Nagashima Kazuhiro

2021年5月24日5 分

脳の神経回路網以外の要素

この図は高草木薫先生の資料からです。

A:Rostral Pons(吻側橋)

B:Caudal Pons(尾側橋)

C:Medulla(延髄)

各領域での5−HT(セロトニン)とCarbachol(コリン系)の分布状態の変化と回路の働きを示している図で、赤い丸が抑制/青い丸が促通をしている状態です。

コントロール群を基準にして、セロトニンを優位にすると促通されている領域が広く、コリン系を優位にすると抑制されている領域が広くなっていることが図示されています。

橋/延髄の構造は以下の図(神経システムが解れば脳卒中リハ戦略が決まる」より)を見てください。

高草木先生の資料と見比べていただければかなり多くの経路が影響を受けていることが解ります。

姿勢制御の要といえる橋網様体脊髄路/延髄網様体脊髄路だけでは無く、外側皮質脊髄路もこの5-HT系/Ach系の濃度分布の影響を受けていることが解ります。

皮質がいくら働いていても、脳幹のAch濃度が高ければ運動抑制が起こるため、運動は起こらないもしくは弱いと言うことになります。

反対に5-HT系濃度が高ければ運動促通が起こり、皮質脊髄路の働きは手足に伝わっていくことになります。

例えば睡眠中はAch系が優位なのだろうと考えることが出来ます。夢を見ていても四肢にその情報は届かないのである程度じっとしていることが出来ます。

何らかの問題で睡眠中に5-HT系が優位であったら夢遊病のように眠りながら歩き回ったりする事になります。

おそらくですが、睡眠中にじっとしていて身体のどこかに違和感,例えばベッドとの接触面が暑くなってきたとか,側臥位でじっと寝ていたら下の肩が少し痛くなってきたというようなことが生じると、それが意識に上る前,あるいは少し意識に上った時点で脳幹はやや5−HT系が優位になると仮定すると、無意識下で寝返りをうったりすることも説明できるのかもしれません。

覚醒に関して言えば、視床と前脳基底部が大きな関わりを持っています。

視床の発火パターンは睡眠中と覚醒中では異なっていることが知られています。睡眠中はバーストモードなのですが、この状態の時の視床と皮質に、セロトニン/アセチルコリン/ノルアドレナリン/ヒスタミンなどを投与すると、視床の発火パターンは単発射モードとなり、覚醒状態になると言われています。脳幹からの神経伝達物質のバランスなのだとは思いますけれど。

前脳基底部は脳幹の縫線核群からセロトニンが放出されるとそれが前脳基底部のアセチルコリン神経を刺激し、脳全体を賦活していきます。

以前書いたのですが、アセチルコリン投射系が賦活されると大脳皮質の抑制性介在細胞の反応性が増大し、興奮性細胞の抑制が速やかに起こることで次に来る刺激に対する反応性が高まり、結果注意や認知を適切に保てるというシステムを持っており、認知や注意に大切な機能を持ちます。

運動のことも併せて考えると、脳幹においてセロトニンが優位になると前脳基底部からアセチルコリン投射系が賦活される。同時に、様々な運動の経路は促通されるという組み合わせになるわけです。

橋/延髄網様体脊髄路との関連で言えば、伝達物質の側面から考えると抗重力伸展活動と高次脳機能に密接な関連性があると言うことも出来ます。

こうして、別々のように見える姿勢/運動と高次脳機能は脳の根っこにある脳幹でも結びついていることがわかります。

こういったことを見ていくと、様々な神経回路網は神経伝達物質によって支えられているということが解るかと思います。

次は、「間質液」の話題になります。

脳脊髄液が脳実質にしみこむことで間質液(細胞間質液)になります。

これは無色透明で様々なイオンを含んでいる液体だそうです。

ニューロンの活動は、細胞の外側と内側のイオン交換によって活動を行っています。

間質液はナトリウムイオンが多く、カリウムイオンが少ない状態で運ばれてきます。ニューロンはエネルギーを使ってポンプを駆動し、ナトリウムイオンをくみ出してカリウムイオンを取り込んでいます。(静止膜電位)

ニューロンが興奮すると、細胞の内側にナトリウムイオンが多い状態になりその後カリウムイオンを放出します。間質液に放出されたカリウムイオンは速やかに回収されて元の状態に戻るように出来ています。

何らかの理由でニューロンの興奮状態が続くと、間質液のカリウムイオン濃度が高い状態が続きます。その状態が続くと神経細胞は適正な状態に戻るためエネルギーを使い、そのうちエネルギーが枯渇して死んでしまいます。

ですから、間質液のイオンバランスを一定に保つ機能が神経伝達においてとても大切なことだと言うことになります。

この間質液を常に正常な状態に保つためには間質液の交換が必要だと言うことになると思います。

これを支えているのがアストロサイトのアポクリン4による液交換のシステム、グリンファティックシステムです。

また、間質液は様々なイオンを持つため、脳全体として電気を蓄える能力があるそうです。

そしてその電気を蓄える能力は周波数によって変化するそうです。

低周波では電気を蓄える能力が高まるとか。

ニューロン集団が作る脳波の振動自体が脳の電気特性を変化させると言うことらしく、それであれば間質液などによる情報伝達と言ったことも起きている可能性があります。

このあたりの文章は、「脳を司る「脳」:毛内拡」という本からです。

この本もとても面白いので是非読んでみていただきたいのですけれど。

そのほか、まだ未発見の事象は色々あるはずです。

これらのことが、私が神経回路網だけで脳は説明できないと考えている基盤になっています。

神経回路網はとっても重要だと思います。

神経回路網ではすべてを説明できないことを知って、神経回路網のことを学ぶ。

学んだ知識で、対象となる人の行動や動きを理解しようとする。

そして、行動や動きの理解できないところを無理矢理回路網の知識にはめ込むのでは無くて、ほかの様々な知識で補完していくように推論を重ねることが、大切なのでは無いかと考えていたりするのです。

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