とは、一次視覚野が損傷した患者において、現象的な視覚意識がないにもかかわらず見られる、視覚誘導性の自発的な反応のことを指す。
V1は大脳皮質での視覚情報が最初に入ってくる領域であり、左右の半球でそれぞれ右左半分ずつの視野の情報を処理している。たとえば左側のV1全体が損傷すると、左右の眼ともに右半分の視野が見えなくなる。このような症状は同名半盲と呼ばれる。盲視はそのような患者の一部でのみ見られる。」
と説明されています。

面白いですね。
V1の損傷で、視覚情報の入り口に相当していて、線分などの傾き情報を抽出するところです。
V1が壊れると、視覚情報の入り口が壊れるので、視覚情報処理ができなくなることになりますよね。
ところが、それでもなんとか環境下にある物品を避けることができたりするわけです。
視覚情報による応答はできたりするのですね。
視覚情報に応答しているということは、何かしらの回路で網膜状の情報が視覚野に届いているはずですよね。
実はV1を経由せずに高次視覚野に情報を伝達する回路があるのです。
多くの視覚情報は、網膜〜外側膝状体〜一次視覚野の回路で、視覚情報を作り上げていくのですが、高次視覚野の情報処理を補完するために、上丘(SC)〜視床枕〜高次視覚野の経路も持っているのです。この経路は進化的に古い経路で、意識より先に行動を決定する系と言われています。ということは、非意識下での視覚情報処理はここで行われているのだろうと推測できます。

V1が損傷されていても、視覚情報が処理される回路が存在することはわかりました。
ここでさらに興味深いのは、高次視覚野で情報処理されたものは意識化されないということなのです。
つまり、視覚情報が意識化されるためには、V1の働きが不可欠である事になります。
では、V1の回路網が視覚情報の意識化と関わっているという事ですよね。
V1の情報は、高次視覚野に送られるだけではなく、腹側経路を通って、下側頭皮質(IT)に情報を送っています。

ITは、形状・物体カテゴリー・顔・意味的特徴を抽出すると言われています。
そして、ITは言語系ネットワークの有効結合を扱った研究でも、IT野(TE 領域を含む)と言語系領域(例えば中側頭回・上側頭回・前頭前野)との接続が記述されています。https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053811922004712?utm_source=chatgpt.com
私は、恐らくここが視覚情報の意識化に関わっているのではないかと思うのです。
因みにITが損傷すると、相貌失認や物体失認などが起こることが知られています。この症状は見えているのに、その物体(人物)の意味を意識化できない状態といえますね。さて、ITやそれにまつわる言語領域が視覚情報による意識の生成に重要な働きを持っていそうだと言えそうですね。
私の推測では、外的環境の意味を意識化するには、これらの領域が大きく関わっているのではないかと考えています。
マイケル・ガザニガは、意識について、「左半球の言語領域は、右半球や他の脳領域で起こった無意識的な処理結果を“後付けで説明する”装置である。」と言っています。つまり、脳全体の活動のうち、左半球が言語的に解釈した部分だけが「意識内容」として体験されるわけです。
恐らくこれは間違い無いのではないかと思うのです。
さて、意識化されない非意識下の感覚情報処理をどう呼ぶのかという話題に戻りますね。
盲視を考えると、非意識下であっても視覚情報を処理されているのは間違いありません。
非意識下の感覚情報処理を「知覚」として、意識化されたものを「認知」つまり”知覚”を”認める”という意味で取り扱うのが臨床上解りやすいのではないかと思うのです。
ただ、「解りやすい」ということと、「正しい」ということは別物だということには注意をしておく必要があると思います。
(^^;;



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