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執筆者の写真Nagashima Kazuhiro

ハイパー直接路

更新日:2021年9月7日

基底核の回路はハイパー直接路/直接路/間接路の3つで構成されています。

それぞれの回路は基底核の出力部である淡蒼球内節/黒質緻密部の興奮性を調整しています。

この出力は、視床を介してターゲットシステム(出力先)を抑制していますので、基底核の出力部の興奮性が高くなればターゲットシステムの活動性は低くなり、出力部の興奮性が低くなればターゲットシステムの活動性は高くなります。


図示すれば、こういう関係性になります。


例えば、ですけれど。

曲げて止まっている肘を伸ばすという情報が高次運動野から基底核と一次運動野に出力されたとします。


角度にかかわらず止まっている肘の筋の張力は主動作筋と拮抗筋が50%:50%ぐらいの状況にあるという状態です。

最大出力で肘を伸ばすときの筋出力の関係は主動作筋の肘伸筋群の出力割合が54%程度に変化します。同時に拮抗筋は46%程度に抑制されています。この筋出力のバランスで肘が伸びるわけです。

同時に考えておかないといけないのが一定の角度にある肘関節に対して主動作筋と拮抗筋がそれらの筋の持っている出力のどの程度で50%:50%にしているかと言うことです。

仮に筋出力の最大値を100%として80%ぐらいの出力で主動作筋と拮抗筋のバランスを50%:50%にしているとしましょう。

このとき筋繊維は強く収縮していますので、筋内膜、筋周膜、筋外膜は強いテンションを生じています。それらの膜は腱組織となって骨に付着していますので、起始部と停止部から引っ張られているような感じになっているはずです。筋周膜には筋紡錘が埋め込まれていますので、これも一緒に引っ張られていることになります。

ガンマ運動ニューロンも働いているでしょうが、構造的に筋紡錘は発火しやすい状態に有ると言えるでしょう。すると脊髄レベルでも筋に対して興奮性を高めるような情報を作り出していると推測できます。

その状態で、中枢神経系が伸展のために伸筋群の出力を送っても拮抗筋である屈筋群は上手く相反抑制を受けることが出来ないのでは無いかと思います。筋紡錘の興奮によるγループの支配で筋の緊張をあげようとしているわけですから。結果、力が強く入って均衡している肘関節はスムーズに素早く伸ばすことは出来る状況にはなさそうです。


ほら、ボクシングのパンチを出す際に、一瞬力を抜かないといけなかったりとか、過度な緊張で手先が上手く動かなかったりとか。あんな状態です。


動き始めに対して、一瞬筋緊張を落とすというのは動き自体をスムーズにするために必要な出力調整だと考える事が出来ます。

それを行っているのがハイパー直接路だと理解するのが一番単純な理解の仕方では無いかと思います。


この考え方は、高次運動野が肘を伸ばすという命令を一次運動野の上腕三頭筋や上腕二頭筋の領域に出していて、高次運動野から肘を伸ばすと言った情報が基底核から視床を介して上腕三頭筋や上腕二頭筋に調整命令をあげた結果出力調整を行っているという非常に単純化した構図で考えたものです。細かい入出力関係の研究はまだ見たことがないので、確実なものとは言えませんけれど。

とりあえず行動とかでは無くて、単純化した一つの関節の動きを見た場合の基底核の働きとして抑制−促通−抑制といった働きの調整を基底核がしていると言うことはなんとなく理解が出来ます。


最近の実験でハイパー直接路のみを損傷させたらどうなるかというものがありました。

生理学研究所の研究だそうです。



これによると、始めに書いたハイパー直接路の働きはそうなんですが、一週間後からマウスの運動量がコントロール群と比較して上昇したと言うことなんですね。

これがそうだとすると、行動決定や運動決定のあたりのループで起こすべき行動以外の行動を抑制するメカニズムの一端をハイパー直接路が担っているのかもしれないですね。

なんだか面白い・・・。


この記事を書いていて、以前の基底核の記事に使った資料を見ていたらハイパー直接路の矢印の位置を間違えていることに気付きました。






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