ガザニガの「人間とはなにか」を読んでいます。
面白いですね。
「私」と「あなた」を区別する仕組みと言うところからよみすすめたのですけれど、視点取得の話が出てきました。「私」が「あなた」の立場になって「あなた」が何を見て何を感じているのかと言った他者を考え、さらにその視点を自分の行動選択に反映させることがどういうことなのかと言ったような話題だっのだと思います。
「私」と「あなた」を区別するためにはまず、自己が自身のものであるという感覚が必要です。リハビリの世界では、Body Schemaと言われるものに近いのかもしれません。途中に角回の話が出てきていました。角回の損傷では離脱体験が起こることが知られています。
右の角回を含む下頭頂小葉には地球という環境課で自分を定位し自分の身体の位置関係を知るための情報処理がなされているものと思われます。
だけどたぶんこれだけだと不十分です。人は常に動いているので、その動きを知覚する必要があります。運動主体感覚というもの、つまり自分が「こう動こうとした」という情報と下頭頂小葉において「動いた結果こうなっている」という情報が一致しないと自分自身や自分の手足などの位置関係を見失ってしまう事になります。
そのため、上縦束で前頭葉と下頭頂小葉は繋がっていて、前頭葉で行われた情報処理で決定された行動/運動プログラムは下頭頂小葉にも送られていて、そこで行為/運動とBody Schemaが情報として比較統合されることで運動主体感覚/自己所有感が生じるのでは無いかと言われています。
それらの処理で「私」が「私」であるという知覚が生成されているのでは無いかと思っています。
「私」が「私」であるので「私」がミラーニューロンシステムなどで感じる「あなた」の感覚と「私」の感覚を弁別できるようになるのでしょう。
さらに面白いのは、この視点取得を使って社会性のある行動を選択するためには「私」の行動選択に「あなた」の思考や行動を反映させる必要があるので、「私」の行動を抑制する必要があるのだという話が出ていたことです。
おそらくこれは辺縁系-基底核ループや前頭連合-基底核ループの働きによるものでは無いかと感じました。
基底核の機能で、ハイパー直接路が必要以外の情報を抑制している可能性があるとの報告があります。
であれば、強力な抑制出力を持つ基底核の働きを持って弁別した「私」と「あなた」の情報の中で最も最適な行動様式を選択するために「私」を主体とした選択肢を抑制しているのでは無いかと思うのです。
これは右脳(劣位半球:この劣位という表現が好きではないので一応右脳と書きましたが人によっては左脳かもしれません)に強い働きなのだろうと推測されます。臨床的に右脳損傷の方の脱抑制と言われる症状があります。環境に対して適した行動を選択するより自己中心的な言動や行動が目立つような症状です。これなどは「私」と「あなた」をキチンと区別できなくなっているからなのではないでしょうか?
おそらく、右の下頭頂小葉の損傷、もしくは上縦束の損傷により前頭連合野と側頭頭頂連合野の情報連絡が上手くいかなくなることで前頭葉の基底核ループの働きが落ちるのでは無いかと推測できると思います。
だとすれば、そういった症状のある人であればあるほど、麻痺側からの感覚をしっかり入力していってそれらの情報が下頭頂小葉で処理されて前頭葉に運ばれるようにしていくことと、それらが辺縁系ループや前頭連合野ループの中で環境に適した選択をするといった経験を積んでいくことを学習していくようにリハビリを進める必要があるのではないかと思います。

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