とある病院のリハビリスタッフからご紹介いただいた、医療従事者の方の訪問に行ってきました。
転倒で橈骨尺骨の遠位端骨折を受傷された方です。
手術後、病院の外来でフォロー中なのですが、週末のお休みで固くなるとのこと。
様子を見ると、やはり固くなっておられました。病院でのリハビリテーションの後は、背屈20度ぐらいまでいくけど、やはり固くなって動かなくなるとの話を伺いました。
同時に、回内外も制限が強くて、また、手関節掌屈位にしないと4−5指の伸展が出ません。
浮腫は前腕遠位に強い様ですが、前腕全体にもやはり浮腫がある様でした。
アプローチ後には可動性が改善するけど、日にち(時間)の経過で元に戻りやすいのがなぜかと言うことになります。
原因がどこにあるのかと考えると、やはり局所循環障害が怪しいのではないかと考えてしまうのです。
関節の可動性を制限している要素とは靭帯にしても関節包にしても筋肉にしても、結局は関節周囲の膠原繊維とその密度の違う組織群(筋膜/筋外膜・周膜・内膜/腱/靭帯/関節包など)とそれらが覆っている細胞群(皮膚/筋繊維/感覚受容器/血管/神経など)の状態が関節の可動性に影響を与えていると考えていいと思います。
それぞれが粘弾性を持って、滑り、変形し、移動しないと関節は動かないでしょう。
そして、それらの粘弾性を保証しているのは血液から運搬される栄養であったり酸素であったり。あるいは損傷を受けて不要になった成分は運び出されて排出されないと、新しい養分や酸素を含む液体成分は局所に行き渡らないことになります。そして、局所循環障害が起こっていると、さまざまな組織が常にエネルギー危機に陥っていて粘弾性を失うことになります。
ですので、一旦ROM訓練などをして可動性が増したとしても、再び可動性障害が引き起こされるということになります。
この悪循環を壊すには、局所循環障害を改善させるしか方法が無いのではないかと推測できます。
そうしたら、局所循環障害を引き起こす原因として何が考えられるのかと言う考察が必要ですね。
見事に折れていますね。手術ではこの骨にプレートを入れて固定するわけです。
こんなふうです。
この手術を行うためには、屈筋腱などの腱組織を左右に広げて、プレートを骨に当てて固定するわけです。それだけでも、筋や腱組織はダメージがありそうです。さらにこの時、そのほかの結合組織はどうなるのでしょうか。
表皮から骨組織まで原繊維ネットワークは繋がっています。
ですので手術の際に骨膜から腱組織などにつながる原繊維構造は当然切断されてつながりがなくなるわけです。
この網目状の立体的な原繊維ネットワークにできている隙間、微小空間には感覚受容器などと共に微小血管や微小リンパ管があって、さらにネットワークに血管も組み込まれています。
これらの接続があることで、血管が定位され、動きに応じて静脈も運動を起こすことになります。
言ってみれば、この原繊維構造が循環を支えていているということになりますね。
そしてこの原繊維の中を間質液などが満たしているわけです。この間質液が細胞とのエネルギーや酸素交換に使われています。
間質液にはゲル状の状態とゾル状の状態があります。
ゲル状の状態に物理刺激を加えると容易にゾル状となるのです。
浮腫などで、指で圧迫した際に跡が残ったりする状態は、間質液の成分でゲル状成分が多くなっているか、ゲル状の状況で固くなっているかのいずれかではないかと思います。その状態では細胞のエネルギー交換や酸素交換がしにくそうですよね。
つまり、手術などによって、原繊維ネットワークが損傷し、血管やリンパ管などの動きが失われて局所循環障害が引き起こされます。動脈は血管自体に筋肉が発達していますし、心臓から送り出される圧もあるので血液を末梢に送りつけますが、静脈は上記理由で動きを失い、流れが悪くなります。
outよりinが多くなりますので、行き場を失った血液は血管外に滲み出て間質液となりますが、間質液にも動き(流れ)が乏しくなっているので、浮腫が起きてきます。
そして、滞って動きが乏しくなった間質液がゲル状で固くなっていくと浮腫が硬くなっていくことになり局所循環障害が完成するのではないかと推測できます。
