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側座核に見るやる気

執筆者の写真: Nagashima KazuhiroNagashima Kazuhiro

更新日:2023年11月25日

先日、SNSで、「やる気は本当に必用か?」といったお話を展開されておられるセラピストがおられました。

面白く読まさせていただいたのではあります。


やる気が有るとか無いとか、結構言ったりしますよね。

若い頃は、この患者さんは「やる気が無いからリハビリテーションが進まない」等という表現を使ってしまった覚えが有ります。

「やる気」っていったい何なんでしょうね。

「やる気」というのは、意識に他なりません。

ここで言う意識は、覚醒とかでは無くて、「良い匂い(がしている)だから近寄ってみる」とか、「綺麗な景色を見に行きたい」とか、「おなかがすいているからマクドを食べた」とか、「彼女を女性として意識した」などの「意識」のお話です。混乱を避けるため、ここでは、「延長意識」と表現しておきます。


脳の構造とか、部位の情報処理の特徴、働きなどを知ると”延長意識”とはなんだろうという疑問がわいてきます。


後頭葉や頭頂葉は主に感覚情報を処理する装置です。固有受容覚などによる身体情報やそれらに基づいて、或いは協調して視覚や聴覚、嗅覚、その他の感覚などによって外環境情報を収集し、処理していく装置のようなものです。

その、頭頂葉・後頭葉などの装置は、側頭葉などと連携してより詳細な身体情報と外環境情報を脳の中に作り上げます。ここに延長意識が介在する余地はありません。これらは無意識下の情報処理です。

そういった側頭葉や頭頂葉の情報は、前頭葉に運ばれ、外環境と身体情報から起こすことができる行動出力パターンが絞られていき、最終的に適切な運動出力情報に変換されていきます。その運動出力情報は四肢に伝達されると同時に頭頂−側頭葉に運ばれて、運動主体感覚野身体所有感覚となったりしながら身体情報を更新していく様なシステムとなっているわけです。

これらの情報処理のなかで、「延長意識」が関与したり、「延長意識」というものを生み出すところは無いのです。


脳損傷などの症例を見ていっても、延長意識と行動が結びつきにくくなることはあっても、延長意識そのものがなくなることは無いのですよね。


不思議ですよね。

「延長意識」は何処で造られるのか?

「延長意識」はなぜ造られているのか?


ガザニガの「人間とはなにか」という本を読んでいると、それに対するひとつの答えが書いてある様に思います。

受動意識仮説。

延長意識というのは、脳の無意識下による情報処理の結果を受けて起きた行動などについて左脳が解釈を行っているものなので在ろうという仮説なのです。


人の脳は、なにかしらの解釈(理由)を要求する,或いは必用とする様にできているようです。

もしかすると、それは、外環境に適応する際になにかしらの因果関係を想定し、記憶することで、過去に経験した環境情報によって、現在の外環境に対する適切な行動を素速く起こすためのメカニズムであり、自らの意思で行動を選択したと勘違いをさせることで記憶を強化しているのかも。


仮説はともかく、脳の情報処理はなにかしらの理由が欲しくなるように仕組まれているのはどうやら事実のようです。

これはどのような事に対しても同じです。


例えば、このブログの前に、三瓶山と金言寺大銀杏の記事を書きました。

私は、こういった記事を出すことで、少しでも人の探索行動を起こそうとする情報処理を刺激しようと思っているのです。探索行動は生物に備わっている本能のようなものだと考えていますので。( ◠‿◠ )

外に出たくなる。そういった行動選択が起きれば、運動機能の改善に役立つだろうと思うからです。

しかし、そういった論理も私の中の情報処理をあたかも論理的に説明するためだけの後付けのものなのです。

私が本来持っていた情報処理のバイアスは、例えばこの事業が軌道に乗らなければ生活がままならないとかそういった予測の元、最大の脳内報酬を得るために選択された行動を良い様に美化しているのかも知れないです。そもそも、バイクに乗って気持ちよくなりたいとか、自分自身が探索行動を起こしているといった比較的単純な情報処理を、さも良さそうな理屈を構築しているだけかも知れないと言うわけです。

そういう風に考えるのが、「受動意識仮説」という視点から見た,延長意識なのです。

たぶんね。


とすると、「やる気」というのはどういった風に見えるのでしょうか?


おそらく受動意識仮説から見れば、結局、「やる気」というのも、後付けの論理なのです。

行動を起こそうという情報処理が起こったのか、行動を起こさないという情報処理が起こったのか。

それを、延長意識が先行していると勘違いすれば、「やる気があるからやった」とか、「やる気が無いからやらなかった」という論理になる訳です。

それは情報処理の結果に対する理屈づけであるわけですから、その論理自体に意味はそこまでありません。

重要なのは、その意識を生み出すに至った、元となる情報処理なのです。


身体情報が、外環境に適応すべきと判断したか否か。

それこそが大切な情報処理なのでは無いかと思うのですよ。



言語化された延長意識。

「もっと自由に歩ける様になりたい。」


言語化された延長意識よる疑問。

「なぜ、こんな風になったのか?」


それらの延長意識に大きな意味は無いのかも知れません。

私は、大きな意味はないと考えています。


医療の中で歩くことが転倒の不安や身体の痛み、局所的な疲労などによって、しんどいから自由に歩けるようになりたいと考えたとか、動くことがそういった事でしんどいからその原因に理屈をつけようとしている、あるいは、再発の不安から解放されたいと言う無意識下の情動が、病気に至った原因を延長意識上につくろうとしているとか、そういった分析が可能であるとすれば、例で上げた延長意識にも意味が生じてくるのかもしれません。


