くも膜下出血後脳血管攣縮期の治療の記憶
- Nagashima Kazuhiro
- 6月21日
- 読了時間: 3分

2010年ごろの記憶としてのお話です。
当時、くも膜下出血後の脳血管攣縮に対するリハビリテーションの関わり方について、科学的に確立された因果関係や明確なエビデンスは、少なくとも私の知る限り存在しませんでした。これは複数の脳外科医の方に尋ねた上での感触でもあります。
私は経験的に、脳血管攣縮の時期には、👉 細かな運動の促通やダイナミックな活動を行うと、脳梗塞を起こすリスクが高まる可能性があると感じていました。これはあくまで、長年の臨床経験に基づくものでした。
そのため、私は当時、「患者さんが動かないことによるストレスをできるだけ軽減すること」を意識し、脳の活動性を過度に上げないよう注意していました。
ある患者さんのケースです。その患者さんは、他の病院で理学療法士をされている方のお母様で、私は上司の療法士とペアでリハビリを担当することになりました。
私は、そうしたリスク意識は誰しも持っているものと思っていましたし、上司も慎重に対応するだろうと信じていました。
ところが、脳血管攣縮が起きている最中、上司は細かな運動を積極的に促通し、「動きが出た」と報告してきました。
私は驚き、同時に「何も起きなければいいが……」と漠然とした不安を感じました。
そしてその夜、その患者さんは脳梗塞を発症されました。
もちろん、これが直接の因果であったかどうかは、今も私には分かりません。
ただ、その介入が引き金となった可能性を完全に否定することもできない──そう感じたのです。
最近、くも膜下出血に出現する広範性脱分局(CSD)に関する記事を読み、あのときの記憶がよみがえりました。
脳の興奮性が過剰になると、やはり血流の問題が起きうることが示唆されています。
運動促通は、麻痺を起こしている原因となる損傷部位周辺の脳神経細胞の活動を引き出そうとする試みです。
そのため、こうした介入がCSD(皮質拡延性抑制)のきっかけとなる可能性は、臨床的な経験からも、神経生理学的な観点からも十分に考えられるものだと私は感じています。
あの時の不安は、決して的外れではなかったのかもしれません。
件の上司はその後「リハビリテーションは無力だ」と言いました。
けれど、私は今でもこう思っています。無力だったのはリハビリテーションそのものではなく、急性期リハビリが患者の予後を良くするというエビデンスを無邪気に信じ、目の前の状況に合わせた慎重な判断ができなかった私たちの側だったのだ と。
私は今も自分の判断が正しかったのかどうか確信は持てません。
ただひとつ、強く思うのは
──科学には限界があり、その限界を常に意識しながら臨床に立つこと。
これこそが、変わらない真実なのではないかということです。
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