この状態でアプローチを行う手順を考えると、ROM訓練などの手技も必要かもしれませんが、同時に局所循環の改善に向けたアプローチがとっても重要になると判断しました。
で、今日は、病院で言う3単位以上マッサージをし続けたのです。(^^;
最初は、腋下に通っている静脈の流れを良くする為に腋窩周囲の軟部組織を緩めていったのですが、腋窩の筋とともに僧帽筋周囲なども痛みや手の可動障害による代償的過活動/子育てなどの活動などによってかなり硬くなっていて、そこから変えないと腋窩だけの問題解決で済みそうにはありませんでした。(子供達が妙なおじさんが部屋に入ってくると言う環境に慣れてきたら、この方にうつ伏せになっていただいて背中もチェックしていく予定です)
とりあえずできることをして、肘周囲までの軟部組織を緩めると、わずかに手関節に背屈の動きが出やすくなっているのを確認できました。
その後、前腕では、術創部を中心に粘弾性を作ります。特に創部は触れると奥の方まで硬くて、触れてみると平べったい板が骨から創部まで立っているような感じを受けるぐらいです。これでは創部周囲の間質液は流れていないでしょうし、血管運動やリンパ管の流れを阻害しているのは確実であろうと考えました。で、術創部を中心に軟部組織の粘弾性を作っていくと、少し動きが出てきて硬い浮腫の感じが柔らかくなってきている様です。おそらくゲル状のものがゾル状に変化してきているのだろうと思います。この時に改めて手の状態を見ると、やはり浮腫が減ってきている様子でした。
すると、手関節の動きは拡大してきています。
それを維持する為には前腕の回内/回外といった動きを引き出すことが効果的に血管運動を引き起こすのではないかと考え、骨間膜、方形回内筋などの深層にアプローチをして動きを引き出していきます。
ここまですると、手関節がかなり軽くなっていて、本人も驚いておられました。
これである程度局所循環が良くなっていると思うので、病院でのアプローチも持ちやすくなるのではないかと期待しています。
あと本日気づいたのは、CM関節も動きを失っていると言うことと、前腕からくる深指屈筋/浅指屈筋などは前腕部からはかなり粘弾性を作るのに成功したのですが、どやら術創部から、特に手根管のところで滑りを失っていて手指までうまく動きを伝えきれていない印象でした。手根管のところもしっかり粘弾性を作っていく必要がありそうです。
次お声がかかった時に状態を確認してからそういったところも様子を見させていただく様に考えているところです。
写真は、前腕遠位部にシワができて大喜びされていた時の写真。( ´ ▽ ` )
2022/07/20追記
訪問の依頼があって行ってまいりました。(^ ^)
浮腫は良好な状態になってきています。術創部の色彩も少し落ち着いておられる様で、何かしら局所循環が改善してきているものと考えられます。
しかし、朝起きると硬くなっているとの訴えがありました。
その訴えの表現からすると、日中はいい様なのです。そこで、夜間のことをお聞きすると、シーネで固定しているとのこと。夜間の動きを制限しているのが、夜間に局所循環を悪くしている可能性があるかと思い、固定を外して見ることを提案してみました。
軟部組織は手関節近位部の左右外側が非常に硬いので、この時はそこを中心にアプローチをさせていただきました。
2022/07/25
やはり硬くなりやすいとのことで再びの訪問です。
前回アプローチしたところの、表層は柔らかさがありますが、深層は少し硬かった様です。
背中の方から筋を緩めて腋窩まで。近位部の循環を解放する様に準備してから始めます。
その後前腕の近位部軟部組織を緩めてから手関節周囲へ。
それでも少しずつ良くなっておられるようで、背屈は30~35°程度まで多動的にいく様です。
掃除機の操作など、日常生活で使えることを確認して少しずつ使う頻度を増やす様にお話ししました。
使うことで不使用の学習があったと思われる左脳の活動性が上がれば寝ている時にも自動的に動く頻度が増えることが期待できます。そしたら、寝たら硬くなると言う循環は断ち切れそうですよね。
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