つまり、最も大切なのは、なぜそういった延長意識が生じたのかという、脳の情報処理上の「起点」だと思うのです。


ところで。延長意識はともかく、「意志」というものを軽視しているわけではありません。

「意志」とはなにかと言った事を考えると、個人の持っている道標みたいなものなのでしょう。


「道標」を持つには、記憶が必用です。

記憶が存在するから、将来の予測が可能となります。

予測と言っても延長意識に上るものだけを指すわけではありません。

最も重要なのは、無意識下の予測だと思うのです。脳内報酬が最大になるためにどの様なバイアスを情報処理にかけるべきかと言った無意識下の情報処理に対する予測こそが重要なのだろうと思うのです。

言語化されるのは、その一部であったり、あるいはまったく違うものかも知れないのです。

しかし、いずれにせよ、予測に基づいた「道標」と言うべきものが、「意志」と言われるものだろうと思います。


記憶に基づいた道標。

その情報処理は重要です。

これこそが、脳の情報処理を最適解に導くためのバイアスとして存在しているはずなのです。

ですので、「意志」は重要だと考えているのです。


ただ、「意志」の情報処理に関する延長意識は後付けの論理ですので、そちらには大きな意味は無いのかも知れません。


受動意識仮説。


私は、現在、受動意識仮説が最も人の行動を論理的に捉えることができる仮説だと思っています。


だけどですね。

そんな想いや思考も、受動意識仮説の中では、後付けの論理にしか過ぎず、真実は霧の中の曖昧なものになってしまうのです。

面白いでしょ。


フロイトは、自我の奥にある超自我の存在を指摘しました。その感性はやはり、天才だと思ったりするのです。


例えば。

私は、脳損傷に対するアプローチを生業にしようとしているのです。そのことに関して、


もっと上手くなりたい。

もっと知りたい。

と考えています。


そういった想いも、何か私の中にある情報処理を言語化したものです。すなわち延長意識なのです。

それがなぜそう思っているのかなど、本人にもわかりゃしないわけです。

人は亜社会性をもつ動物に分類されます。

社会の中で生きている以上、社会に貢献し自らの存在意義を構築し、社会の中で居場所を確保しようとする非常に本能的な情報選択なのかも知れません。


さてさて。

やる気と言われるものの神経機構を考えてみます。

やる気という概念は、大雑把に言えばある行為に対して行動を起こすという情報選択を優位にしている状況と見ることが出来るかも知れません。

例えば、水を飲みたいという生体の反応が起きている時は、水を飲むという事に対してやる気が在ると評価しても良さそうに思います。


やる気に関わる神経機構として腹側線条体という部位があります。

線条体とは、基底核の入力部を指す言葉です。

尾状核,被殻などが線条体として知られています。

腹側線条体とは、腹側に在る基底核への入力部といったイメージで捉えられる様に思います。

扁桃体が、動機や適応行動と密接な関連があるとされていますが、扁桃体は多くの投射繊維を線条体に送っていて、線条体の機能を使って行動の開始や行動のパターンに関わっていると考えられています。




腹側線条体の一部である側座核は、大脳皮質下に左右対象にひとつずつある神経核です。

中脳ドーパミンニューロンから豊富な投射を受けています。

また、中脳ドーパミンニューロンの別の投射先である、前頭葉領域〜特に眼窩前頭皮質や内側前頭前野からの投射も受けています。

他に、海馬などからの入力も有ります。

腹側線条体からの出力は、腹側淡蒼球、腹側被蓋野、黒質緻密部、黒質網様部などとされています。どうやら、側座核というのは、腹側線条体の中でドーパミンの制御を受けつつ、腹側線条体のドーパミンなどを介した神経機構の調整をしていると云うような形で線条体の働きの調整を行っているようですね。


ドーパミンの受容体にはD1~D5などの分類があるようですが、側座核にはD1受容体とD2受容体があるとされています。

ここで、線条体へのドーパミンの働きを整理するために、基底核の働きについて一度思い返しておきますね。



大脳基底核の経路としては、ハイパー直接路、直接路、間接路があるとされています。

大脳基底核の基本的な働きは抑制性出力の調整です。

出力部である、淡蒼球内節や黒質網様部からはGABAという伝達物質でターゲットシステムを制御します。

この出力部からの情報が多くなれば、ターゲットシステムは強く抑制されるのですね。


青矢印が促通性の働きを示していて、黒矢印が抑制性の働きを示しています。


最初に働くのは接続が最も早い、一番左にあるハイパー直接路です。皮質からの興奮性の情報を視床下核に送っていますので、視床下核は興奮性の情報を淡蒼球内節や黒質網様部といった大脳基底核出力部に送ります。

