脳は、現実を認識していると一般には捉えられていますね。
しかし、脳科学をみていくと、そうでは無い、若しくはそうとも言えない事が解ります。
脳が外環境を認識するために必用な情報は、感覚受容のための装置を通して脳に伝えられます。視覚であれば目、音であれば耳、匂いであれば鼻、重力であれば前庭器官、温度や触れる感覚であれば皮膚、身体の状態であれば固有受容感覚器と云った具合です。
外環境からの情報は、それぞれの感覚受容器によって、細かく分けられて、脳に届けられることになります。
イメージですが、こんな感じです。

例えば身体の情報と視覚情報にスポットを当ててみます。
身体の感覚は感覚野という所に入ります。この情報は、上頭頂小葉に運ばれ、統合されていきます。視覚野からの情報は、一次視覚野(線の傾きなどを検知)から高次視覚野に向かっていって、上頭頂小葉、頭頂間溝野、下頭頂小葉などに情報を送ることになります。下頭頂小葉には前庭感覚も入っているのですが、これらの情報を組み合わせて、細分化された情報から、まとまりのある自己身体像と共に外環境を脳の中に形づくっていくのです。
自己身体像(ボディスキーマ)という言葉が唐突に出ましたが、これは、自己身体が外環境の何処にどの様に存在するのかと云った情報が無いと、外環境情報をどの様にどこから受け止めているか判断が出来なくなるので、外的環境認知には自己身体像が重要な働きをしているとも言えるため、書いておいたのです。
ここまでをみると、細分化され再構築されたとはいえ、外環境そのものをみている気がしますね。それでも、脳の中で再生されたものではあるのですけれど。
所が、これらの頭頂葉や後頭葉は前頭葉と相互に情報のやり取りをしていたりします。
上縦束ですね。

これらの、前頭葉と頭頂葉、後頭葉などのつながりによって、例えば様々な経験(記憶)や情動など情報が頭頂葉や後頭葉などの情報処理に影響を与えることになります。
そうするとですね、頭頂葉や後頭葉、ここには書いてないですが側頭葉などの情報処理は個人的な経験や知識、情動などが、入ってくる感覚情報やその情報処理に影響していると云うことになるのです。
ですから、2人の人が、同じ地点から同じ環境をみても、それぞれの脳の中に再構築される外環境はまったく同じものでは無い、言い換えると、異なるものだと云うことになります。
ほら、同じ所をみていても、鳥が飛んでいると云うことに気が付いている人もいればそれに気が付いていない人もいるわけです。
現在、いんすぴゼミで本を読んでいるのですが、同じ文章を読んでも、その文章を同じように捉えてといることはほとんど無いので、他の人と読んだ本についてディスカッションすると楽しいですよね。
脳は、外環境をシミュレートしていて、それを認識しているため、外環境というものは厳密に言えば人の数だけ存在していることになります。
もちろん、物理的な状況というのはひとつなんですけれどね。
普通の生活であれば、こんなことまで知っておく必要は無いかも知れません。知っておいた方がコミュニケーションは取りやすくなるとは思いますけれど。
私たち、医療に関わるスタッフは、その医療に関わる科学に触れる時も、患者さんの状況を分析する時も、その情報処理を推測し、仮説検証を行う時も。
研修会で指導を受ける時も、指導をする時も。
見ている世界は個々に異なるのだと云うことを確り頭に置いておく必要があると思うのです。
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