脳損傷の大きな問題のひとつに、バランスの機能障害があることは、異論のある人はいないのではないでしょうか。
整形外科などで、仮に片足が骨折したとか切断したとか言う事があっても、痛みがなければその人は、座っていることや立ち上がること、片足を用いて移動することは出来るでしょう。
しかし、脳損傷、片麻痺では手や足が存在しているにもかかわらず、座ることが出来ないとか、立位がとれない・不安定とか、移動が難しいとかそういった事が起きることは、セラピストの皆さんはご経験されていますよね。
バランスというのは、大きく分けてふたつの要素がある様に思います。
ひとつは、重心が支持基底面から逸脱する感覚のフィードバックが起きた際に引き起こされる反応〜保護伸展とかステップ反応等ですね。
もうひとつが、脳の中で学習されている動作に先行するバランス反応、APAsと云われているものです。
この手の話題は、耳にたこができておられる方も・・・(^_^;)
さて、そのバランスですが、姿勢制御と呼んだりもするわけです。
姿勢制御というのは、あらゆる動作で、バランスを維持しつつ、さらに次に繋がる動作を行いやすくするための出力制御という事になります。
まぁ、運動出力の一側面なのではあります。運動出力の中で、姿勢の安定させたり、安定させていくことで動作をスムーズにすることに関わる要素を姿勢制御と呼ぶのですね。
言い方を変えると、「構え」という事になると思うのです。
ちょっとブルース・リーをイメージしてみました。(^_^;)
まぁ、格闘技に関わる構えも同じですね。
防御に為ても攻撃に為ても、そういった動作がスムーズで素早く、タイミング良く行うためには姿勢制御が必用なわけです。
それが「構え」ですよね。
例えば椅子から立ち上がる時のことを考えてみます。
まぁ、この状態から直接立つのは難しいですよね。
ぱっと見た印象で考えても良いのだろうと思うのですが、こういった座り方を為ている人をみたら、立とうとしているとは思わないと思います。
膝が90度より伸展していて、足部に体重がかかることを難しくしています。足部も底屈位で、体重が前方に行きにくく見えますよね。
この状態で骨盤を前傾させて重心を前に運んでいってもスムーズには立ち上がりにくそうです。
立ち上がりの構えではないのですね。
こんな構えだと、イメージが変わりますよね。
何だか、すぐにでも立ち上がろうとしている様な感じが伝わってくる気がします。
膝は90度よりも曲がっていますし、足部も背屈医になっていて、何時でも重心を前上方に移動できる構えです。
この状態で骨盤を前傾させて重心を前に持って行ったら、すぐに下肢に体重が乗ってお尻が浮いてくることでしょう。
この構え(姿勢)の変化そのものも姿勢制御にはなるかと思うのです。
が、この動きの中には、見える動きと見えない動きがあります。
見える動きは、膝を曲げたとか、足関節が背屈したとかですね。その背景にあるのが、見えない動きと云うことになります。
膝を少し屈曲させるためには、足部を後ろに引く必要があるのですが、その為には足部の荷重を少し抜かなければならないわけですよね。
足部の荷重を抜くと云うことは、大腿部の重さを少しだけ軽くするために股関節を屈曲させる筋群がちょっと働かなければならないわけです。
所がなんの予備的な構え(姿勢制御)も無く、股関節の屈曲を起こそうとすれば、同時に骨盤前傾して体幹が前に崩れることになります。
それをあらかじめ抑えておくために、大腿を持ち上げる筋群が働くのに先行して体幹筋が働いて骨盤を安定させておく必要があります。
これが先行随伴性姿勢制御(APA)ですね。
これらの情報処理の流れを考えてみましょう。
初めは立つわけですが、立つという動作の出力に至る情報処理もあるわけです。
例えば、目の前を話したい人が通り過ぎていったとか、部屋の椅子に座っている時に部屋の外で物音がしたとか。排泄がしたいとか云った情報が脳に伝わるわけです。
それぞれ、視覚野〜聴覚野〜あれ?尿意は・・・内臓感覚として云えば島葉あたりでしょうか。そういった領域の情報が届けられ、今は椅子に座っているのだという情報が側頭頭頂連合野に身体図式として存在していて、それらの情報が統合されつつ前頭葉に集約されると、一連の動作のプログラムが生成されます。
立ち上がって歩いて移動して人に話しかけるとか、立ち上がって扉を開けて外に出て音のしたところを探索するとか、立ち上がってトイレに移動して排泄するとかですね。
これらの情報処理は無意識下の処理です。まだ意識を生成するところまで情報の流れは起きていません。受動意識仮説ですね。もちろん動作を止めてなぜ立ち上がったのかと尋ねればなにかしらの答えをもらうことが出来ると思いますが、その時にはそれらの情報が、おそらくは左脳の言語領域付近に伝達されて意識が生成されているのです。たぶん。
取りあえず、話を元に戻しますと、それぞれの一連の動作が企画されると、この場合は真っ先に取りあえず立ち上がって移動しやすい姿勢(構え)〜立位になることが基底核ループの中で決定されるはずです。
その際に、出力されるプログラムの一部に膝を曲げて足を後方にに滑らせつつ足関節は背屈して前足部に体重をかけやすくしていくような動きが含まれるわけですが、その運動プログラムが高次運動野と基底核ループでやり取りをしている間に高次運動野(運動前野)から橋網様体脊髄路に情報が下降していって橋網様体脊髄路を興奮させて、良い感じでγ系を調整していきます。このことで、腹圧が少し上昇して上部体幹を抗重力的に持ち上げると同時に重心が移動する際の筋の長さの変化を素速く検知して重心を調整していくような働きが可能になるわけです。
APAですね。
その後基底核ループで決定された運動プログラムが運動野に運ばれてそれぞれのパーツが動き出していくというような運動出力につながっていくわけです。
無意識下のものであったとしても、随意運動と呼ばれる動きですね。
あ、もちろん、この時に尋ねると「コウコウこういった目的で立ったのだ。」と説明を受けることが出来るでしょうけれど、これは皮質と基底核ループの間で優先順位を決められた情報が,おそらく左脳の言語領域付近に送られることで意識化されるはずですので、順番は運動情報の優先順位を決定した後ですね。
まぁ、こういった形で、随意運動と云われる物と、姿勢制御(構え)が密接に関わりつつ同時に情報処理されて活動として現れてくることになるのだと思います。
こういったメカニズムの元で生まれてくる活動というのは非常に合理的なのです。
大雑把に云えば、脳がこういった活動を制御しているわけですが、その脳の健康というのは、神経細胞外成分によって調整されていて、それらの神経外細胞成分はグリンファティックシステムや鼻咽頭リンパシステムによって老廃物などを深部にある頸部リンパ節へと流していき、排出の流れに乗せていくわけですが、頸部のリンパ節は当然頚部の軟部組織の中に存在していることになります。従って頚部の軟部組織の状態はリンパの流れに重要だと言えると思うのですが、その頚部の軟部組織の状態は姿勢制御(構え)によって左右される訳なのです。
さて、姿勢制御でも構えでもどっちでも良いじゃないかという声がそろそろ聞こえてきそうですね。
まぁ、どっちでも良いと云えばそうなのですが。
姿勢制御というと現在ではAPAのお話が多いかと思うのですが、動きやすさはAPAだけではないのでは無いかと思うんですね。
立ち上がりで云えば、足を引く様な予備的な動きも動きやすさには重要なのです。
構え〜さらに言い換えれば「姿勢セット」と云った方が、実際の活動の中では適切なのでは無いかと思ったりするのですね。
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