すると、大脳基底核出力部は沢山の抑制性伝達物質でターゲットシステムを抑制します。


次に働くのは、直接路です。皮質からの興奮性の情報が、尾状核・被殻と云った大脳基底核の入力部に運ばれます。すると、尾状核や被殻の抑制性ニューロンが強く働くので、基底核出力部は強く抑制されます。出力部は抑制性に働くので、抑制を抑制することに成、これは結果的に促通と云うことになりますよね。こういったメカニズムで直接路はターゲットシステムの抑制を解放します。


最後に働くのが間接路。最初の入力は尾状核と被殻を促通性に働かせます。すると、強い抑制性信号を淡蒼球外節に送ることになって、淡蒼球外節は視床下核への抑制出力を弱めることになります。そうすると、視床下核は抑制から解放されて基底核出力部に促通性に働きかけることになります。

そうすると、基底核出力部は、ターゲットシステムを強く抑制することになるわけです。



大脳基底核は、ドーパミンによって調整されていることは有名ですよね。

では、ドーパミンはどのように基底核を調整しているのかと云うことを考えてみます。


黒質緻密部からでるドーパミンは尾状核や被殻に投射されているわけです。

ということで、直接路と間接路の調整をしていることになります。

直接路にはD1受容体があります。この受容体はアセチルコリン作動性ニューロンの投射を受けています。

黒質緻密部からでるドーパミンは直接路に投射しているアセチルコリンニューロンに対してはD1受容体に対して抑制性に働きます。ここに抑制性に働くと云うことは、尾状核や被殻の抑制性の出力は促通されると云うことです。所が、黒質緻密部は直接尾状核や被殻にあるD1受容体に促通性に投射しているので、結果、調整された抑制性出力が大脳基底核出力部に送られることになります。

間接路にはD2受容体があります。黒質緻密部からでるドーパミンはD2受容体を抑制性に制御するようです。すると、淡蒼球外節は抑制から解放され、視床下核を強く抑制性に制御する事になります。すると、大脳基底核出力部は促通の要素が減少するので、ターゲットシステムの抑制が調整されると云うことになるでしょう。


つまり、ドーパミンはこうやって直接路によるターゲットシステムの促通の程度や間接路によるターゲットシステムの抑制の程度を調整しバランスを取っているのです。



さて、側座核に対する出力がどのように働きに影響しているのかと云うことですが、以下のような研究があります。



やはり、腹側線条体。線条体と同じくドーパミンに対してD1受容体とD2受容体で反応を変化させているようです。

この研究によると、側座核のD1受容体は、報酬期待をさせる感覚情報によっておこるドーパミンの投射の変化刺激による反応を汎化させる働きを持っているようです。促通系ですね。

D2受容体は、感覚情報による報酬期待と実際に得ることの出来た報酬の程度の差を検知して報酬期待ほどの報酬物質を得ることが出来なかった場合に、そういった刺激を弁別して反応を変化させるようですね。これは抑制系の働きといえそうです。

書いてしまうと単純な反応ですが、こうやって行動を選択し反応形態を変化させて適応行動を取っているというわけです。


お気づきかも知れませんが、側座核や線条体の働きは無意識下のものです。

こういった生命を維持するための無意識下の機構があらゆる行動や言動に影響を与えているのは間違いないと思います。


側座核。大切ですよね。

リハビリテーションにおいては、この側座核を行動の汎化につながるように、つまり報酬系に働きかけることがとっても重要なのだと云うことになります。

その方向性も大事なんですけどね。片手出てきたことに報酬がでるように調整するのか、あるいは、麻痺側の感覚がわかるように調整するのかとか。

色々ですね。

あ、前に書いた延長意識による意志・意図といわれるものを記憶だとすれば、記憶の座である海馬の出力部である海馬台と側座核は接続を持っています。

意志・意図による行動の制御があるとすれば、この接続が関与していることになります。

ただ、意図も側座核の反応も本来無意識下の情報選択なのではあります。



対象となられるかたが今起こしている行動や言動に惑わされずに。

今何が一番報酬系を阻害しているのかと云ったことを出来るだけ正確に予測し、麻痺したところが動くことが楽しかったり、新しい感覚経験が楽しいと思えるようなリハビリを提供したいなぁと強く思います。

(*^_^*)


あ、この記事はすべてが正しいと思わないでくださいね。

私の記事の多くは神経生理学とリハビリテーションのつながりの面白さがお伝え出来ればと思って書いております。

後はご自分で興味を持って調べてみてくださいね。


<m(__)m>


2023/11/09 追記

ご存じと思いますが、側座核の興奮は行動を起こすとそれでも起きるようです。

憶測ですが、行動を起こすというのはともかく、大脳基底核(背側線条体)の働きを起こすこととなりますので、その調整のために黒質緻密部はドーパミンを出すことになります。それは、腹側線条体にも投射されるという事であれば、行動を起こすと無意識下でやる気と言われるものが後からついてくる事もありうると思うのです。

取りあえず、動いてみるというのは良いことなのかも知れないですね。

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