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執筆者の写真Nagashima Kazuhiro

トランスサイエンスとリハビリテーション

更新日:3月29日



トランス・サイエンス(Trans-Science)とは 科学を超えていると云う意味です。

具体的には、以下の様に言われています。


questions which can be asked of science and yet which cannot be answered by science 

〜科学に問うことはできるが科学に答えることはできない問題


例えば、地球温暖化とか、地震予知などの地球環境問題もトランス・サイエンスに分類されます。

双方ともに、様々な情報に流されて迷走していますよね。(^_^;)


2011 年の,いわゆる東日本大震災が地震学界 に与えた衝撃は測り知れないものがあったそうです。その後、地震を研究する川 勝(2012)は,「トランスサイエンスの領域にい ながら『科学で解決できる』と信じてことに当っ ていることに,研究者・地震学界の苦悩の始まり があるのではなかろうか」と述べているそうです。



人に関わる科学は医学などを含め、それらは基本的にトランス・サイエンスと言えます。


こういった問題が端的に表れたのが、大野病院事件ですね。

もうご存じない方が多いかも知れません。

その時代を共有できる方は、この事件で日本中の産科医療が崩壊した時期があることを思い出されるのでは無いかと思います。

詳しく知りたければ調べて欲しいのですが、お産の最中に癒着胎盤が解り、癒着剥離(用手剥離)をした際に出血多量で母親がお亡くなりになったという悲しい出来事です。

お亡くなりになられた方にはご冥福をお祈り致します。


さて、遺族と検察側の言い分では、癒着胎盤であると認識した以上、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行することが本件当時の医学的準則〜つまり科学的な基準であったとして医療ミスを主張されておられた様に記憶しています。

しかし、この医師が取った徒手的な手法は比較的一般的に用いられていたもので、こんなことで訴えられては産科医師の仕事のリスクが高すぎると考えられ、多くの産科医が大学病院に呼び戻される事態となりました。大学病院としては医師を守るための手段だったのでしょうね。

そして、日本の産科医療は崩壊に向かったわけです。


この産科医療崩壊は医療者側ではなく、医療を受ける側が科学的な根拠であったり手法であったりを、科学的であれば正しい、悲劇を回避できたと勘違いされた結果起きた悲劇です。


脳卒中リハビリテーションの分野では、早期離床のAVERT studyがありますね。

これは、脳卒中のリハビリテーションにおいて、早期離床が効果的であるとして、24時間以内にリハビリテーションを開始するのが良いとされた時期がありました。

個人的にこれはやばいと思いましたね。

急性期の病院に勤めていたので、BADなどの病態などは血圧の変動等の要因で画像所見が進行することがわりと一般的でしたし、ペナンブラ領域も同様に血圧、脳血流の制御が必用だと考えていました。そもそもペナンブラ領域は循環が充分で無い場合も多く、酸素やエネルギーが乏しい状態でそれらの神経細胞群を興奮させることが是とは考えられなかったのです。

程なく、2015年にAVERT studyという研究がありました。この研究によって超早期にリハビリテーションを開始した場合,転機は改善しないと云う結果が報告されたのです。まぁ、これも少し研究手法がどうかとは思いますが,まぁそれは置いておきます。

これ、良くなるというお話で、24時間以内にリハビリテーションを開始して、返って悪くなった人や死亡に至った人もおられたはずなんですよね。

現在では、急性期病院での対応も変わっているとは思いますが、これなんかも、それまで行われていた早期リハビリテーションの研究が科学的で在り、正しいと信じたことによって起きた弊害だろうと考えられます。


軟部組織損傷に対する対応なども同じようなことが起きていましたね.

昔はRICE処置が有名でしたが、色々な経緯を経て現在はPEACE & LOVEが提唱されていることは皆さんご存じのことと思います。昔は冷やすことが是とされていたわけです。冷やすと組織の炎症物質の検出量が減ることから炎症が改善していると考えたのですね。たぶん。

ところが、炎症そのものは組織修復のプロセスであるわけです。炎症が必要な時期はむやみに炎症を抑えると良くないというのが現在の流れです。抗炎症剤も同様の理由で過度な使用は望ましくないと考えられています。

炎症が減少するという事と、組織の改善が起きているというのは異なることだったんですね。冷やしたり抗炎症剤を投与すれば炎症物質が少なくなるというのは科学的だとしても、炎症物質の量が減ることと組織の回復という事は直接結びつける事が出来ないはずなのです。当時はRICE処置がサイエンスだと信じていたのでしょうね。



この手の話はですね。

医療全般、リハビリテーション医療においてもゴロゴロとあるわけです。

枚挙にいとまが無いと言えば良いのでしょうか。


それらは、「トランスサイエンスの領域にい ながら『科学で解決できる』と信じてことに当っ ていること」によって引き起こされている事象と言うことが出来ます。


科学が必要ないという事を言っているわけではありません。私だって、頑張って論文に目を通したりしているのですよ。(^_^;)


自らの立ち位置がトランス・サイエンスの領域であることを自覚して、その上でサイエンスを論理的に考えて行くことが大切だと思うのです。

トランス・サイエンスの領域にいるという自覚がなく、「科学で解決できる」と考えてしまうのは、もはや宗教です。


ですから、学び、自ら考えながら臨床を行っていくことが大切なんだろうと思うのです。


先日、PT.やOTの国家試験の結果が発表されたようです。


これから臨床に向かう新人の方達に「私たちがいる世界は科学で問うことが出来ても、科学に答えることが出来ない世界なのです」という事をお伝えしたいなぁと思い、こんな事を書いてみたのです。


どうぞ、臨床の中で自ら学び、自ら考えてくださいね。

答えは科学の中に在るのでは無くて、常に対象となる患者さんの中に存在しているのです。


科学に患者さんを当てはめるのではなくて、患者さんの中に科学を見つけてください。

<m(__)m>




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